第2話 クビになった俺には関係ないけど

 オロカール帝国の要塞ハーメツを出た。

 ここは戦いの最前線であり、魔族の領土は目と鼻の先にある。


 俺に行く当はなかった。孤児だった俺は、生まれた頃から要塞ハーメツの中で育ち、魔王軍と戦うためにひたすら魔術の鍛錬に勤しんだ。

 魔術の才能のなかった俺は、結界魔法しか習得できなかった。

 孤児の俺を育ててくれたオロカール帝国軍に貢献したかったから、たった一つしか使えない結界魔法を極めて、なんとかオロカール帝国軍に居場所を作った。

 なのに、追放された——


 気がつくと俺は、魔族との国境の森をさまよっていた。

 魔族の斥候がいる危険地帯だ。

 どうせ行くあてもないし、死んでもいいか……

 

「腹が減ったな……」


早朝に呼び出されてそのまま追放されたから、朝から何も食べていなかった。

 

「きゃああああああああああ!」


 少女の悲鳴が聞こえる。いったい何だ? 


 俺が悲鳴が聞こえた方へ走っていくと、少女が男たちに囲まれていた。

 俺は近くの樹の影に隠れて、少女と男たちの様子を伺うことにした。


「エルフか……」


 エルフの少女が、男に剣で脅されている。

 長い耳に金髪、エルフの特徴だ。

 男たちのしっかりした装備を見ると、オロカール帝国軍の兵士だ。


 俺は樹の影に隠れて、様子を伺うことにした。

 

「へへっ! ……そのポーションを寄越しな!」


 いかにも悪どい顔をした男が、少女の喉元に剣を突きつけた。

 エルフの作ったポーションは、かなり高値で売れる。

 今は魔族と戦争をしているから、ポーション自体が不足している。そこでエルフの作ったポーションだと言って売れば、家が建つくらいの大金が手に入る。


 ……人間軍はもっとマシな人材を雇えないのか。これでは、人間軍の評判が落ちてしまうじゃないか。いくら何でもクズすぎる。

 ま、クビになった今の俺には関係ないけど。


「これは病気のおばあちゃんのために作った、大切なポーションなの! 絶対に渡さない!」


健気にもエルフの少女は、男たちの要求を拒否する。男たちは顔を見合わせて、何か相談している。エルフの少女が意外にも抵抗するから、どうするか考えているんだろう。さすがに殺したりはいないだろうが……


「そうかそうか。なら、死ね」


男のひとりが、剣を振り上げた。

おいおい。それは最悪な選択だ。エルフの少女を殺して何の得がある?

同じ人間が非道なことをするのは放っていけない。女の子を殺すなんて俺は許せない。


「いやああああああ!」

「待て!」


俺はとっさに男たちの前に飛び出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る