第7話
屋上に1人残されたいろはは、呆然として立ち尽くすしかなった。
瀬里奈は可愛い。モテる。凄くモテる。
それが分かっていながら、彼氏など出来るはずがないと思っていた自分が馬鹿らしい。
いつの間に、いろはの中で瀬里奈がアイドルみたいな存在になっていたのだろうか。
そもそも、ただのファンが推しとお近づきになろうなんて禁忌も禁忌。
それ以上に、いろはは恋愛対象として見られない時点で、恋人になろうなんて不可能なのだ。
「何やってんだろ私……」
いろはは1人で落胆してとぼとぼ屋上から去ろうと足を進めていると、貯水タンクの上からガタンという音がした。
何事かと振り返ると、ワイシャツ姿の男子生徒が顔をちらりとだけ見せて、こちらを窺っていた。
「……誰?」
「誰とは失礼な」
男子生徒は貯水タンクから飛び降りると、両足をぴたりと着けて綺麗に着地した。
「…………」
「…………」
「痛ぁ…………」
「そりゃそうでしょ」
5mはある高さから飛び降りたのだ。足を痛めるに決まっている。
「で、あなたは——ああ、同じクラスの……ごめん。名前が思い出せない」
「まぁ、日陰者だしそんなもんだよな。桜庭貫之だ。よろしく」
桜庭貫之。特徴と言われてもぱっと出てこないぐらい、目立たつ行動の無いクラスメイトだ。強いて言えば180cmの高い身長ぐらいだろうか。
「―—さて、話は聞かせて貰ったんだけどさ」
さっきの瀬里奈との会話、それに、いろはの独り言を聞かれていたのだ。
「き、きききっ、盗み聞き!」
「オマエたちが僕の昼寝を邪魔しただけだろ」
「いやいや、どーしてアンタみたいな男が屋上に入れるのよ!」
「それはこっちのセリフ。僕は非常階段のハシゴから上って屋上に来たんだ」
「何そのルート初耳なんですけど」
「去年定年退職した、地理のおじいちゃん先生に教えて貰った」
「ああ、あの人か」
貫之の言った通り、少し触っただけで倒れるんじゃないかと心配になるご高齢の先生がいた。授業中にその先生が立ちながら寝ていたこともあった。あらから数カ月しか経っていないが、いまでは懐かしく思える。
「それで、そっちは?」
「私は、瀬里奈から合鍵を貰って……って、そんなことよりも!」
いろはは貫之の前にワイシャツを掴む。
「私の独り言、聞いてたんだよね!?」
「あぁ聞いてた。七尾が好きなんだろ?」
「……ヘンでしょ。女が女を好きだなんて」
「別に。変じゃねえ」
「…………ふーん」
「だって僕、爽助君好きだし」
「…………ふーん。——ふふぅぅふっふ~~~っん!?!?!?」
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