第3話 結界師に負けるわけないってマジですか

「お前は……アルク・バリアード!」


 俺の名前を知っている……?

 同じオロカール帝国軍にいたが、こいつらと面識はないはずだが。

 

「なぜ俺の名前を?」

「無能な結界師がクビになったと聞いてな。まさか魔族に寝返るとは見下げ果てた奴だ」


 もう俺のクビが噂になっているのか。 

 人事の噂はみんな気になるしな……

 だが、俺は魔族に寝返ってはいない。完全に言いがかりだ。


「寝返っていないなどいない。俺は人間の味方だ」


 しかし、俺はオロカール帝国軍に戻れない。

 オロカール帝国軍に未練はないが、俺は人間だから魔族の味方はしない。

 だが、エルフの少女を剣で脅すのは見過ごすことはできない。

 エルフは人間と魔族の間にいる、亜人という種族だ。

 人間側から魔族扱いされ、魔族側からは人間扱いされる。なかなか難儀な立場にいた。


「魔族に寝返ってたのなら、殺しちまっていいってことだよな」

 

 男たちは剣を俺に向けた。

 魔族に寝返っていないと言ったはずだが、俺の話を聞く気はまったくないらしい。

 相手の男たちは3人だ。

 俺は1人で、しかも、なぜかエルフの少女を守りながらだ。

 うんうん、これはすごく不利だな……


「結界魔法しか使えない無能結界師が、俺たちに勝てるとでも?」


 鎧の紋章を見ると、こいつらは鉄鎖騎士団の連中だ。

 オロカール帝国軍でも、荒くれ者を集めた部隊だ。

 末端の騎士たちは給金も安く、待遇が悪い。

 最近、不満を持った一部の連中が、勝手に魔族の領土内に侵入し、魔族から略奪をしている噂があった。

 おそらく、この男たちが犯人だろう。


「おらあ!死ねえ!」


男の一人が俺に斬りかかってきた。

俺は右の手のひらを男に向ける。


「ぐふっ……!」


男は大きく宙を舞い、どすんと地面に落ちた。


「な、何が起こった……?」

「結界だよ」


驚くのも無理はない。

俺の結果は普通じゃない。

まず、目には見えないし、無詠唱で展開できる。

並の結果師なら結界を張りたい場所に魔法陣を描き、長い呪文を唱えてやっと結界をつくることができる。

だが、結果魔法を極めた俺は、詠唱も魔法陣も要らなかった。


「クソっ……!結界師のくせに妙な魔法を使いやがる……」

「いやいや、だからただの結界なんだってば」


男の一人が呪文の詠唱を始めた。

人の動きを止めるデバフ魔法――ピオルムを使うつもりらしい。

うわあ……詠唱なげえなあ。


「おらあ!喰らえ!」


下品な声と一緒にピオルを俺に放った。

俺は左手の指を男に向けた。


「身体が……動かねえ。何をしやがった?」

「ただの結界だよ」

「これが……結界?」


俺の結界は魔法の威力を増幅して跳ね返すことができる。

だから奴の身体は普通のピオルの何倍も重たくなっている。


「ぐ……があああああ」


男は立てなくなり、犬のように四つん這いになった。


「このままじゃ死んじまう。なんとかしてくれ」

「この子に謝れ」

「なんだと?」

「お前らはこの子のポーションを奪おうとした。それは悪いことだろう?早く謝れ」


俺の背中に隠れていたエルフの少女を見た。

フードを被って、ぶるぶる震えていた。














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