結界魔法しか使えない無能と蔑まれ、人間軍をクビにされた結界師の俺、闇堕ちして魔王軍の守護神となる。結界は永続じゃないから、メンテはそちらでよろしく〜

水間ノボル🐳@書籍化決定!

第1話 結界師の俺、人間軍をクビになる

「アルク・バリアード。貴様はクビだ!」  

「……は?」


 皇帝陛下に呼び出された俺は、クビを宣告された。


「……すみません。それは、将軍補佐の役職から外すということでしょうか?」


 人間と魔族が争う時代。

 オロカール皇帝率いる人間軍で結界師をやっていた俺は、結界魔法で人間軍を守りながら、将軍補佐としていろいろ雑用もこなしていた。


「違う。オロカール帝国軍をクビにする」

「この俺が……クビ?」


 俺は結界師として、オロカール帝国軍に大きく貢献してきた。

 魔王軍が竜騎士部隊で攻めてきた時も、俺の結界で帝都を守ってきた。

 一つ目の巨人、ギガンテスがやって来た時も、俺の結界で撃退した。

 それなのに、俺をクビにするだって?


「貴様がクビになるのは当然だ」


 魔術師でオロカール皇帝の息子、ゴウマン・オロカール皇子が蔑んだ目で俺を見ていた。

 二つ名は、灼熱のゴウマン

 炎属性の魔法を得意とする。

 究極奥義フレアキャノンは、どんな魔物も焼き尽くすと言われる。


「貴様は、結界魔法しか使えない無能。他の魔法を使えず、まったく我が軍の足手まといだ。今日付で貴様はクビだ。さっさと出て行け!」


 唾が飛ぶほどの勢いで怒鳴る。

 本気で俺を追い出したいようだ。


「……わかりました。出ていきます」

「結界魔法など、誰でもできるからな。貴様の代わりはいくらでもいる。他の魔法も使える優秀な結界師をすぐに雇うから安心しろ」

「はあ……そうですか」


 なるほど、な。

 結界魔法は誰にでも使える——その通りだ。

 ただし、俺の結界魔法は特別だ。


 オロカール帝国の帝都、アウストリアを丸ごとひとつ収めるほど広範囲で、しかも魔王軍の猛攻撃を耐える強度を保たないといけない。

 それほどの結界を張れるのは、俺が他の魔法を使えないから、結界魔法をひたすら極めたからだ。

 そして結界は、毎日メンテナンスをしないと、少しずつ弱くなっていく。


「なんだ、その余裕ありげな顔は? 貴様、オロカール帝国軍をクビになるのだぞ?結界魔法しか使えない貴様は、路頭に迷うことになる」

「そうですね……野垂れ死ぬかもしれません」

「ははは! 貴様なんぞいなくても、俺が魔術師の仕事の片手間に結界を作るさ!」


 片手間、ね。

 まったく言ってくれるぜ。


「私は反対です! アルクさんは、オロカール帝国軍に貢献しています! 私もみんなも、アルクさには助けられています! クビはおやめください!」


 オロカール帝国軍の聖女、レティシアだけが俺を擁護してくれた。

 レティシアはゴウマンや皇帝からキツく当たられる俺に、いつも親切にしてくれた。


「どうせこの無能がやっているのは雑用だ。雑用は誰にでもできる。戦闘で役に立たない奴を食わせる余裕は、我が軍にない」


 国王の息子のゴウマンは、雑用やったことないからな……

 世の中、めんどくさいことでも誰かがやらなきゃいけないのだが。


「わかりました。そこまで言うなら退職します」

「さっさと消えろ!無能な結界師!」


 背を向けた俺を、ゴウマンが罵った。

 今まで激務に耐えてきたのに、この仕打ちか。


 結界のメンテナンスが心配だ。

 ゴウマン皇子はともかく、他のみんなに危険が及ぶのは嫌だ。

 だが、クビになった以上、俺には何もできない。

 最低限、仕事の引き継ぎだけはしておこう。オロカール帝国軍に残された人たちが困らないためにな。

 



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