第12話 早く帰ってほしいなあ

「そうか……俺のせっかくの慈悲を拒むか。お前が生き残る最後のチャンスを自ら捨てるとは。ならばパーハラ将軍の名において、お前を処刑する!」


 自分の名において俺を処刑する……相変わらずわけわからんオッサンだ。

 こっちはそろそろ負けを認めて帰ってほしいのだが。

 しかしあれでも、パーハラ将軍は人間軍ではSランクの強さだ。魔力はかなり強い。

 少し結界の強度を調整しておくか。

 俺が右手を挙げようとすると――


「よおし!我が精鋭たちよ!撤収だあ!!」

「え?」


 戦う気でいた俺は、拍子抜けしてしまった。

 俺を処刑するんじゃなかったのか。


「がははは!逃げるわけではないぞ!戦略的撤退、俺は将軍としての英断を下したのだ!お前のような雑魚にはわかるまい!!」


 ポジティブすぎる思考だ。

 俺も見習いたい……いや、見習いたくない。

 まあ、パーハラ将軍にしては賢明だ。

 どうせ奴らは俺の結界は破れないしな。


「勝ちましたね!アルクさん!!」


 エミリアが俺に抱きついた。


「ありがとう。エミリアのおかげだ」

「え?あたしのおかげ……?」

「エミリアが俺をエルフの村に連れて来てくれたからさ。エルフ族は魔力が元々強いから、俺の結界も強くなったんだ」

 

 俺の結界は、魔力の強い場所で作れば、その分強度を増す。

 エルフ族の村で結界を張ったおかげで、普段より強い結界ができた。


「あの、アルクさん……」


 隠れていたエルフたちが俺の周りに集まってきた。


「すまなかった。アルクさんのことを疑ってしまって……」


 俺の胸ぐらをつかんだエルフの男が謝ってきた。


「気にするな。この村は散々人間軍に襲われてきたんだ。人間の俺を疑うのは無理ない」


 エルフたちはずっと人間軍に踏みにじられてきた。

 人間に対する不信感は魔族の中でも強い。

 だから俺を人間軍のスパイだと思うのは自然なことだ。


「……本当に申し訳なかった」


 村長が頭を下げた。

 

「いえいえ。仕方のないことですから」

「こんなことを頼める立場ではないが……この村にしばらく居てくれないか。人間軍が報復に来るかもしれん。人間軍からこの村を守るには、アルクくんの力が必要だ」


 深々と頭を下げる村長。

 村長に続いて、他のエルフも頭を下げた。

 こんなに大勢から頭を下げられたことはない。

 人間軍では俺が結界を張っても、感謝されたことは一度もなかった。


「アルクさん!お願いです!私たちの村を助けてください!


 エミリアが俺の手を握った。

 白くて小さな手だ。

 ……村長の言う通り、人間軍は報復に来るだろう。

 パーハラ将軍は小物だが執念深い男だ。

 それに、こんなエルフの小さな村ひとつを征服できなかったとなれば、人間軍での地位も危ういものになる。

 今日よりもさらに強い部隊を率いて、この村に攻め込んでくるはずだ。

 

「わかりました。人間の俺がいさせてもらえるなら……喜んで」

「おお!ありがとう!!これから歓迎会を開かせてくれ!」




 


 

 


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