第8話
「本気で言ってるの?」
聞き間違いでなければ、貫之は爽助が好きと言った。
「本気だよ。僕は道明寺爽助君が好きだ」
その言葉に揺らぎはなかった。
本気だ。
彼を好きになるということの意味を、貫之は理解している。
「えっと、じゃあ……」
「そうだよ! 唐突に片思いが終了したんだよ!」
瀬里奈と爽助が付き合い始めたところで、いろはだけでなく、貫之までもが失恋したことになったのだ。
「酷すぎないか! 僕はただ、昼寝に屋上へ来ていただけなのに、話声がすると思ったら好きな人に恋人が出来た報告を聞かされたんだ!」
今度は貫之がいろはの肩を掴んで、ぐわんぐわんと前後に振る。
「あんまりだろォ~~!!!」
貫之は、目に涙を浮かべながら顔を歪ませた。
失恋のショックで気分の良くなかったいろはだったが、貫之を見ていたら少しだけ元気が出てきた。
貫之は面白い男のようだ。
「はいはい、それは私も同じだからね」
「そ、そうか。……そうだよな。せめて、仲間が同じダメージを負った事実が救いなのか」
「救いなんてないわよ。私たちにはね」
元々ハッピーエンドなんて望んじゃいなかった。いや、望めなかった。いつか訪れる絶望に延命処置を施していたに過ぎない。その心構えからか、既にいろはは失恋から半分立ち直っている。
「そんなの僕にだってわかってるさ。でも、なんか悔しくないか。まだ高校生活は残ってるっつーのに、失恋したまま卒業まで過ごすのかよ」
「それもそうね。……ことあるごとに惚気話なんて聞いていたら大学受験どころじゃないかも」
想像しただけで、爽助に対して殺意が湧いて来た。
「うわ、それ僕も。もう高校やめようかな」
「たかが失恋しただけで学校止めるとか、メンタル弱すぎでしょ」
「……いや、だって」
「だってなに?」
「…………初恋だし」
「……それなら仕方ないか」
「意外な反応。罵倒されるかと思った」
「しないわよ」
初恋なら、仕方が無い。
いろはの初恋は中学生の時だった。
それは勿論酷い結末を迎えた。
同性を好きになることの意味の難しさを痛感した出来事だった。それなのに、高校に入って、また同性を好きになって——馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「ふぅ……ねえ、放課後、理科室へ行くけど、桜庭君も来る?」
「理科室? 何しに行くのさ」
「マッドサイエンティストに愚痴を聞いてもらうのよ」
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