第8話

第8-1話 毒殺された政治家 殺害方法の謎を暴け

◇寿司料亭 和正

衆議院議員鈴木雅治と、彼の秘書・選挙スタッフが選挙の当選を祝って、祝賀会をしている。

和気あいあいと盛り上がる中、鈴木雅治が寿司を食べているときだった。

急に呼吸ができなくなり、体が震える。

鈴木雅治は、椅子から転げ落ち、悶えた末に亡くなった。


◇政和大学

桐生真琴は、レポートの採点と定期試験の問題作りに追われていた。

ここの所依頼もないので、もう終盤に入ろうとしていた。

あと一息…と、栄養ドリンクを飲んで気合を入れた時だった。

「まこちゃん、新しい事件だよ」

珠希が笑顔で入ってきた。

珠希に連れられ、紬希も一緒についてきていた。

「そうか、でもあと少しで終わるから、そこのホワイトボードに事件の経緯を書いて待っていてくれ」

「はあい、ムギちゃんも手伝って」

「了解です」

紬希は嬉しそうに、手伝いを始めた。

因みに、『ムギちゃん』というのは紬希の愛称だ。よく同級生にそう呼ばれており、真琴や珠希にもフランクに呼んでほしいと言ってきたので、今後はそう呼ぶようにしている。

「やはり米子銀行事件が、問題には良さそうだな。珠希もアドバイスしていたし」

真琴は最後の問題を決め、パソコンに打ち込む。

15分後、問題が無事に完成し、ホワイトボードを見ると事件の概要が書かれていた。

真琴はホワイトボードを見て大まかに把握すると、

「じゃあ、まずは被疑者に話を聞きに行くか」

真琴は弁護士バッチをつけて、3人で留置場に向かった。


◇留置場

依頼人の宮下憲一がやってきた。

宮下は40代で軽く老けが見えるが、全体的に若々しい男だった。

だが、疲労からか覇気が著しくなかった。

「桐生法律事務所の桐生真琴です」

「桐生珠希です」

「宮下憲一です」

宮下は椅子に座り、ぺこりと頭を下げる。

「私たちは宮下さんの奥さんから依頼を受けて参りました。

事件のこと改めて伺ってもいいですか?」

「分かりました」

事件の概要はこうだ

被疑者の宮下憲一は、寿司料亭和正にて寿司職人をしている。

宮下は、店の手前側の客に寿司を握っており、隣で店の奥側の客に寿司を握っていたのが、店主の新田和正であった。

宮下はいつも通りに政治家の鈴木雅治や、秘書の村井・選挙スタッフに寿司をふるまっていた。

最初は何もなかったのだが、食べ始めて30分後位に急に鈴木雅治が苦しみだし、椅子から転げ落ちた。そして、秘書の村井が救急車を呼ぶも、現場で死亡が確認された。

毒はシラリンという遅効性の毒で、警察が現場を捜査すると、宮下のロッカーからシラリンの入った瓶が見つかった。

毒は、鈴木雅治に提供されたマグロ2貫からと、手拭きから検出された。

検察は、シラリンの入ったマグロ2貫を素手で食べ、その後にお手拭きで手を拭いたから、お手拭きに毒が混入したのだと考えている。

また、宮下の個人用パソコンからシラリンの購入履歴が見つかった。

なお、現場に駆け付けた警察官が、店にいたすべての客・店員の持ち物を調べたが、毒を持っている人は、宮下以外いなかった。

被疑者の動機は、鈴木雅治は昔検察官であり、若かりし頃の宮内を起訴したこと、また執行猶予付き判決がでて20年前に終わった事件を何度も寿司料亭和正で話すことに苛立ちを覚え、計画的に殺したとされている。

「そういうわけで逮捕されたんですが、これは冤罪です。私には身に覚えがなくて…

「分かりました。これから調べてみますね」

「安心してください、無実ならば事実を見つけてみせます」

珠希は気合の入った声で、笑顔で被疑者を勇気づけた。

(※シラリンは、本作品用の架空の毒物です。)


「事件概要はホワイトボードと接見で分かった

まずは、現場を見てみよう」

真琴達3人は、早速寿司料亭和正を訪ねた。

店を訪ねると、『しばらく休業します』と書かれており、店には誰もいなかった。

真琴は、宮下から聞いていた店主の番号に電話をかけ、店を見せてもらえるよう頼んだ。

すると

「分かりました!すぐ向かいます!」

と、乗り気であり助かった。

店主が来ると、早速カギを開けてもらい、中を眺めた。

真琴達3人は、店をぐるっと見てまわり、怪しいものがないか確かめた。

すると、ムギが「見て、あれ!」と監視カメラを指した。

「ずいぶん新品そうに見えますが、この監視カメラはいつから?」

「丁度事件のある数日前につけましたよ」

「事件の日の映像は残ってますか?」

「えぇ、警察に提出した原本がありますよ」

店主は奥からノートパソコンをもってきて、事件当時の映像を再生し始めた。

宮下さんが寿司を握っている様子が見える。

しかし、コの字型のカウンターで、丁度宮下さんの手元を隠すように客が座っており、これでは毒を入れていない証明ができない。

しかし、監視カメラには鈴木雅治や秘書の村田、選挙スタッフなど総勢5名と、他の客4名が映っていた。

「動画を何度も再生してみたが、鈴木に毒を盛っている人は誰もおらず、やはり寿司を握っている宮下さんが1番怪しいということになるね。事件後も何かを隠す様子も映ってないし」

「やっぱり、うちの宮下がやったんでしょうか?」

「まだ分かりません

次に店内を見せてもらってもいいですか?」

「どうぞ」

真琴達3人は、店の中を歩き回った。

「トイレは店の奥なんですね」

「えぇ、店内から廊下を渡った先にあります」

真琴が廊下を歩いてみると、途中に部屋があるのを発見した。

ドアをあえてみると、カギはかかっておらず、宮下と新田のロッカーがおかれていた

「新田さん、ちょっといいですか?」

「はいはい」

「この部屋のロッカーから、毒物であるシラリンが見つかったようですが、普段ここはカギは空いているんですか?」

「そうですね。トイレに行く人ぐらいしか通らないですし、カギはあけっぱですよ」

「なるほど」

真琴は納得して、メモを取って店内に戻った。


真琴は、秘書の村田に電話をして、当時店内にいたスタッフや村田に、和正に集まってもらった。

「皆さんには事件を再現してもらいます

前回ついた席についてください」

「再現ですか?また変わったことしますね」

「えぇ、今回は監視カメラの映像と再現で、事件を理解しようかと思いまして」

村田と選挙スタッフが席に着くと

「では、珠希が鈴木雅治先生役ということで。では、伺ってもいいですか?」

「はい、どうぞ」

「事件当時、鈴木さんの隣に座っていたのは?」

「私です」

村田が手を上げる

「先生はどんなふうに寿司を食べていましたか?」

「いつもと変わらない様子だったが」

「監視カメラで見たところ、気になる点があるのですが…」

「なんでしょう?」

「鈴木さんは、食べる前にあなたから何か受け取っていますが、なんですか?」

「あぁ、ウエットシートだよ。先生はきれい好きでね。自前のをいつも私が持って行ってますよ。こうやって、私がいつも持ち歩いて、渡しています。

今日は持ってきてませんけど…」

村田は珠希にウエットティッシュを渡すふりをする。

「なるほど。寿司を食べるのも、クセがあるように見えたのですが…」

「クセなんかあったか?」

村田が問うと、選挙スタッフの女性である東が

「あぁ、先生は1貫、つまり2個の寿司を受け取ると、先に両方の寿司に醤油をつけて1個づつ食べていますね」

と、答えた。

「先に2貫に醤油をつけてかぁ…」

「他に鈴木先生のことで気になることはありますか?」

村田が逆に質問する

「監視カメラで見たところ、先生は新しいのを出さず、同じウエットティッシュで何度も手を拭いていますが、これもいつもなのですか?」

「えぇ。いつもそうですね。」

「なるほど」

「何か気になるの?」

珠希が反応する。

「うん、検察の調書だと、ウエットティッシュ全体的にシラリンがくっついているんだよね。それが、何回も同じものを使いまわしているからなのね」

真琴はノートにメモをした。


「では次に、毒の盛り方の再現をお願いします

新田さんは、宮下さん役をお願いします」

「分かりました」

再現実験を始めた。

新田さんは、寿司職人が毒を盛るならどうするかを考えた。

一応検察の調書では、握った寿司にスポイトかなんかで毒を混入されたと記されてる。この調書も、宮下さん曰く、検察の作文だと言っていて、自分が示した方法でないと言っていた。

新田さんは、寿司を握りスポイトで水を混入しようとする。

しかし

「カウンターから見えますね」

「見えるな」

「見えますねぇ」

新田さんがスポイトで水を入れようとするのは、監視カメラからは死角でも客前からするとよく見える。

「じゃあ、元々手に毒を塗っておいて、寿司を握ったんでは?」

秘書の村田が提案する。

「いや、監視カメラだと宮下さんは連続して寿司を握っている。毒を落とす暇は、ないと思う」

「じゃあ、ビニール手袋に毒を塗って、鈴木先生の寿司を握り終わったら外したのでは」

「なるほど…でもそうなると、警察の家宅捜索の時に見当たらないのは不思議ですね。監視カメラにも、宮下さんは事件発生前後ずっとカウンターにいて、何かを捨てる様子は映ってませんし」

「ふむ、難しいね」

珠希とムギは、頭を悩ませていた。


◇桐生真琴家

再現実験を終え、帰ってくると、3人ともつかれたといわんばかりに、ソファーにダイブした。

「毒をどうやって入れたのか、さっぱりわからない」

「そもそも、誰が宮下さんの棚に毒を仕込んだのかもわからないよね」

「今度は、視点を変えて、人間関係を調べてみるか」

「うん、袋小路にはまったときは別の視点から探るのも大事だよね」

真琴達3人は軽い夕食を食べて、その日は寝た。


次の日から関係者に、細かく話を聞いた。

まずは、店主の新田和正さんだ。

「新田さんと鈴木さんの関係はどんな感じでしたか?」

「普通に常連客と店主だよ。うちの寿司を鈴木さんはえらく気に入ってくれてね。贔屓にしてもらっているよ」

「なるほど、何か恨みとかもなかった感じですか?」

「そりゃぁ、全くないよ」

「選挙スタッフの方も、よくこちらには来るんですか?」

「う~ん、選挙スタッフはあまり来ないかな。今回は選挙当選祝いで大勢できたけど、普段は鈴木先生と秘書の村田さんだけで来るね」

「なるほど

因みに、鈴木先生と村田さんの関係はどうでしたか?」

「う~んうまくいってたんじゃないかな。

あ!でも、酒が入ると村田さん、たまに泣き出すことがあったね。

しかも、先生がトイレに入っている隙とか1人の時にだね」

「なるほど」


次に選挙スタッフの2人に話を聞いた。

女性の東さんと、男性の西谷さんだ。

「二人からと先生の関係はどうでしたか?」

「良好だったと思いますよ。

僕たち自身、自分で志願して選挙スタッフやってますから」

「なるほど…じゃあ先生に恨みとかもないですか?」

「僕たちは全くないね、良くしてもらったし…

ただ、選挙スタッフをやっているとたまに怪文書が届くんですよね

『弁護士時代の鈴木雅治は非道だ!』とか、『心なき法律家に選挙に出る資格はない』とか」

「あ!そうそう、怪文書と言えば、たまに村田さんが事務所で酒飲んでいるときに、『怪文書のことは本当だ』とかボソッと漏らしていたことがあります。」

「なるほど、それは気になりますね。

珠希、事務所に戻ったら早速だが調べようか」

「了解だよ!」

疑惑の村田さんは、調査ののちに話を聞くことにして、その日は事務所に帰った。




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