第3-3話 後編

◇東京地方裁判所 第1010号室

法廷に入る前に真琴と珠希は、スーツを整え、法廷に臨んだ。

裁判は進み、弁護側の証人尋問となった。

呼び出したのは、ヤマニシ建設社長山西清三氏だ

「弁護人の桐生真琴が質問します

山西社長、こちらの弁9号証の表をご覧ください」

真琴は、建設会社の一覧で並んだ表を提示した。

「こ…この表が何か?」

山西社長は既に慌てていた。

「この表は、談合に参加している企業の一覧ですね?」

傍聴席がざわつく。同じく裁判員席もざわついた

「何を根拠に」

「これは、料亭清正で撮られた写真です。

この方々は、この表にある会社の社長さんや業務課の重役たちですね」

「何をバカバカしい とんだ言いがかりだ」

「異議あり! 弁護人は憶測で物事を話しています」

検察官から異議が飛ぶ

「言いがかりではありません。弁10号証の表を提示します」

そこには、最近の公共事業の受注会社一覧が書かれていた。

「この表、やけにバランスよく先ほどの表の会社が仕事を取っているんですよね。

逆に、この表にない会社は1件も仕事をとれていない」

「偶然だ」

「偶然ですか?

では、次に弁11号証の音声を示します」

「いやぁ、今回の談合では弊社に譲っていただけるってことでいいですね?」

「えぇ、今回のトンネル建設の一次受注者はヤマニシ建設で、二次受けが角菱建設さん、三井工務店さん…」

「一体、その音声をどこから」

山西は動揺した。

「匿名の約束なのでそれは言えませんが、談合に危機感を感じた社員とだけお伝えしますよ」

「ぐぅぅ…ふふふ」

山西は降参したかと思うと、急に笑い出した。

「確かに、談合はした。だが、この裁判とは関係のないことだろう。なぁ検事さん?」

「異議あり、本件審理とは無関係です」

検察官は、山西に言われるがままに異議を唱えた。

「弁護人意見を」

「今回の談合は、本件審理と深い関係があります。

それを今から証明して見せます」

「分かりました。異議を棄却します」

真琴は次に、通帳のコピーを提示した。

「この通帳はあなたの個人の通帳ですね。

ご覧ください、あなた個人にこの表のすべての会社から1000万円が振り込まれています。これは何ですか?」

「それは…」

山西はどもる。

「では、私から説明しましょう。

そもそもこの事件は、被害者畑中光春氏が談合を追っていたことに端を発します。

談合を週刊誌で暴かれることを恐れたあなたは、畑中光春氏を殺害しましたね?

それを強盗目的と見せかけるために、たまたま見つけた金庫の番号で金庫を開け、お金を盗んだ。

そして、証拠を消すために丸橋出版に火を放った。

その見返りとして、各会社から得たお金がこれです」

「ふん、確かに見返りは相手から勝手に払ってきた。

それはうちの社員の野間が自分の都合で殺害したのがちょうどよくて、私に払っただけだ」

「いえ、野間さんではありません」

「なに?じゃあ、作業服や営業車のカギをどう説明する?

私がカギを奪ったでも?」

「いや、カギは奪っていません。ただ、金庫から出しただけです。

社長のあなたなら予備キーを専用の金庫から出せますよね?」

「ふん、そういうことなら私にも犯行が可能だったのは認める。

だが、野間が犯人じゃない証拠にはならないだろう」

「いえ、野間さんにはこの犯行は不可能です」

「は?何を根拠に?」

「では、この弁12号証の写真をごらんください」

珠希は、写真を機会に乗せ、モニターに映し出す。

その写真はエレベーター付近の写真だ

「このエレベーターの近くの文字読めますか?」

「は?解像度が悪くて見えないぞ」

「ですよね。ここで、弁12号証を鮮明化した弁13号証を示します」

珠希は写真を入れ替え、解像度の上がった写真をモニターに映し出す

「これで見えますね。

そう、このエレベーター二台は事件当時停止していたのです。

追加で弁13号証エレベーター点検会社の記録簿を提出します」

よって、18Lポリタンクを2つもって、1階から10階に10分で上がるのは右手の指を骨折した被告人には、無理です

ましてや、1個ずつ運んでは、時間が足りません。」

「片手で2つ持ったもしれないだろ」

検察官が反論する。

「では、弁14号証の再現映像をご覧ください。被告人より大柄で筋力のあるの方の再現映像です。」

珠希は映像を再生する。

映像では、実験の男が何度も挑戦するが、優に10分を超えている、

36Lを片手で10分で上げるのは、到底不可能だ。

「この映像のように、筋肉質の男性で不可能なことを、当然素人の被告人にできるはずがなんです。

つまり、この犯行は被告人には絶対に不可能なんです」

「くそぉ~」

山西社長は、項垂れた。


◇判決

「主文、被告人は無罪

なお、山西清三氏は談合および、殺人と放火の嫌疑があるので、警察職員に従うように」

裁判長の判決に安心する野間さんは、一気に脱力し安心したのか、座りながら笑っていた。


「今回も無事に解決したね」

裁判所を出ると、珠希は満面の笑顔だった。

「あぁ、放火に使われたポリタンクが逆に無罪のきっかけになったのは、大きかったな」

「そうだね!あと、談合を調べてくれた法務部も感謝しなきゃだね」

「あとは、会社の通帳や告発の音声を手にいれた珠希には感謝しかないな」

「いやぁ、大したことはしてないよ」

「いやぁ、大したことだろう。談合で嫌になってやめた社員や銀行に顔を通したのは秀次郎さんだけど、それを誠意をこめて交渉したのは珠希じゃないか

よくやった」

「えへへ、役に立てて良かったよ」

珠希の頭を撫でると、気持ちよさそうに笑った。



このドラマはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る