第4話

第4-1話 助けたはずが犯人に… アイドル声優の危険な罠

私にあなたの無実を証明させてください。

ーーー99.9刑事専門弁護士 立花綾乃ーーー


真琴が朝起きると、台所から食欲をそそる良い匂いがした。

部屋を出て、台所を開けると、そこにはエプロンをした珠希がせっせと朝食の用意をしている。

「あぁ、懐かしいな、この感じ」

司法修習以来、真琴と珠希は住む場所が別々だったのだが、アメリカからの留学を終え、日本に帰ってきてからは、珠希の貧困生活のアパートのボロさに引き、真琴が住んでいるマンションに引っ越すことになった。

珠希にご飯を作ってもらうのは、親が仕事で家を空けることが多かったため、なんだかんだ小学校以来ずっとお世話になっている。

「ふふふ、住ませてもらうお礼と言ってなんだが、今日も豪華に作ってみました」

珠希が自慢げに手を広げ、食卓に案内する。

今日のメニューは、フレンチトーストとミニサラダ、スクランブルエッグとソーセージのプレートに、デザートにラズベリーなどの入ったヨーグルトが用意されていた。

早速食べてみると、

「旨い!」

思わず声が出てしまうほど、おいしかった。

「ふふ、良かった! 弁護士になってからもコツコツ料理の練習していた甲斐があったよ」

珠希が嬉しそうにほほ笑んだ。

「最近はどうだ?僕が大学で仕事しているときは何やっているんだ?」

「ふふふ、私新たなる才能に気づいちゃったの。刑事事件を調べる際によく企業法務部に依頼しているじゃん。そこで、企業法務部の部長さんと仲良くなって、今は企業法務の手伝いをさせてもらっているの。

メインは契約書のチェックの手伝いだけど、まこちゃんと仕事する中で、自信もついてきてだいぶん交渉もできるようになってきたんだよ」

珠希はドヤァと効果音が入りそうなくらい、盛大なドヤ顔を決める。

「そうか、それはよかった」

真琴が日本に帰ってきた当初、珠希は自信を失っていたから、自信を取り戻せて一安心だ。


朝食のおともに、珠希がTVを付けると、今朝のニュースがやっていた。

「先日、声優の中野恵理さんが公園で刺される事件がありました。

中野恵理さんは、腹部を刺されたものの救急搬送された先の病院で治療を受け、命に別状はないとのことです。

警察は、昨日中野恵理さんの殺人未遂の容疑で、小林浩容疑者を逮捕しました

小林容疑者は、自分は何もしていないと容疑を否認している模様です」

「冤罪の可能性があるってわけかぁ」

真琴はボソッとつぶやき、朝食を食べ進め、次のニュースに目を移した。


◇桐生法律事務所 冤罪対策室

真琴と珠希が、出社すると桐生秀次郎が部屋で待っていた。

「おはようございます。新しい事件ですか?」

「あぁ、例の声優の殺人未遂事件で、家族から弁護依頼が来ている。

早速接見に行ってきてもらえるかい?」

「分かりました。今日は講義もないので、早速行ってきます」

秀次郎からファイルを受け取ると、バッグにしまってきたばかりの事務所をあとにし、留置場に接見に向かった。


◇留置場

被疑者小林浩は、すらっとした高身長で顔もすっきりした青年だった。

だが、今回の逮捕を受けて、大変混乱しているのだろう。

落着きのない様子だった。

「桐生法律事務所の桐生真琴です」

「桐生珠希です」

真琴と珠希は、名刺を出し挨拶をした。

「どうも、小林浩です」

小林はペコっと頭を下げると、椅子に座った。

「早速ですが、今回の事件の概要を教えてください」

真琴が切り出すと、小林は堰を切ったように話し始めた。

事件の概要はこうだ

事件の夜6:00に推しのアイドルのライブが終わって、1時間半程オタク仲間とファミレスで雑談する。その後、帰宅中公園にトイレを借りに入った。

用を足して、公園を出るとベンチの方で誰かが争ったような声と悲鳴が聞こえ、興味本位で近づくと、声優の中野恵理さんが腹部をサバイバルナイフで刺されてうずくまっていた。

「大丈夫ですか?」

小林が声をかけると、「救急車呼んで…それから、ナイフを抜いて」と、中野は応じたという。

「分かりました」

小林は、うずくまっている女性が声優の中野恵理さんだとは気づかずに応じて、救急車を呼び、サバイバルナイフを腹から抜いたという。

その後、中野は救急車で搬送され、警察も来たので事情を話したという。

ここまでは、ごくシンプルな話だった。

だが、中野の意識が回復して、犯人が誰かを警察が尋ねると、中野は小林が犯人だと指名したという。

「なるほど…助けたはずの被害者に、犯人として冤罪をかけられたわけですね」

「はい、自分も何が何やら…」

「分かりました。これから警察と検察で取り調べを受けると思いますが、自分のいった内容と違う調書が作られるかもしれません。その時は、記名捺印しないでください」

「分かりました」

「大丈夫です!きっと警察も捜査を続行して事実を見つけて、釈放に向かえますよ」

「はい、ありがとうございます」

珠希が励ますと、小林は安心したのか力を抜いて、ホッとして笑顔を見せた。


だが、この希望的観測は潰えることになる。


留置所を出て事務所に戻り、昼のワイドショーを見ると、早速事件のことが扱われていた。

中野恵理さんは、大人気コンテンツ『ドリームフェスタ』通称『ドリフェス』の声優で、アニメと連動してアイドル活動をしているため、かなり関心の高いニュースということで、ワイドショーでも大々的に扱われていた。

だが、その扱われ方は弁護には大変不利な内容だった。

「こちらをご覧ください」

司会者の男性が、パネルを映す。

「今回の事件は、先日の中野恵理さんの交際報道に端を発した可能性があります。

中野恵理さんと声優の吹田武久さんの交際が報じられた際、容疑者の小林さんは以下の投稿をしております。

『ファンを裏切った中野には、処刑が必要だ』この処刑というのが、今回の犯行ではないかと警察は睨んでいます。

容疑者宅からは、たくさんのアニメグッズや暴力的なゲームが押収されており、中には中野恵理さんに関係するキャラのものも見つかり、警察は交際の妬んだ怨恨を視野に入れて捜査しています」

「過激なオタクの犯行ですか。暴力的なゲームで、ゲームと現実の区別がつかなくなったのでしょう。流石に犯行後、ヤバいと感じたのでしょうね。救急車を自ら呼んだんでしょう。中止犯で、減刑も狙えますしね」

知ったかぶりの弁護士コメンテーターが、辛辣に吐き捨てる。

「凶器のサバイバルナイフの指紋も自分から抜くことで、付着していてもおかしくないと偽装するためと警察は睨んでいるようですね」

司会者がカンペをもとにコメントする。

「これはまずいな…」

真琴は、食べていた珠希のオムライスのケチャップを顔につけたまま、固まってしまっていた。


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