第8-2話 後編

事務所で3人で調べてみると、鈴木雅治さんのヤメ検弁になってからの事件を洗い出してみた。

確かに、辣腕であるが、合法ギリギリの手法が浮かんできた。大手企業の顧問弁護士もやっており、大手企業の家族や関係者の弁護もいくつか引き受けていた。

量が膨大で頭が痛くなりそうな時だった。

「ねぇ、これ見て」

ムギが1枚の事件記録を持ってきた。

「これって…村田さんと鈴木さんは、因縁の関係だったんだ」

事件の大筋が見えてきた。

あとは、毒をどうやって盛ったかだけだ。

毒は宮下さんの手→寿司→鈴木さんの手と移っていった。

鈴木さんはきれい好きでウエットティッシュを愛用している。

何度も同じウエットティッシュで拭いた。

毒物は現場からは見つからなかった。

頭を悩ます真琴。

すると、ムギが「せっかく奇麗な手を拭いたのに、ハンカチ汚れてたぁ」

とボソッとつぶやいた。

ん?もしかして順番が逆だったのでは?

真琴に一筋の光が差す。

「そうか、そういうことだったのか」

真琴は早速数日後の第1回公判に備えて、検察に証拠開示請求をした。

◇東京地方裁判所 第906号室 第一回公判

「では、弁護側から

この再現映像をご覧ください。

この映像の通り、検察官の主張するように、スポイトで毒を注入する場合、カウンターから丸見えで客に気付かれてしまいます

その他、素手で毒とつける方法、ビニール手袋をする方法などを試しましたが、どれも論理的破綻があります。物理的に不可能です」

次に証人尋問に移った。

真琴は、村田さんを証言台に立たせた。

「弁護人の桐生真琴から質問します

証人はこちらのウエットティッシュをご存じですか?」

「はい、鈴木先生がよく使っているものです」

「これは、証人が被害者である鈴木さんにいつも渡しているのですか?」

「はい、私がいつも渡しています。」

「ここで検察官請求証拠10号証の写真を示します」

珠希は、画面に毒の入ったウエットティッシュ写真を写しだした。

「このウエットティッシュを、被害者が使ったことで間違いないですか?」

「間違いないです」

「このウエットティッシュは、毒の付いた寿司を素手で食べた被害者の手から毒がウエットティッシュに移ったと思われましたが、実は違いました。

もとからこのウエットティッシュは、毒が付着された状態で被害者に渡されたのです」

「異議あり!弁護人は憶測でものを言っています」

「弁護人、ご意見を」

「はい、今回の事件は被告人が毒を入れたのではなく、秘書の村田さんが毒入りのウエットティッシュを鈴木さんに渡し、毒死したものです

おそらく、押収物の中にこの毒入りのウエットティッシュの入ったケースがあると思います。それを鑑定すれば、毒が検出されるはずです。

おそらく、宮下さんは犯人の線で捜査したため、まだ鑑定してないと思われます。

弁護側から、検察官に証拠の鑑定を依頼します」

「異議あり! 村田さんには動機がありません。

これは弁護側の推測にすぎません」

「いえ、動機ならあります。村田さんは、10年前当時弁護士だった鈴木さんから、娘さんが被害者だったの強制わいせつ事件で示談を受けています。

当時の鈴木さんのやりくちは、違法すれすれで被害者だった娘さんを脅したようなものでした。

その結果、娘さんは自殺してなくなってしまいました。

そこで、復讐するためにパソコンのエンジニアだった村田さんは、選挙に出る鈴木さんに近づき、タイミングを見計らって、計画的に殺害しました

宮下さんのパソコンに毒物購入のログを残したのも、宮下さんに罪をきせるためですよね」

「…ふふふ…そうだよ

私があの男を殺した。

寿司というあいつの一番の好物で殺したのさ

うまく罪を宮下に擦り付けられると思ったんだがな…

クソ!くそったれ!!」

村田は証言台を蹴って、跪いて泣き出した。


その後、検察の鑑定結果より、毒物がウエットティッシュの容器から検出され、村田は逮捕に至った。


そして、判決公判

「主文、被告人は無罪」

宮下は無事に釈放された。


◇桐生法律事務所

「難しい問題だな。

今回の事件は、弁護士の示談の仕方に問題がある事件だった。

弁護人はクライアントのために、示談に応じるよう説得しなければならないが、それが行き過ぎれば被害者の人権を蔑ろにしてしまうときがある。

我々も気を付けなければならないな」

秀次郎は、冤罪対策室で無罪の記事の書かれた新聞を置いてつぶやいた。

「私達も刑事事件を扱うときは気を付けなきゃだね」

「珠希は大丈夫だよ。善人100%でできているから、被害者を蔑ろにすることはやらないじゃない、できないよ」

「それ、褒めてる?」

「褒めているよ」

「なんか顔がニヤニヤしていて嘘くさい」

「そんなことないよな、ムギ」

「いやぁ、嘘くさいですよ」

ムギは、あっさりと裏切った。

「そんな…僕は本音なのに…」

フフフっと冤罪対策室は笑いに包まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

0.1% 冤罪対策室 KOUTA @onodera-a

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ