第19話 今更戻ってこいと言われても、もう遅い

 俺は村長の家で夕食をご馳走になっていた。


「今夜はキラーグリズリーの鍋ですよ!たくさん食べてくださいね」

「お、おう……」

「アルクさんのために作ったんです!」

 

 こないだ俺は、森でキラーグリズリーを仕留めた。

 俺の目の前に、キラーグリズリーの肉がたっぷり入った鍋が置かれた。

 かなり脂が乗った肉だから、全部食べるのは胃の負担になりそうだ……

 エミリアがキラキラした目で俺を見ているから、ここは頑張って完食しなければ。

 

 俺が肉に箸をつけた時——


「村長! また人間軍が攻めてきた!」


 エルフの男が家に駆け込んできた。


「……やはりか。鐘を鳴らせ。戦士たちを集めろ!」


 ねっちこい性格のパーハラ将軍が、この村を諦めるわけないか。

 小さなエルフの村を征服できなかったとなれば、将軍から兵士へ降格か、最悪の場合、人間軍をクビもあり得るだろう。


「アルクくん、頼む。またこの村を救ってほしい。人間の君に助けてほしいと頼める義理はないが…この村は、君だけが頼りなんだ」


 村長が頭を下げた。

 

「あたしからもお願いです! あたしたちの村を助けてください! アルクさんだけが、あたしたちエルフを救えます!」 


 エミリアも頭を下げた。

 頬から涙を流している。

 エルフたちは人間の俺を暖かく迎えてくれた。

 長年の敵だったはずなのに、俺に親切にしてくれた。

 俺はこの村を守りたい。


「わかりました。この村は俺が守ります」


◇◇◇


 俺は村の入口へ向かう。

 パーハラ将軍の部隊が村の前に集結していた。


「アルク・バリアード……お前に降伏を勧告する。今、結界を解けばまた将軍補佐に戻してやろう」


 将軍補佐か……散々パワハラしておいて何を今更。

 死んでも戻りたくない。


「嫌ですね」

「なあ、アルクさん……」


 アルク「さん」!

 パーハラ将軍が俺を「さん」付けで呼ぶとは。

 人間軍にいた頃は俺を「無能」とか「屑」とか呼んで、俺の名前すら呼んだことなかったのに。


「アルクさんはすごい! 今まで評価してなくて本当に悪かった! 戻ってきてくれたら高待遇を約束しよう。給料は3倍、残業はなし、休暇は年に180日だ」


 この戦いで村を征服できなければ、パーハラ将軍には悲惨な未来が確定する。

 だがら必死なんだろう。見下していた俺を持ち上げて、なんとか結界を解かせる気だ。

 ……下衆な魂胆がミエミエだぜ。


「ふーん……なかなかいいな」

「だろ? だから人間軍に戻ってきてくれないか?」

「断る。今更もう遅い」

「……そうか。断るか。やはり貴様は、人間の屑だ! 俺が処刑してやる! 総攻撃だ!」


 ほらほら。

 すぐに本性を現しやがった。



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