私の彼女はカノジョだけ〜好きな人に恋人ができたので偽物の恋人を作って対抗してみた〜
四志・零御・フォーファウンド
浅き夢見じ 酔ひもせず
1
第1話
「色坂、帰るぞ」
同じく2年B組の生徒である
特に整えた訳でもない、寝ぐせのついたボサボサした髪。そして、何を考えているのか分かりかねる仏頂面は、周りの人間を寄せ付けない負のオーラを醸し出していた。
高校に入学した頃は、いろはが一生かかっても交わらない人物であろうと信じてやまなかった「日陰者」の部類。
180cmはあろうそんな男が、いろはを見下ろしていたら驚くのも無理はない。
「うわぁ! ……うん」
「なんだよ、そんなに驚くことじゃないだろ。てか、オレのこと見るだけで驚くなよ。……不審がられる」
「そ、そうね」
いろはと貫之の関係は外野からすれば、ちょっと釣り合わないと思われている高校生カップルにしか見えまい。
「恋人のフリをするって言いだしたのは、オマエの方だろ色坂」
「コラ、声大きい。それと、苗字で呼ぶなって言ってるでしょうが。怪しまれる!」
「……悪かったな、いろは坂」
「急に栃木の名所になったんだけど」
2人して縮こまって小声で話しているから、周りから視線を感じる。
特に、教壇の目の前の席で仲睦まじく談笑する2人の男女。
——しまった!
頭を揺らす度に、さらさらと揺れる綺麗な黒髪。くるんとした長いまつ毛。その整った顔立ちと女子高生の割に170cmもある身長から、テレビに出ていてもおかしくはない。
いろははそんな美少女同級生、
瀬里奈はくすぐったい笑顔を見せてから、いろはと貫之の元へ歩み寄る。
「ちょっと馬鹿! こっちに来てるんですけど!」
「馬鹿とは失礼だな。オレの方が中間の成績は上だぞ」
「そんなこと言ってないでしょうが!」
「2人とも楽しそうね」
「……そんなことはない」
貫之が視線を逸らして否定する。
「あらそう? 楽しんでるじゃない」
その主張に瀬里奈はくすりと笑った。
「そ、それで、どうしたの瀬里奈?」
「そうだった。2人を誘いに来たの」
「誘い? 何の?」
「ダブルデートしましょ?」
瀬里奈がいたずらっぽく微笑む。そのキュートな表情にいろはの心臓にハートの矢が突き刺さる。今見ている光景を脳に焼き付けたらどうにかしてプリントアウト出来ないだろうか。机に飾って毎日鑑賞していたい。
「……って、ダブルデート?」
くらくらした頭をどうにか立て直して、瀬里奈の言葉を
「そう。私と爽助君、いろはと桜庭君。この2ペアで一緒にデートするの」
瀬里奈の言葉に、いろはと貫之は顔を見合わせた。
思ってもいなかった大チャンスと同時に、自分の好きな人が恋人とイチャイチャしているサマを見せつけられる拷問でもある。
——どうする?
いろはは貫之に目で訴える。
——決まってんだろ。
貫之はそれに対して同じく目で返す。
そして、2人は大きく息を吸い込んで、同じ答えを口にした。
「行こう」
「行きます」
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