第7話
第7-1話 策略めぐる法務省 追いつめられる被告人
西ヶ谷泰三さんの葬儀も終わり、紬希も心の整理がついたがまだまだ学校に行くのは、怖いと不登校になっている。
心理カウンセラーの勧めで、心の傷が癒えるまで、自宅待機となった。
しかし、家に一人で置いておくものかわいそうなので、すっかり冤罪対策室と僕の講義について回るようになった。
中学生に刑事訴訟法の講義が分かるのか疑問だかったが、捜査部門は身近なようですっかり聞き入っていた。
最近では、刑事訴訟法に加え、刑法にも興味を持ち、刑法総論の講義にも潜りこんでいる。
そんなある日、
「新しい依頼が入った」
秀次郎さんから言われ、僕と珠希はクライアントルームに呼ばれた。
今回の依頼人は、佐々木由香さんという50代くらいの女性だ。
初老の男性弁護士と一緒に来ている。
「うちの息子が、強制わいせつと強盗の容疑で捕まってしまっていて
でも息子は冤罪を訴えているんです
私も息子はやってないって信じているんです。
どうかお願いできませんか?」
「強制わいせつと強盗ですかぁ…」
「えぇ、私も調べてみたのですが、私の手に余る事案で…
桐生法律事務所の冤罪対策室は、かなり辣腕で有名ですので、私から紹介させていただきました」
初老の弁護士は、頭の汗を拭う。
真琴は捜査資料をみながら、大体の状況を概観する。
「分かりました。早速接見に行ってきます」
真琴と珠希は、荷物をクライアントルームに持ってきていたので、そのまま留置場に向かった。
紬希は、本をもって面会室の外で待つということで、同行した。
◇留置所接見室
「前の弁護人から引き継ぎました桐生真琴です」
「桐生珠希です」
「佐々木康生です」
佐々木は、身なりが整っており、真面目な雰囲気で好青年という印象だった。
「早速事件の話を聞かせていただいてもいいですか?」
事件の概要はこうだ
被告人 佐々木康生 19歳
12/12午後8:00 被疑者佐々木康生は、被害者源愛子17歳をわいせつ目的で駅ビルの多目的トイレにつれこんで、わいせつな行為に及んだのち、ナイフを首元に突き付け脅し、金50万円を強奪した罪にとわれている。
金50万円は、ギャンブルで消費し、今は手元にないというのが検察の調書だ。
源愛子は名門女子高の生徒で、お金を持っているから狙われたというのが、検察のストーリーだ。
その後、監視カメラの映像から怪しい人物を警察がピックアップし、写真面割台帳を警察が源さんに見せ、源さんが佐々木さんを指し、犯人と証言した。
「確かにその日に駅ビルにいましたけど、自分なんもしてないですよ」
「この家から見つかった、凶器とされるナイフというのは」
「趣味がキャンプなので、キャンプ用品です。
でも一切犯行には使ってないですよ」
「なるほど」
◇渋谷駅ビル
留置所を出ると早速、検察の提出した捜査資料を持ち、現場となった渋谷の駅ビルに向かった。
「犯行が行われた多目的トイレ付近に監視カメラはないと…」
「またトイレが奥まったところにあるから、目撃者も少なそうだね」
被害の起きた駅ビル5Fの多目的トイレの前で現場の写真を撮る。
通りかかる数名には訝しげに見られたが、誰も気にするようではなかった。
「ちょっと質問してもいいですか?」
紬希がそっと手を上げる。
「どうしたの?」
「今回の事件は、強盗でしたけど、強盗と恐喝の違いって何ですか?」
「あぁ、それはね、法律用語でいう所の『反抗を抑圧するに足りる程度』つまり、犯人に逆らってお金を渡さないことがどのくらいできるかってことだよ。
分かりやすいイメージだと、恐喝の場合、大体武器を持たずに素手や、悪くても棒やバットなどの殺傷能力の低いものがつかわれるから、武術のできる人とかだったら反抗できるでしょ。
でも、強盗の場合、ナイフや銃などの命に係わる武器を使われるから、そうそう反抗しようと思えないでしょ。
大まかには、そういう違い。
あとは、性格・年齢・体格・関係(知り合いか否か)、場所、時間帯なども判断材料にされるよ。
男性で自分よりも大柄で年齢が若いと、やっぱり武器が弱くても十分に反抗を抑圧されてしまいからね。
あとは、場所・時間帯で言えば、助けを呼べないような誰もいない時間や場所の場合、反抗を抑圧されやすいから強盗寄りだったりね」
「なるほど、奥が深いですね。
今回の場合は、若い男性が女性にナイフを首元に突き付けられているから、なおさら反抗を抑圧されているから、強盗ってわけですね」
紬希は楽しそうにうなづいた。
「とりあえず、明後日は公判だし、被害者の話を聞いてみるか」
真琴は事務所にかえり、証拠開示請求の書類をまとめて、検察に提出し、あとは公判を待った。
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