第1-3話 後編


「お世話になっています。松菱部品の浅野です。明日の注文は、明々後日以降に到着でお願いします」

このセリフの最中に、「お風呂が沸きました」という給湯器の音声が入っている。

「確かに家でとった音声っぽいね」

珠希が落胆した声を上げる。

だが、真琴には気になる音があった。

「この最後のほうに聞こえる謎の音なんだろうか」

真琴は珠希にイヤホンを渡し、音を聞かせる

「確かに、この音気になるね」

「研究所にこの音声の解析も依頼しよう」

「分かった、やっておくね」

真琴は珠希に解析依頼を頼んだ

「あとは、浅野部長と社長の関係さえ分かればいいのだが…」

「社内調査かぁ…それは、私たちには難しいよね」

はぁ、と二人でため息をついた時だった。

「やっと、私の出番のようだな」

後ろを向くと、桐生秀次郎が立っていた。

「よくここまでやったな。ここからは、組織の力を頼ってくれ。社内調査は、私から企業法務部に依頼しておこう」

「ありがとうございます」

こうして、結果が出るまでの数日が過ぎた。


結果が出た日から数日後、

◇東京地方裁判所 第905号室 第1回公判

法廷に入るのは、久しぶりでネクタイを入室の際再度締め直した。

花代は、傍聴席から見守っている。

「弁護人、証人尋問をお願いします」

証人は、勿論浅野部長だ。

「はい、弁護人の桐生真琴から質問します

証人は、事件当日の午後9:00頃何をしていましたか?」

「はい、帰る前に部下の香椎和也さんが外の風を浴びたいというので、台車で外に連れ出しました。

外に連れ出した後は、そのまま家に帰りました。」

「分かりました」

流石に検察に資料を見せたからには、検事から台車のことは聞いているのだろう。台車の件は真っ当な理屈で返ってきた、

「では、午後9:30頃は何をしていましたか?」

「はい、午後9:30には、家から電話をしていました」

「裁判長、ここで証人の記憶喚起のために弁10号証の音声を流しても構いませんか?」

「どうぞ」

珠希が、電話の音声を流す

『お世話になっています。松菱部品の浅野です。明日の注文は、明々後日以降に到着でお願いします』

「この音声で間違いないですか?」

「はい、間違いありません。」

「本当に間違いありませんか?」

「はい、間違いありません」

浅野は鬱陶しそうに、答える。

「裁判長、ここで弁10号証の音声を鮮明化したものを流したいのですがよろしいですか?」

「どうぞ」

真琴は珠希に合図をする。

すると、珠希がパソコンから音声を流し始めた。

「ここで一時停止」

丁度『お風呂が沸きました』の後で音を止める。

「この給湯器の音声の前の音を拡大します」

すると、録音機の音声を再生するかのような再生ボタンの音が聞こえる。

「ここで、本件給湯器の音声が、法科学研究所より、録音機のボタンを押す音や、録音機の音声の再生したという鑑定書の弁11号証を提示します」

「証人、これはどういうことですか?」

「ふん、確かに録音機を使ったが、それすなわち現場にいたとは限らないだろう。」

浅野は開き直って堂々としている。大したたまだ。

「では、続きまして弁10号証の最後の方の音声を拡大した音声を流します」

『お世話になっています。松菱部品の浅野です。明日の注文は、明々後日以降に到着でお願いします』

この音声の明日の注文は…のところで、『根本運輸です。松菱部品さんに納品に上がりました』

という音声が入っている。

「きっと、いつものことで聞きなれているため、気にも留めなかったのでしょう。

しかし、今流した音声の通り、この根本運輸さんの音声が聞こえるのは、松菱部品の会社の敷地内だけなんですよ。

なお、弁12号証として、根本運輸さんの配送記録を提示します。」

「異議あり! 本件とは関係のない主張です。浅野氏が会社にいることをなぜ偽る必要がある?」

「え?分からないんですか?僕が言っちゃっていいですか?」

「どうぞ」

田村は、半分キレ気味である。

「本件は、浅野さんが会社のお金を横領していたことに事を発します。会社の金を横領したことが社長にばれた浅野さんは、社長の殺害を決める。また、同時にDVを受けていた松菱社長の奥さんと共謀して、酒癖の悪かった被告人の犯行に見せかけようと企て、被告人に睡眠薬を飲ませ、酩酊させる。その後、被告人が運悪く自分で歩いてしまい、壁に頭をぶつけ出血し気を失う。その状態の被告人を倉庫まで連れていき、同時に社長を被告人の携帯電話で呼び出し、被告人のスパナで社長を殴打し殺害する。浅野さんの指紋がなかったのは、手袋をしていたからでしょう。被告人の現場の指紋は、気を失った被告人の手に色々触らせたからでしょう。そして、被告人の頭の傷を見て、争った形跡を浅野さんは作り、あたかも争った際にできた傷であると思わせた。

以上が、今回の犯行の全容です。

以上より、弁護人は被告人香椎和也さんの無罪を主張します」

すると、浅野はクソっと証言台をたたいて、泣き崩れた。



その後、検察は起訴の取りやめを決めた。

おかげで、香椎さんはすぐに釈放されることができた。

だが、担当の田村にとっては、検事人生にバツが付いた。

井上哲郎検事正に呼びされ、刑事部長検事の松本孝明とともに、謝罪に来た。

「今回の公訴取り消しは検察の威信を、深く傷つけた。深く反省したまえ」

「申し訳ございません」田村と松本は、深く頭を下げた。



平和台病院

真琴と珠希は、釈放された香椎和也を連れて、彼の父親の病室に連れて行った。

「「和也!」」

「おふくろ、親父!」

和也は二人に向かっていって、抱き着いた

「よかった! 本当に良かった!」

「和也の無実が証明されて、本当に良かった」

「俺も親父に生きてるうちに会えて、本当良かった」

「バカ言え!もう少し長生きするわい」

親子で笑いあう。

香椎一美は、ボロボロと涙を流して感動している。

「先生、本当にありがとうございました」

3人はこちらを見て、深々とお礼をした。

それを見てボソッと

「今回の事件は、珠希が声かけたから解決した事件だ。

珠希は立派な弁護士だ」

真琴がつぶやいて、親子の団らんを邪魔しないように珠希を連れて部屋を去った。

部屋を出ると、追いかけるように珠希が近づいてきた。

「今回の事件、私何もできてないよ…」

「いや、珠希の協力がなければ解決できなかった。

それに、最初に声をかけたのも珠希だ。

やはり、珠希には弱者を救いたいという熱い正義感があるのだろうな」

「それをいうなら、まこちゃんこそ凄いね。また冤罪事件の事実を暴いたね。

もうあの最初の事件から10年たつのか」

「そうだな…久しぶりに本田家の墓参りにいくか」

「うん」

僕と珠希は、病院のタクシー乗り場に向かった。


このドラマはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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