第12話


「ね~、桃ちゃ~ん」


 桃は中学生の時に犯した、2の罪をずっと引き摺って来た。


 取り返しが着く内に、すぐ清算するべきだったのだ。


「ね~ってばぁ~」


 だから、瀬里奈は欲望のままに行動する。いろはは再び傷つく。爽助と貫之も同じだ。


 まさに、負の連鎖。


 この鎖を解く方法はあるのだろうか。


「桃ちゃ~~~ん」


「んだよ、うるさいな!」


「せっかく桃ちゃんの家に来たのに、全然かまってくれないじゃん」


 桃は、意識を中学生2年生の夏から、現実へと戻した。


「オマエが無理やり家に来たんだろ」


 理科室からいろはと貫之が去ってすぐ、瀬里奈はいろはへの好意を桃に伝えると、桃の制止を振り切り、家までついて来たのだ。


「桃ちゃんが上がってイイって言ったんだもん」

 

「たしかに言った。だが、いろはが好きとはどういうことか、説明してくれることを担保にしたはずだ」


 同性が好きなんてのはどうでもいい。問題はそこじゃない。いまの瀬里奈には道明寺爽助という彼氏がいるのだ。


「時間はたっぷりあるんだから、ゆっくり話そうよ」


 瀬里奈は本棚に差してある、シェイクスピアのリア王を手に取った。


「……感情の赴くままに素直な気持ちを表に出しても、ろくでもないことになるからね。ま、私はそんなことしないけど」


「なんだ、オマエはゴネリルか?」


 高齢のため退位することになったブリテンの王、リア王は、国を3人の娘に分割して与えることにした。長女ゴネリルと次女リーガンは甘い言葉で父を喜ばせるが、末娘コーデリアは素直な物言いで答えてしまい、立腹したリアに勘当されてしまう。


「うーん、そうかもね。じゃあ桃ちゃんはケント伯爵?」


 ケント伯爵はコーデリアを庇い、追放となる身だ。しかし、ケント伯爵は風貌を変えてリア王に再び身を捧げることになる。


「いいや、私はそうだな——」


 桃は自虐的な笑みで呟いた。




「道化師なんじゃないか」




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