【ヨウ】第10話 昆虫大戦特撮チームの捕虜
作品おいて最も重要なことは何だろうか……?
ストーリー? セリフ? キャラクター? テーマ? クオリティ?
だけれど結局は観客の見たいものを、供給するしかないという意見もある……が! 全てひっくるめて、どうでもいい! 我々は商業作品を作る訳ではない! エゴと趣味に溢れた――独自性マシマシの作品を作るのだ!
「――ので! 本作の主人公、カブトムシの敵はクワガタがいいと思います!」
「いや! 小生はカマキリがいいと愚考します!」
「ルミリはバッタが一番かっこよくていいと思う!」
「あたしは全部出して大戦争にしたい!」
「う、うちは何でもいいです……」
メンバーの熱き討論が行われる。歴戦の名作を見てきた者たちだ、面構えが違う。
何の討論をしているのかと言うと、本作における敵キャラについてだ。タイトルは『
「ラスボスと主人公は相反するものです! 正義と悪! 自由と支配! そして、カブトムシとクワガタ! 王道にストーリーを進めるべきだと思います!」
「違います! 主人公が絶対に敵わないような敵に、がむしゃらに立ち向かう姿に観客は感動されるのです! ツノでは敵わないもの……それはカマです!」
「待ってよ! ルミリたちが作るのは特撮……つまり、アクションシーンが命! 迫力のあるアクションを撮るには、跳躍のできるバッタを入れた方が絶対に映える!」
「幽霊オタクの意見にも耳を貸せ! この生人ども! 敵がたくさんいた方が燃えるだろ! いいものは全部プラスすればいいの! 納豆にキムチ混ぜても美味しいでしょ!?」
「まあまあ……カブトムシとクワガタはともかく、カマキリとバッタくらいなら大きな公園に行けば多分いるだろうから、みんなで探しに行きませんか……?」
久世さんの発言の後、幽霊が通ったように皆が息を飲み、沈黙が場を包んだ。まあ幽霊なら通るどころか、さっきから近くに鎮座してるけどね。
ということで久世閣下の妙案により、僕たち三人は近くの大きな公園――
「ヨウ君! このお花綺麗だよ!」
「あー! これはダリアだね。夏の女王って言われるくらい有名な夏の花なんだよ」
「だ、ダリア……? 青井って花に詳しいんだね。なんか意外」
「先輩はこう見えても結構博識だからね。どこでそういう知識を蓄えてるの?」
「アニメ、マンガ、ラノベ」
「さすがヨウ君! オタクの鑑!」
ついつい普段日の目を浴びることのない知識が脚光を浴びると、なんか嬉しくなってたくさん話しちゃうよね。分かるよ分かる。隣の席の女の子に勉強を教えてって言われた時に、嬉しくなって頑張っちゃう感じと似てる。
「先輩! カマキリいたよ!」
「よくやったぞルミリ君! 総員! 第一種戦闘配置!」
目標はオオカマキリの幼虫。体長は五ミリから十ミリくらい。春の時期は幼虫しかいないので、成虫になるまで我々で育てる。カマキリは生命力が強いし、飼育するのは割と簡単な昆虫なのだ。
「わわあぁ……こっちに来た……」
「久世君! その子を捕まえれるか!?」
「えぇ!? む、無理だよぉ……」
「お尻の方をつつきながら、手に乗せるの! 掴んじゃダメだよ!」
「そんなの出来ない……って! やだああああ! 靴に登ってきた! 助けて助けて!!」
「大丈夫だから! ちょっとだけ我慢して!」
左手を水を
「まずいって! ズボンの中に入ってきちゃうよおぉ! 早く取ってぇ……」
絶対防衛ライン沿いに軍を展開する。難攻不落の城砦だ、カマキリの必死の抵抗を虚しく、昆虫対戦特撮チームの捕虜となった。
「あ、ありがとう青井……さっきはテンパっちゃってごめんね」
「ううん! 全然大丈夫だよ! 虫が苦手だったら誰だって登ってきたら怖いよ」
「ヨウ君……女の子の脚をまじまじと……やらしー!」
「う、うるさいな! 緊急事態だったの!」
「先輩? どうしたの何もないところに叫び出して」
「あ、いや! 誰かに悪口言われたような気がして……」
「だって事実じゃーん! 脚が好きだなんて、いい趣味してはりますねぇ!」
「だ、黙れえ!」
「だからさっきから何に対して文句言ってるの!?」
第一目標を撃破し、次に我々が目指すのはバッタだ。種類はツチイナゴ。この時期になると、越冬を終えた成虫が活動を開始する。体長は五センチほどあって、イメージとしては茶色のトノサマバッタって感じ。正直、触るの怖い。
「いいですか皆の衆。ツチイナゴは警戒心が強いので、捕まえる時には瞬発力が非常に大切です」
「逃げちゃうから、とっとと捕まえろってこと?」
「ザッツライト、久世閣下! つまり我々のような運動不足陰キャには、実現不可能な所業なのです……」
「ルミリもそう思います!」
「久世さん? あなたの中学高校の部活動は何でしたか?」
「え? バスケだけど――」
「バスケ! そう! あなたは瞬発力が命のバッスケットボールをされていた! 六年間も!」
「え? まさか……」
「シンプルに僕らには、昼のツチイナゴなんか捕まえられないから、捕まえてくれない?」
「いーやー! 絶対にやだ! どうせ青井も触るのが怖いだけでしょ!」
ザッツライト! とは言いにくい要件だ。しかし、こんなこともあろうかとルミリと極秘裏に策を練っていたのだ! あまり頻発するのは心に負担が大きすぎるが……仕方がない。
「ルミリ! 『あれ』やるよ!」
「うん、分かった!」
「久世さん、久世マルカさん。どうかよろしくお願いします」
「よろしくです」
「ちょ、ちょっと……そんなことまでしなくても……」
そう、土下座。公共の面前での土下座だ。これは本当に効く。している側は『こっちは土下座までしました。もう他に出来ることはありませんよ?』と開き直ることが出来るし、された側は何とか場を納めようとするので、条件を飲むしかなくなる。良心がズキズキと痛むが関係ない! 両親に見せても恥ずかしくない作品を作るためだ!
「わ、分かったよぉ……やればいいんでしょ……」
「ありがとうございます、久世さん」
「ありがたやー、神様仏様マルカ様ー」
「幽霊じゃなかったら、ツチイナゴくらいなら捕まえられたのになぁ……」
ツチイナゴ含めてバッタは、胸部を掴むのが基本だ。羽や脚を触って、バッタを傷つけてしまう恐れがあるからだ。実際トノサマバッタは脚の関節は脆弱なので、暴れてる拍子に脚が取れてしまうこともあるらしい。めっちゃ痛そう。
「先輩ー、ほんとにここにバッタがいるの? 全然見当たらないよー?」
「草の方とかよく見てみて。擬態ってやつ? 土と同じような色してるから結構見つけにくいんだよね」
「あ、ヨウ君! この雑草の先端についてるやつじゃないの!?」
「おお! よくやったハルちゃん! さあ、久世さん!」
「分か……って!! めっちゃグロい! 想像してたバッタと違うんだけど!」
「大丈夫! 胸部の方を掴めば噛んだりしないから!」
「えぇ……でもぉ……」
「うるさい! マルカちゃん、それでもオタクなの!?」
「うちはオタクじゃないから!」
まずい……このままだと『え、てか普通に先輩やれば良くない? 男でしょ?』みたいな女尊男卑構文が炸裂してくる……でも触りたくないよなぁ……よし、触る以外で何とか手を打ってもらおう。
「く、久世さん! そいつ捕まえてくれたら何でもするから頑張ってよ!」
「え? 青井が……?」
「そ、そうです! 男に二言はありません!」
「あーそれはいいかも。よし! 一肌脱いであげよう!」
「ありがとう! アーメン! 南無南無!」
準備は整った。彼奴はイネ科っぽい長細い草の先端に駐在してる。いや駐在というよりも、そこで休憩しているような印象だ。だが油断は出来ない。こいつらの警戒心は半端じゃない。小学生の頃、深夜に布団へ潜ってゲームをしている時の我々をも凌ぐ警戒心を、彼奴らは持ち合わせている。
「よし! そこで止まって! あとは自分のタイミングで掴んで、虫かごに即入れて!」
「わ、分かった! じゃあいくよ……うりゃ!」
「おお! マルカちゃんすごい! ほんとに捕まえちゃった!」
「ぎゃあああ!! なんか出てる! 変な汁みたいなのが出てるよお!」
「ツチイナゴって危険が迫ると醤油みたいな液を出すの! はやく虫かごに入れて!」
久世さんは押し付けるように、虫かごにツチイナゴを放り入れた。実物の見た目はかなりグロテスクだけど、どこかカッコよさもある。某国民的ライダーの初代は、バッタがモデルなのは有名な話だ。
「久世さん本当にありがとう! お礼に何でもするよ!」
「え? ほんと……じゃあ、モネ先生とデートしてあげてよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます