第3話

第3-1話 放火犯の真の狙いを暴け! 重罪の冤罪をかけられた被告人を救え

真実ってのはさあ、100 人いたら「 100 通り」あるものなんだよね。でも、起こった事実っていうのは一つだけ。

ーーー99.9刑事専門弁護士 深山大翔---



桐生真琴は、その日の午前中は大学で講義をしていた。

今日の内容は捜査の逮捕・取り調べ受忍義務の所だ。

講義を終え、昼休みを取ろうと教務室に戻ると、

「あ!お帰り!お昼、作ってあるよ」

珠希が笑顔で出迎えてくれた。

「おう、ただいま」

早速サランラップを外すと、そこにはホットケーキのリンゴ添えが用意されていた。

「おぉ!ホットケーキかぁ!!」

ホットケーキは、真琴の大好物でもあり、待ちきれずに雑にサランラップを外し、シロップをかけてフォークで刺す。

口に入れた瞬間、甘みが口に広がり、添えられたリンゴのカットを口に入れると酸味とのバランスがよい。

夢中で食べる真琴を珠希は微笑ましく眺めていた。

10分くらいかけてじっくり食べ終わると、真琴は早速用件を聞いた。

「珠希が来るなんて珍しいな、なんかあったか?」

「うん、新しい依頼が来て、冤罪対策室で読み込んでたんだけど、一人だとどうも弁護の策が浮かばなくて、うずうずしてきてしまったの」

「分かった、見せてみて」

依頼は、丸橋出版社放火事件の被疑者からの依頼だった。

被疑者である野間義之は、被害者であるジャーナリストの畑中光春氏を殺害し、金庫の200万円を盗み、丸橋出版に火をつけ証拠隠滅を図ったとされている」

丸橋出版は10階にあり、下のフロアがアパートとして貸し出されていたり、テナントとしてカフェがあったことから、現住建造物等放火罪にあたる。

強盗殺人+現住建造物等放火罪の重罪コンビである。

「また、重罪案件を拾ってきたな…」

「うん、なかなか重い事件だと思う。裁判員裁判の対象になるんじゃないかな」

「分かった、午後からは授業もないし、早速接見に行こう」

真琴はケースにしまった弁護士バッチをとり、スーツの胸元につけた。


接見に現れたのは、まだ20代くらいの若い青年だった。

だが、長時間の取り調べで疲労しているのか、あまり元気はなかった。

「野間義之さんですね。弁護士の桐生真琴です」

「桐生珠希です」

「どうも、野間義之です」

「早速ですが、事件のことや野間さんのこと色々伺わせてください」

「分かりました」

事件の概要はこうだ

被疑者氏名 野間義之 25歳

野間さんは仕事が終わり家に帰って、1人で晩酌をして寝ていた。

特に、右人差し指・中指をプライベートで骨折しているため、どこにも出かけずに安静にしていたという

しかし、その夜に丸橋出版に何者かが侵入し、ジャーナリストの畑中光春氏をナイフで1突きで殺害し、現金200万円を盗んだ。

入り口の防犯カメラには、顔は映っておらず野間さんの作業服を着た男性が、野間さんの営業車で逃げる姿が映されていた。

野間さんの犯行に使われた作業服も野間さんの営業車のカギも、野間さんのロッカーのカギを開けないと触ることができず、さらに野間さんの営業車から盗まれた200万円が見つかった。

さらに、野間さんと被害者である畑中光春氏は同級生であり、野間さんは畑中光春氏のイジメの被害者であり、今回の事件は復讐ではないかと検察はストーリーを描いている。

さらに、現場に残されたい石油タンクには、野間さんの指紋が付いていた。

野間さんには、一切覚えがないという。

検察のストーリーは、イジメの復讐で畑中光春氏を脅し、金庫の番号を聞き出し金を奪う。その後殺害し、それとともに証拠隠滅で放火をした…という筋書きだ

「なるほど…

ポイントは、野間さんのロッカーのカギと、指紋の付いた石油タンクですね」

「そして、真犯人はなんで強盗殺人に加えて、放火までしたのかだね」

むむむ…と、真琴も珠希も悩む。

「でも先生!自分なんもやってないんですよ!

イジメだって、過去のこととしてもう自分では整理を付けたんです。

なのに、被害者なのに今更、イジメの復讐だっていって容疑者にされるなんて、イジメの被害はまだ続くんですか?

それに、検察は全然信じてくれなくて…検事さんの取り調べも『このままだと死刑か無期懲役を求刑することになるかもよ。今のうちに吐いた方が楽になるよ』と脅されるし、怖いし、もうメンタルボロボロで…つい、調書にサインしてしまったんですが…ほぼ有罪になるみたいですけど、どうにかなりますか?」

「分かりました。私たちが全力を尽くします!0.1%の事実を暴いて見せます!」

珠希は、不安がる野間さんが安心できるよう、空元気を見せた。


「まずは、現場を見に行くか」

留置場を出て、早速丸橋出版に向かった。

丸橋出版に着くと、ビルの10階が燃えており、8階・9階も少し延焼している。

幸い、消防車が早く来たので、10階を除けばだいぶ被害が抑えられた方だ。

中階層にアパートがあるんので、大事に至らなくてよかった。

アパートもあるので、エレベーターも2台あったし、階段も2つ用意されていた。

真琴と珠希は、早速1階の警備室に行き、監視カメラの映像を確認した。

「警察にも提出したので、その日のデータは残してありますよ」

と、警備員の岩田氏はすんなりみせてくれた。

「ありがとうございます」

微笑む珠希に、もう60代の岩田氏は嬉しそうだ。

もしかして、珠希が来たからすんなり見せてくれるのか?

確かに、うちの珠希は可愛い!今年26歳だが、童顔×低身長もあってロリッコの魅力がある。まさに、孫をめでるような気分だろう。

防犯カメラには、午後8:50に1階のエントランスに覆面の作業服を着た男が入ってきた。

そして、午後9時に覆面をかぶり、石油タンク2つを台車で転がしながら、10階の丸橋出版に入る人物が映っている。

「丸橋出版には、監視カメラはないんですか?」

「いや、ないね。廊下から入り口が映るこのカメラしかないよ」

「なるほど」

そして、30分後男が逃げるとともに入り口から火を噴きだし、どんどん燃えていった。

そして、午後9:40には入り口から出ていき、ポリタンク2個を捨てて、野間さんの営業車で去っていく姿が外の監視カメラに捉えられている。

「なるほど…確かに、検察の調書通り、野間さんの作業服で、野間さんの営業車だね」

「でも、不思議だな」

「何が?」

「覆面をするくらい監視カメラを警戒しているなら、普通作業服で、しかも自分の営業車なんかで事件起こすかな?」

「確かに、しかも子の作業服の刺繍も検察の調書では、画像解析で『野間』と刺繍されているのもわかっているし、普通別の目立たない服装にするよね」

「もう一つ気になるのが、ポリタンクだよね。一緒に燃やしちゃえば証拠残らないのに、わざわざ1階で投げ捨てているし。

そもそも、奪った200万だって、わざわざ自分の営業車に隠すかな?

監視カメラに写って、警察が調べるのなんてわかりきっているじゃん

普通、自分の家に持って帰るよね」

「確かに…まるで、野間さんの犯行に見せるかのように用意周到に準備されている」

珠希が深く考え込む。

「そして、200万を犯人が持って帰らないということは、金目の犯行ではないよね」

「じゃあ、いったい何のために殺害・放火・盗みの3つを…」

「それも視点に入れて、次は野間さんの職場に行ってみよう」


◇ヤマニシ建設

真琴と珠希は、続いて野間さんの働いているヤマニシ建設に訪れた。

ヤマニシ建設は中堅土建メーカーで、社屋は振るいながらも5階建ての自前のビルを持っていた。

真琴と珠希は早速、野間さんの同僚の大野弘之さんを連れて、ロッカールームを見た。

「このロッカールームは、各自がカギを持っているですか?」

「そうですね。基本1人1つカギを渡されて、それを使ってます」

「ほかの人がロッカーを開けるためには?」

「う~ん、無理じゃないかな。一応最新式で、すべてのカギが違うディンプルシリンダー錠で、ピッキングも難しいし…」

「合鍵は?」

「そこも防犯がしっかりして、会社の重要なカギを入れる専用の金庫にしまわれているよ」

「営業車のカギは?」

「営業車のカギも同じさ。1つは個人が持ち歩き、合鍵は同じく専用の金庫にしまわれている。

野間もそうだがみんな、ロッカーに替えの作業服と営業車のカギをしまっているよ」

「どうしてそこまで厳しくなったんですか?」

「先代の時代に盗難事件があってね。犯人が見つからず、ギスギスした社内環境になってしまって以来、先代が元銀行マンなのもあって、金とカギの管理は徹底しているよ」

「なるほど。では、野間さんからカギを奪うことは?」

「可能かもしれないけど、同じ理由で監視カメラも徹底されているからね。

野間さんのカギを奪うシーンが映っていたら、流石の警察・検察も野間を逮捕しないんじゃないか?

それに野間さん、カギを自分の車や家のカギと同じキーチェーンにつけて1日中持ち歩いているし、手品師でもない限り、奪うのは無理じゃないかな」

「専用の金庫は、どうですか?」

「専用の金庫こそ、難しいぞ!事務所の真ん中に会って、監視カメラもばっちり映っているし、開けられるのは部長以上の重役だけだしな。10人くらいじゃないか」

「「なるほど、この話は警察には?」

「もちろん、聞かれたからしたよ。桐生先生と同じように、カギのことはよく聞かれたよ」

「なるほど、野間さんのロッカーのカギを開けないと作業服も営業車のカギも無理と」

「もしくは、専用の金庫を怪しまれずに開けないといけないかぁ…」

ここにきて、袋小路に来てしまった。


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