第16話


 この疑問の答えを出すために、1つの心当たりがあった。


 同じクラスの色坂いろはだ。


 おそらく、いろはは瀬里奈に好意を抱いている。しかも、恋愛的要素を含んでいる。


 瀬里奈には自身に向けられた好意を、他人より敏感に受け取れる力がある。だからこそ、その能力を悪用しクラスでも中心の人物になれた。男子からの好意の視線を多く受けつつも、女子同士のいざこざにも、上手く立ち回ることが出来た。


「……試してみようかなぁ」


 ただ、タイミングが悪かった。


「でもなぁ、ぐぬぬぬぬ……」


 爽助と付き合った直後に、別の人と付き合うのは世間体を考えて不可能。すぐに試したいのに出来ないもどかしさで瀬里奈は唸った。


「まぁ、仕方ない。一旦別の方法にしますか」


 次の日の放課後、わざとらしさ満点の色の入った方法でいろはを屋上へ連れ出し、爽助と付き合うことになった旨を伝えてみた。


 反応は上々だ。


「…………ぇ?」


 いろははこの世の終わりみたいな表情をしている。会話を続けるが、中身は入っていないだろう。視線は上の空を向いて何処か遠くを見つめている。


 これで白黒ついた。


 いろはは確実に瀬里奈に対して恋愛感情を抱いている。


「昨日、告白されちゃって——」


 いろはの無反応をよそに、一応会話は続ける。


 前準備は着々と進んでいく。後はタイミングを見計らって爽助と別れるだけ。難関はそこだけだろう。


 だが、あれからひと月ほどが経っても、いい案は思い浮かばなかった。そこで、こういうことが得意そうな知り合い、京樹桃に手を貸してもらった。


 ついでに遊んであげた。


 彼女はああ見えて押しに弱い。


 少しおちょくっただけで感じてしまったらしい。


 情けない。だらしない。仮にも友達の好きな人と一夜を共にするとは如何なものか。


 そこに関して瀬里奈は何か言える立場ではない。だが、いろはからすれば信じていた友人に裏切られたと同じ事。


 瀬里奈の交友関係はもう、滅茶苦茶だった。


 けれど、瀬里奈の中で破壊は快楽に等しかった。快感で悦に浸っている。心地良い。最高の気分だ。


「……あーあ、どうなっちゃうんだろうね私は」


 隣ですやすやと寝息をたてる桃を良いことに、彼女のスマホのロックを解除していろはに「ごめん」とだけメッセージを送った。


「顔認証はこういうとこあるから、注意しなきゃだめよ」


 桃は何も言わない。気持ちよさそうに寝息を立てているだけだ。

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