第11話


 理科室にいた桃は、チャイムの音で腕枕から顔を上げ、窓の外を眺めた。


 サッカー部たちが理科室の側を駆け抜けていく。先頭の道明寺爽助が笑顔で足を動かしている。グラウンドの中央からのヤジを見るに、チーム戦で負けた罰ゲームと言ったところか。


 青春の情景に嫌気が差して、つい先ほど淹れた紅茶を一口飲むと、桃は再び腕枕に顔を埋めた。


 だが、それを邪魔するように扉がトントン、と小さく叩かれる。桃の返事を待たず、扉は開かれた。


 桃は舌打ちをして、顔を上げる。


「なんだ、まだ用事が―—」


「ひさしぶりだね、桃ちゃん」


 どうせいろはが「忘れ物~」とか言って入ってくるのだと思っていた。だが、扉を開けて桃の目の前に立ったのは、渦中の人物、七尾瀬里奈だった。


「……チッ、何の用だよ七尾」


「明らかに嫌そうじゃん」


「明らかに嫌なんだよ」


「あれぇ、もしかして、いろはに聞いたの?」


「何のことだ?」


「とぼけないでよ。彼氏のこと」


「クソが。帰れ」


「汚い言葉使わないでよ、可愛いのに」


「オマエに言われると嫌味にしか聞こえない」


「いやいや、本心だよ。桃ちゃんなんて私より素材がイイし、前髪あげて、ほんのちょっとメイクしただけでも男の子がほっとかないよ」


 瀬里奈の言葉が本心なのか、桃には一切わからなかった。


「……どいつもこいつも面倒だな。さっさと本題に入れ」


「じゃあ言うね。ずっと前から好きでしたって言われて付き合った彼氏と、交際期間数日で周りに嫌味を言われることなく、切り抜ける上手な別れ方を教えて」


「…………は?」


「だーかーらー、付き合ってる彼氏と円満に別れる方法を考えて欲しいの」


「何言ってんだよ。おかしいだろ」


「おかしくなもん」


「どうして? 何故だ?」





「―—だって私、いろはのことがチョー好きだもん」


 

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