第13話


「ふぅー」


 数学教師から出された課題をこなすと、時刻は21時を超えていた。

 

 凝った肩を回し、立ち上がったところで瀬里奈がいないことに気付いた。自室からでて、2階から1階へ向かう。階段の途中でシャワーの音が聞こえてきた。


 両親は多忙で、海外を飛び回っている。年に数回しか家に帰ってこない。とすると、今シャワーを浴びているのは不法侵入者か瀬里奈しかいない。


 脱衣所に入ると、ワイシャツとスカートが雑に脱ぎ捨てられ、その間から黒の下着が顔を覗かせている。


「おい七尾!」


 扉を叩くと、シャワーの音が止まり、瀬里奈の声が返って来た。


「どうしたの?」


「なぜ風呂に入っているんだ」


「いいじゃんべつに」


「私の許可なく入りやがって」


「なになに、一緒に入る?」


「どうして私が——」


 ガラリと浴室の扉が開く。


 2つの大きくせり上がった丘に思わず目が奪われる。濡れた艶やかな黒髪は突起を隠すように垂れ、火照った肌から浮かぶ白い湯気が、瀬里奈の大人びた色気を引き立てていた。


 すらりと伸びた瀬里奈の左腕が、硬直していた桃の頬に触れる。


「一緒に、入る?」


 桃はこの状況に未だ頭がついて行かない。


 それを分かっているかは定かではないが、瀬里奈は妖艶な笑みを浮かべ、桃のワイシャツのボタンを1つずつ丁寧に外していく。


 ものの数秒でワイシャツが床に落ちた。


「やっぱり、桃ちゃんは綺麗な身体してる。汚れの無い綺麗な身体」

 

 瀬里奈の両手が桃の耳を包み込む。


「……一緒に入らないんだ?」


 距離は限りなく零に近い。


 唇が首元に近づき、吐息がくすぐる。


 桃の身体は瀬里奈に支配されていた。熱い何かが喉元でくすぶって、あぁというもだえが溢れ出る。


 蜘蛛の罠に捕らえられた蝶は、自力で抜け出すことは不可能。


 膝が震え、瀬里奈にやさしく押し倒される。


 瀬里奈の膝が桃の下腹部をぐっと圧迫し、抵抗の術を失う。


「っ、はぁ………ハァ……っ……ハァ————」


 とろりと溶けた表情の瀬里奈が、桃を劣情の視線で見下ろしている。桃ができることは、苦悶に満ちた顔を右に背けることぐらいだった。


「―—私、難しい話、嫌いなんだよね」


 左耳から入った吐息交じりの声は、桃の脳内まで心地良い電流のように響く。


「リア王とかつまんないじゃん。悲劇。それだけ。ごちゃごちゃした話なんてヤメて、もっと、アタマ、悪くなろ?」


 瀬里奈は、桃の下着を口でずらして、彼女の隆起した性を貪り始める。


「うぅ……っい…………あぁ……——」




 その瞬間、桃の自我は快楽と共に何処かへ吹き飛んだ。






     *






 放課後、いろはいつものように理科室の扉を開けた。


「失礼しまーす」


 しかし、いつものぶっきら棒な返答はなかった。


「……あれ、休み?」


 今日は勉強を教えて貰おうと理科室を訪れたのだが、教室の主は不在だった。


 メッセージを飛ばしてみるが、返答の望みは薄いだろう。


「今日は瀬里奈も休みだったし。……風邪、流行ってるのかなぁ」




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