0.1% 冤罪対策室
KOUTA
第1話
第1-1話 0.1%の隠された事実で、窮地の依頼人を救え!幼馴染コンビが、冤罪を暴く
日本の刑事裁判における有罪率は、99.9%
いったん起訴されたら、ほぼ有罪が確定してしまう
このドラマは、そうした絶対的不利な条件の中残りの0.1%に隠された事実にたどり着くために難事件に挑む弁護士達の物語である。
―――99.9 刑事専門弁護士―――
「わが国の刑事裁判はかなり絶望的である」。かつて刑事法の権威だった元東京大学総長の故平野龍一博士が述べた言葉だ。
桐生秀次郎は、弁護士会の重鎮たちが並ぶ会議場で、その言葉を発した。時期弁護士会会長を狙うと噂の老獪に、注目が一手に集まる。
「ドラマでも報じられた今、日本の刑事司法に強い注目が集まっている。我が桐生法律事務所でも、冤罪事件には強い関心を持っている。今まで冤罪事件というと、個人規模の弁護士が挑んでいたが、我が法律事務所では新たに【冤罪対策室】を設置しようと思う。個人の弁護士の活躍を、事務所全体でバックアップしようと考えている」
「それは、素晴らしいと思うのですが、いくら日本有数のローファーム桐生法律事務所をしても、99.9%の壁を破るのはそう簡単ではないのでは?
有罪事案の刑事事件でさえお金にならないのに、さらにお金にならない冤罪事件を扱うというのは、なかなか至難の業ですぞ。
弁護士会会長を狙うパフォーマンスなら、厳しい立場に立たされますぞ。」
海月&マッキンゼーのマネージングパートナーの海月は、ライバルである桐生の発言に懐疑的だ。
「安心してくれ。冤罪対策室にふさわしい人材を、アメリカから日本に呼び戻すことが決まっている。
弁護士資格も持つ政和大学刑事訴訟法准教授の男性弁護士だ。
冤罪をテーマにいくつもの論文を書いている。
それを我が事務所の刑事弁護ルームから私が選んだ弁護士とタッグを組んでもらい、事実発見に当たってもらう。」
「なるほど、そうですか。お手並み拝見をいこうじゃないですか」
他の老獪達も、期待の目というより、懐疑的であざ笑うような目だが、桐生秀次郎は自信ありげに席に着いた。
※政和大学は、早慶上智レベルと捉えていただけるとありがたいです。
数日後
「また示談がうまくいかなったのか」
刑事弁護ルーム室長の新井は、ため息とともに侮蔑の目を向ける。
「いくらあの政和大法学部在学中司法試験合格の才女でもね、弁護士が示談もまとめられなかったら使い物にならないぞ。弁護士失格だ」
「申し訳ありません。どうも被害者を目にすると、示談に躊躇してしまって」
桐生珠希は、頭を下げる。もう、刑事弁護ルームに入ってから、100回は同じように頭を下げている。140㎝代の小柄な身長も相まって、どんどん委縮してしまう。
「君はそもそも人とのコミュニケーション能力に問題があるように思えるな…過去にトラウマがあるのは聞いているが、もっとしっかりしてもらわないと」
新井は、紙の束を丸めて、陰湿に机をたたく。
「まぁ、私が説教できるのも今日で最後だがな」
「え?」
「人事異動だ。そんな桐生君は、【冤罪対策室】に配属になった」
「冤罪対策室…ですか?」
そういえば、秀次郎さんが新たに立ち上げるとか言っていたな。
「あぁ、マネージングパートナー直々の推薦だ。君はそこに新しく来る弁護士のサポートだ。せいぜい頑張ってくれたまえ。私の顔をつぶような真似だけはしないでくれよ。私はこれから接見だ。忙しいので失礼するよ」
そういうと、新井はバッグを手に取り、出て行ってしまった。
荷物をまとめて刑事弁護ルームを出たものの、紙に記された場所は、事務所の奥のいわゆる窓際族だ。
元々倉庫として使われていたのだろう、まだ冊子が残っているが、簡易的な黒板と椅子が二つ用意されている。
片方の椅子に荷物を載せると、部屋を見渡す。
もう一人の弁護士の席には、まだ何も置かれていない。
今日来ることになっているが、まだ約束の時間より早い。
掃除好きがうずき、自分の荷物を片付けると、早速部屋の掃除を始めた。
スーツだというのにお構いなしで、掃除を始める。
「珠希先生、何やっているんですか?」
後ろを向くと、パラリーガルの久保花代が立っていた。
メガネをかけ、すらっとした体格、冷静沈着な姿から、クールビューティーな美女だ。
「かよちん!かよちんも冤罪対策室に配属されたの?」
「全く、かよちんって呼んでいるの先輩だけですよ…。そうです、私も冤罪対策室に配属されました」
花代は、珠希の政和大学のゼミの後輩で、非常に仲がいい。
「掃除ですか、私も手伝いますよ」
花代は珠希の掃除を手伝った。
埃にまみれていた部屋が、ものの30分で奇麗になっていた。
掃除に熱中しているときは考えなかったが、掃除が終わるとふっと一抹の不安がよぎる。
また新井室長のような陰湿な人だったらやだな。
「交渉ができないんて、私って弁護士失格なのかな…」
不安に混じり、黒板を掃除し始めると
「久しぶりだな」
後ろから声が聞こえる。聞きなれた懐かしい声
後ろを振り向くとそこにいたのは、長身で濃い紺色のスーツをまとった男だった。
「まこちゃん?」
「あぁ、久しぶりだな」
まこちゃんこと、桐生真琴が手を挙げる。
その懐かしい顔に、思わず顔がほころぶ。
桐生真琴は、幼馴染で幼稚園から大学まで、末には司法修習までずっと同じだった。
そして幼馴染であり、『弟』でもある。
珠希は幼いころに母親を病気で亡くし、父親と二人で過ごしてきた。だが、中学校の時に、父親が事件で殺害されてしまい、身寄りのない珠希を桐生家が養子として迎えてくれた。誕生日が珠希のほうが1か月くらい早かったので、姉になる。
そして、桐生家こそが、曾祖父、祖父の桐生秀次郎、父親の桐生公平、桐生真琴と4代続く弁護士家計の一家で、このローファームの1族だ。
「帰ってくるなら連絡くれたらよかったのに」
「すまない、留学先のアメリカの大学を出たのがフライトぎりぎりで、飛行機に乗ったら安心感で寝てしまった。
じいちゃんにもなるべくギリギリまで公表しないように言われてたからな。ほら、新規立ち上げの冤罪対策室が、両方親族というのもあまり事前には公表したくなかったらしくてね。」
「何はともあれ、じゃあ冤罪対策室長はまこちゃんなの?」
「あぁ、一応そうなる。これからよろしく頼む。っておい、大丈夫か?」
珠希は安心で気が抜けてしまった。床にへたり込んでしまった。
「大丈夫。久しぶりに会えて、よかった」
「大丈夫…?なら、何よりだ。そうそう、いち早く事務所に来て大きな荷物だけおいて、早速だが検察庁の同期にお土産を渡しに行きたいのがだが、少し出てもいいだろうか?
すっかり、掃除を任せてしまったみたいだしな」
「もちろん大丈夫だよ。私も軽く埃をはたいてから一緒に行こうかな。今日は特にやることないし」
「分かった。じゃあ、一緒に行こう」
「じゃあ、私はここで待ってます。久しぶりなのですから、二人でデートしてきてください」
「じゃあ、お姉ちゃんとデート行こうか」
「はいはい」
珠希はスーツの埃をはたき、化粧を見直し、嬉しそうに準備を整えた。
東京地検に入り、エントランスに着くと、同期の中島が待っていた。
「久しぶりだな、元気にしていたか? これ、お土産だ」
真琴は、アメリカの自由の女神の像を渡す。
「あぁ、ありがとう。って、これ像の形をしたチョコレートかよ。
相変わらず、甘いものと刑事訴訟法と冤罪にしか興味ないんだな。こっちは元気だよ。そっちこそ、また刑事訴訟法と冤罪の研究でアメリカまで行ってきたんだって?
あんまり検察批判はやめてくれよ」
「別に中島を批判したいわけではないが、まだまだ日本の刑事司法には問題が山積している。
そうだ、これ新しい名刺だ」
真琴は、今日初めて渡された名刺を、中島に渡した。
「どれどれ、おいおい【冤罪対策室】だって。お前の法学部目指した最初の事件も冤罪事件だったし、何かの縁だな。そうか、検察と戦う気なんだな」
「冤罪事件が好きというより、事実が知りたいだけだよ。検察官が事実を突き止めてくれれば、僕はやることなしさ」
「言ってくれるじゃないか。まぁ、俺個人の意見としては、検察の手違いで冤罪を生み出しそうになったら、止めてくれる人がいるのは心強いけどさ。
俺も、検事として当たり前だが、冤罪には反対だからさ」
「さすがは中島だな」
「ところで、真琴の後ろに隠れているちびっ子は誰だ?」
「え? ああ、珠希だよ。同期だろ」
「あぁ、珠希ちゃんかぁ。久しぶりだな」
「こ…こんにちは」
挨拶だけすると、すっと後ろに隠れてしまった。
「こっちも相変わらず、コミュ障治ってなんだな。まぁ珠希さんらしいけど」
そんな雑談をしている中だった。
60代くらいの女性が、エントランスに入ってきて、何か叫んでいる。
それを警備員が抑えている。
「おい、なんだあれ?」
「あぁ、松菱部品社長殺害事件の被告人の母親だよ。
冤罪だと訴えている。極めて有罪に近いがな」
「冤罪?」
「あぁ、殺害現場に被告人の指紋、血液、指紋のついた凶器、そして被告人は酔っぱらってなんも覚えてないときた。」
「起訴の条件はそろっているというわけか」
「あぁ、いくら何でもこれはひっくり返らないぞ」
「そうか」
「まぁ、珠希さんは違うみたいだけどな」
「え?」
後ろを振り返ると、さっきまでいた珠希は被告人の母親の前に座っていた。
「相変わらず、変わってないな…お前の幼馴染は、泣いている人がいたら救いたくなる正義感の強い弁護士だな。ほらお前も行った、行った!」
中島に背を押され、真琴も母親のもとに向かう
絶対冤罪だ。息子がそんなことするはずない!
香椎一美は、必死に訴えた。
弁護士に相談しても、情状酌量を求めるのがベストと、無罪判決目指して戦ってくれない。起訴・不起訴を決める検察官に話をしようにも、警備員に止められてしまう。
うちの子は絶対にやってない…なのに…このままでは、ほぼ確実に有罪になってしまう。これが日本の刑事司法なの?神様、いるなら私を助けて
そんな中、目の前にスーツを着た少女が立っていた
「冤罪事件ですか?」
少女は、ハンカチとともに1枚の名刺を出してきた。
「桐生法律事務所 冤罪対策室?」
「えぇ、話は少し聞きました。松菱部品社長殺人事件の件ですよね。
任せてください、息子さんが無実なら、事実を明らかにします。
私たちに任せてくれませんか?」
珠希は、救世主のような温かい笑顔で、母親の手を握った。
「先生は、うちの子の無実を証明してくれますか?」
「はい、任せてください」
かくして、冤罪対策室最初の事件捜査が始動した!
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