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第////話


 七尾瀬里奈の本性を知ったのは、中学2年生の夏だった。


「ひさしぶり、桃ちゃん」


 桃が学校終わりに塾へ行くと、小学生以来会っていなかった瀬里奈と再会した。


 桃と瀬里奈は遠い親戚だ。


 冠婚葬祭で親戚一同が集まる時、歳が近いからという理由で席が近くなり何度か話をしたことがある。


 その程度の関係。


 ここ数年はそういった集まりが無かったのと、桃が親戚の前に出たくなかった関係で、瀬里奈とは会っていなかった。


 久しぶりに見た瀬里奈は、顔だけでなく身体付きもだいぶ女性らしくなり、出るところは出て、引っ込むところはしっかり引っ込んでいた。


 桃とは似ても似つかないナイスボディ。これは血気盛んな男子中学生が放っておかないだろう。


「……ここから、家、近かったのか?」

 

「2学期からこっちの学校に通うことになったけど、聞いてない?」


「聞いてない」


「親は仕事の関係でまだあっちに住んでるけど、私は一足お先にこっちで住んでるの。じゃあ、そういうことだからよろしくね」


 瀬里奈は優しい笑みを浮かべて、教室へ入って行った。


 なんというか、その笑顔は中学2年生にしては作り込まれた笑顔だった。大人が使う、社交辞令のような表情に見えたのだ。


 昔はもっと、人懐っこい、可愛げのある笑顔をしていたはず。


「これが成長……か?」


 それから、数日に1度は瀬里奈と立ち話をするようになった桃は、瀬里奈に対しての違和感なんてすぐ忘れることになる。


 だが、8月に入りお盆も近づいた頃、事件は起こった。


「のりまーす!」


 桃が3階にある塾へ向かう為、エレベーターに乗り込むと、制服姿の女子が小走りに向かって来た。


「——って、桃ちゃんじゃん」


「……七尾か」


 桃は無視して閉まるボタンを押そうか思ったが、慈悲の感情が僅差で勝利した。


 膝に手を突いてぜえぜえと息をする瀬里奈を横目に、桃は扉を閉める。


「危うく遅刻するところだったよ~」


「もっと余裕を持ってくればいいものを」


 そう言ってから、瀬里奈の発言がおかしいと感じ、スマホの時計を確認する。


 塾の始まりまであと15分ある。


 まだ余裕があることに疑問を浮かべると、桃が口に出す前に、瀬里奈が肩を落として説明してくれた。


「ちゃんと余裕を持って出たの。でも、うざいナンパ男に絡まれて、引きはがすの大変だったんだから。この辺の高校生の制服じゃないよね、どこら来たのって。そもそもまだJKじゃないっての」


「それはご苦労」


 瀬里奈の視線は「この気持ちわかる?」と言いたげだったが、桃の視線は上昇を続けるインジケーターに向けたままで動かすことは無かった。


「素っ気ないなぁ。これだからモテないんだよ?」


「余計なお世話だ」


 エレベーターがゆっくりと停止し、扉が開く。エレベーターホールを出るとすぐに塾の入り口になっている。


「こんにちは~」


「どーも」


「こんにち——あ、七尾さん!」


 入り口の扉を開け、塾長の視界に瀬里奈が入った途端、塾長は慌てて2人の前に飛んできた。途中で床に置かれたゴミ箱を蹴とばすも、そのままだ。


「……なんですか?」


 塾長の慌てように、七尾の顔が引きつっている。 


「ちょっと、西川先生とのことで」


「あの人とは……」


「とにかく、ちょっときて」


 塾長は桃には目もくれず、桃を空き教室に連れて行く。中では、その西川が神妙な面持ちで椅子に座っている。

 

 彼は大学生のアルバイト教師。髪型は軽いパーマをかけ、イマドキの大学生と言った容姿だ。


 異様な三者面談だ。進路相談にしては塾長の顔と西川の顔は険しい。一体、七尾に何があったのだろうか。


 妙な胸騒ぎがした桃は、教室の扉に聞き耳を立てることにした。



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