第4-2話 中編
◇留置場
昼を食べ終え、再び真琴と珠希は、留置場に行くと、朝とはうって変わり、憔悴した様子の小林が出てきた。
席に着くと開口一番
「すみません。サインしてしまいました」
「そんな!?」
珠希が驚く。
「やはり、凶器の指紋と被害者の証言、それと過去のSNSの投稿ですか?」
「はい、何度も知らない、やってないと言ったんですが、刑事さんも検事さんも話を聞いてくれなくて。頼みの綱のファミレスの防犯カメラにも、映ってなかったようで…
それに、逮捕のニュースを受けて、今家族は犯罪者の家族として、世間から非難されているそうですね。
早く認めないと家族が世間からさらに過酷にバッシングされると刑事さんにいわれて、怖くなってサインしてしまいました」
「分かりました。調書にサインしてしまった以上、小林さんが無実だという証明ができるよう我々も動きます。どうか、不安にならず任せてください」
珠希が不安がる小林を励ます。
その励ましが功を奏したのか、小林は少しは安心したような顔つきだった。
◇小林家
真琴と珠希は、依頼主である小林かすみに呼び出され、小林家にお邪魔している。
小林かすみは、憔悴していた。
息子が無実の罪でとらえられて、相手が人気声優だけに、世間からのバッシングは燃え盛っていた。いわゆる炎上というやつだろう。
SNSもインターネットもテレビも、浩が犯人だと決めつけ、無責任にコメントする。家の壁にも人殺しなどの落書きがされ、中野恵理さんのファンと思われる方々が家に石を投げてくる。
だれもが見えやすい正義に踊らされて、悪とみなしたものをとことん陥れる。
会社も冷たく、夫婦そろって謹慎で仕事をすることすらままならない。
「先生、どうにかなりませんか?」
かすみは一縷の望みをこめて、珠希の手を握る。
「辛かったですね。大丈夫ですよ。私たちが事実を見つけて、無実を証明します」
あと、家にいるのが厳しければ、カプセルホテルなどもお勧めですよ。
家にいると色々攻撃されてしまいますから、逃げるのも大事ですよ」
珠希は、温かい声でかすみさんが安心できるよう、励ます。
◇桐生法律事務所
早速検察から資料を取り寄せ、今回の事件の争点をあらった。
「なるほど…今回の事件の検察の筋書きはこういうことかぁ
まず、事件当日午後6:00にライブ会場を出た小林は、タクシーに乗りキャンプ用品店に行き、サバイバルナイフを購入。その後、事件のあった公園に向かい、中野恵理さんを刺す。しかし、怖気づいた小林さんは自ら救急車を呼び、また証拠のサバイバルナイフを抜いて、証拠を隠そうとしたと…
なお、現場にサバイバルナイフの空き箱と購入したレシートが落ちていた。
レシートには、購入日時が5/10の午後7時となっており、事件当日の購入となっている。購入当時の監視カメラの映には、顔が映っておらず、購入した男性は被害者と似たような背丈だった。服はどこにでも売ってそうな地味な上下のジャージ姿で映っている。警察は、身バレを恐れた小林さんがライブ後に服を着替えたと推測している。
でも、どうしてわざわざアイドルのライブの後にナイフを買いに行ったんだろうか?」
「それは多分、アイドルのライブは入り口で持ち物検査をされるからじゃないかな?私の推しのイベントの時も、手荷物検査あったからね」
真琴の疑問に珠希が答える。
珠希は実はアニメや声優オタクだったりする。
「なるほど、だからライブ後にナイフを買いに行ったという話になるのか…」
「あとは、なんで中野恵理さんは、小林さんを犯人としたかだね」
「ふむ…ここは中野恵理さんを知る必要がありそうだね」
「え!? ということは?」
珠希が期待のまなざしを向けてくる
「あぁ、声優事務所に行って話を聞く必要がありそうだな」
◇青空プロダクション
「うわぁあぁ」
声優事務所に着くと、珠希が感極まって、黄色い悲鳴を上げる
「この声優さんも、この声優さんも、みんなアニメにたくさん出ている皆さんだぁ」
珠希は小学校の社会科見学のように、興味深そうに周りを歩き回る。
「本来の目的と違いだろう、ほら行くぞ」
「はーい」
珠希を子犬のように掴んで、中野恵理さんの関係の深い声優さんをあたる。
「失礼します」
ノックをしてはいるとそこには、清楚で美人な声優が座っていた。
「はい? どちら様?」
「私は桐生法律事務所の桐生真琴です」
「桐生珠希です」
「弁護士さん…もしかして恵理さんの件ですか?」
「はい、少しお話うかがえませんか?」
「かまいませんよ。どうぞこちらに」
声優は椅子を開け、座るように案内してくれた。
「ありがとうございます。まず、お名前ですが、田中沙織さんでよろしいですか?」
「はい、あってます。」
「田中さんは中野恵理さんの同期で仲もよいを聞いています」
「えぇ、仲良いですね」
「中野恵理さんの件で、なにか気になることとかありませんか?」
「気になること…そうですね、特にないですね」
「特にないですか…」
「あ! しいて言えば、恵理さんのマンション結構広いんですよね。ドリフェス声優といっても、出演作が限られているので収入はあまり高収入とは言えないですが、それでも恵理さんのマンションは高そうで羽振りがよさそうでした」
「なるほど…それは不思議ですね」
「副業かなんかやっているのって聞いたんですけど、『秘密です』って笑ってごまかされてしまいましたね」
「なるほど…これは何かありそうですね」
「あ!因みに、吹田武久さんとの関係はいかがでしたか?」
「う~ん、私は絡みが少ないんで詳しくは分からないですが、最近は距離感があるように感じます。なんか他人みたいな、恋人とはいえないような冷めた感じです」
「距離感ですか…」
羽振りの良さと距離感が、なにかのヒントになればいいんだが…
「あと、吹田さんと言えば、声優の仕事終えると飲み会とかに誘っても、全部断るんですよね。お金がないってよく言って帰っちゃうんですけど、彼人気声優だからそんんなにお金に困ることないと思うんだけどね。
服もイベントで指定の服着ているとき以外は、ぼろい服着ていたり身なりがちょっと大雑把だよね」
「そうなんですね」
真琴と珠希は、証言をメモするとお礼を言って、次の関係者に話を聞いた。
真琴は珠希が歩いていると、
「ちょっと、ちょっと」
女性の予備声が聞こえ、振り返るとドアを少しだけ開けて、女性が部屋に入るように手招きしている。
「なんでしょうか?」
真琴が返事をすると、女性は「いいから入って」と促した。
部屋に入ると、女性は田中留美子と名乗った。
「田中留美子さん! 私、ファンなんです!アニメで拝見してます」
珠希はテンションが上がって嬉しいそうだ。
「あら、あなたファンなの?後でサインあげるわね」
「ありがとうございます」
「それで、何かお話したいことがあるんですか?」
真琴が切り出すと、耳を寄せるように手招きをして、小さな声で
「中野さんね、吹田さんに強請をやっているって噂があるのよ。
何で強請っているのか、そもそも本当なのかも曖昧だけど、調べる価値はあるんじゃない」
田中はニヤリと笑って僕たちの耳から口を離れさせた。
「なるほど、吹田さんを調べてみる価値はありそうだな」
真琴と珠希は、田中にお礼を言って、吹田のものに向かった。
「失礼します 吹田武久さんですね」
部屋に入ると、吹田は動揺した様子でこちらを見た。
「刑事か?」
「いえ、桐生法律事務所の桐生真琴です。事件のことで話を聞きたくて参りました」
「桐生珠希です」
二人は名刺を吹田に渡すと、吹田は少し安心した顔になり、席を差し出してくれた
「それで、何が聞きたいんですか?」
「まず、中野恵理さんとお付き合い初めてどのくらいですか?」
「2~3年くらいかな」
「そうですか、最近の中野恵理さんは羽振りが良いみたいなのですが、思い当たる節はありますか?」
「いやぁ、特にないな」
「そうですか。では、もっと直接的な質問なのですが、お二人の関係は良好ですか?」
「えぇ!? まぁ良好だと思うよ。特にトラブルもないし」
「そうですか…ありがとうございます」
「あと…」
「あ!すみません。もういいですか?」
すると、さきほどから時間を気にしているようで、そわそわしている。
「え、ええ。構いませんが、この後ご予定ですか?」
「えぇ、ちょっと野暮用で…」
そういうと、そそくさと出て行った。
すると、部屋にはどこかのバーのマッチ箱が散らばっていた。
何かのヒントにならないか帰り際に小さなマッチ箱が落ちていたんで、そっと拾って帰っていった。
「私、怪しいと思うの」
珠希はそういうと、事務所を出ていく吹田を尾行し始めた。
「こう、探偵の感がピンっときたんだよね」
珠希1人に任せておくのもあれなので、真琴も一緒に尾行を始めた。
素人の尾行だったが、意外と気づかれることなく、進んでいった。
吹田は電車に15分ほど乗り、歓楽街のある街で降りた。
そこからは歩きでどんどん進んでいく。
気づかれないように尾行すると、ついに目的地に着いた。
古いビルの地下に入っていった。その店は、小さなマッチ箱に書かれていたバーのようだ。
中にそっと入ると、静かなバーが広がっており、奥にはガタイのいい男たちが2名配置された大きなドアがあった。
吹田はその大きなドアを進んでいった。
真琴たちも後を追おうとドアに近づくと、ガタイのいい男2名が「会員証を見せろ!」と言ってきた。
「会員証は持ってないんですけど…吹田さんからの紹介で…」
とっさにうそをつくと、2人の男は「そういうことなら…」と、ドアを開けてくれた。
中に入ってみると、そこは…『違法裏カジノ』だった。
多種多様なギャンブルを多くの人が楽しんでいた。
吹田もルーレットに興じており、どうやら負けたのだろう。一気にチップを奪われていった。
「なるほど、だからいつも金欠だったのか」
真琴が納得して、周りを見渡すと珠希がいなくなっていた。
「あれ? 珠希?」
カジノの中を見渡すと、いかついガタイの男が珠希をナンパしていた。
酒に酔っているからなのだろうか、執拗に迫っていた。
「私、まだ仕事中で…」
最初はやんわりと断っていたが、男が無理やり腕を引っぱろうとすると、
「いやぁ」
と言って腕を払った。
すると男は激高し、
「このアマが調子乗るなよ」
珠希に襲い掛かった。
「やめろ!」
僕の叫びをむなしく、男は珠希に襲い掛かった。
すると、珠希は男の攻撃を避け、男のみぞおちに1発ストレートを決める。
たった1発で、男を泡を吹いて倒れた。
それには周囲もしんと静まり、その後ざわついた。
「だから、やめろって警告したのに…珠希は、喧嘩ならだれにも負けないからな…」
真琴は、吹田にバレぬよう急いで珠希を回収して、裏カジノを出た。
裏カジノを出て、逃げるように駅に向かった。
そして、電車に乗り込むと追手がいないことを確認して安心した。
「ふぅ、吹田さんにバレてないようだ」
「ごめんね、つい襲われると思って…反撃してしまった」
「いや、大丈夫だ。珠希が無事なら問題ない」
珠希は、亡くなった警察官だった珠希の父の影響を受け、武道に精通している。
剣道・空手・柔道・合気道・さらにはボクシングまで幅広く精通している。
「しかし、吹田さんに違法カジノ通いの裏があったなんてね。
でも、これ事件に関係ないっぽいよね」
「いや、まだ推論の域を出ないが、中野さんが羽振りがいい理由が、もしかしたら吹田さんの違法賭博の口止め料かもしれないな」
「そうか、だから最近は冷めた関係になったんだね」
「あぁ、吹田さん側から気持ちで払っている口止め料なら事件と関係ないかもしれないが、中野さんのほうから強請っていたとしたら、吹田さんにも動機が生まれる」
「なるほどね」
「さらに仮に強請っていて、その仕返しで刺されたのだとしたら、犯人が吹田さんだとバレると、強請っていたのもバレて、アイドル声優としてのイメージに傷がつくから、適当な犯人を仕立て上げたんじゃないかな」
「なるほど、確かに筋は通っているね」
「だが、これだけでは推論の域をでないし、小林さんの無実も証明できていない」
「じゃあ、ここからはそれを調べないとね」
「まずは、サバイバルナイフの店に行ってみよう」
真琴と珠希は、電車に15分くらい乗り、その後タクシーに乗って、キャンプ用品店に向かった。
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