第4話 結界師はエルフの少女を助けてしまう
「クソっ……魔族なんぞに頭を下げられるか」
男はうめいた。
「そうか。ならずっとそうしてろ」
男の身体はカエルのように地面にうつぶせになった。
もう自分の力で身体を支えることができないようだ。
「覚えてろよおおおおお!」
残っていたもう一人の男が逃げ出した。
いかにもモブの小物みたいな、捨てセリフ吐きやがって……
「じゃあな」
俺は動けなくなった男にくるりと背を向けた。
「わかった! 謝る! 俺が悪かった」
「俺にじゃない。彼女に謝れ」
「お嬢ちゃん、俺が悪かった! 許してくれえ!」
エルフの少女は俺をきょとんした顔で見た。
「どうする……? この男を許す?」
エルフの少女に、優しく声をかけた。
俺は割と顔が怖いと言われる。
少なくとも人間の子どもには、いつも泣かれていた。
いわゆる「顔面結界」というやつである。悲しいぜ。
だからなるべく声色ぐらいは、優しくしたい。
「……はい」
とても小さな、震える声で俺に告げた。
こんなクソ野郎を許してやるなんて、本当に優しい子だな。
それとも、今の状況が怖すぎて、とにかく早く逃げたいのかもしれない。
「ぐっ……がはっ……」
倒れた男は汚いうめき声を漏らした後、顔から地面に突っ伏した。
「わ!」
エルフの少女は、男に駆け寄った。
「大丈夫だよ。気絶しているだけだ。しばらくしたら目覚めるよ」
さっきまで自分を脅していた男を心配するなんて、すごいお人好しだ。
お人好しすぎて、この子のことが心配になってしまう。
「あ、あの、助けてくださってありがとうございます……!」
「君は大丈夫?怪我していない?」
「だ、大丈夫です!」
エルフの少女は自分の身体を慌てて手で撫で回した。
怪我がないか確かめているんだろう。
なんだか、あたふたした忙しない子だな……
「あ、あの、あなたは大丈夫ですか……?」
この子、俺の心配をしてくれているのか……
オロカール王国軍では俺を心配してくれる奴はいなかった。
いや、レティシアさんだけは心配してくれたか。
俺の身体をマジマジと見て、本気で怪我がないか心配してくれている。
すごくいい子だな……
「とにかく無事でよかったよ。ここらへんが人間軍の騎士がいるから気をつけて。じゃあね」
俺はエルフの少女に背を向けた。
まさか昨日まで人間軍の結界師だった俺が、まさか亜人のエルフに「気をつけて」 と言う日が来るとは……
「……ち、ちょっと、待ってください!」
エルフの少女は真っ赤な顔をして、叫んだ。
声が裏返ってしまっている。
「……何か用?」
「お礼、させてください!」
エルフの少女は身体を直角に曲げて、俺に頭を下げた。
長いブロンドの髪がばさっと顔にかかる。
「いいよ。お礼なんて。君が無事だっただけでよかったよ」
「だ、ダメです! 助けてもらたっら必ず恩返しするのがエルフの掟なんです!」
そんなめんどくさい掟があるのか。
エルフの世界もいろいろ大変なんだな。
「君の名前は?」
「え、エルミアと言います……ごめんなさい! 変な名前ですよね?」
「別に変な名前じゃないけど……?」
「ほ、本当ですか? ありがとうございます! 嬉しい!」
ちょっと変な子かも……
たぶん優しくていい子なんだろうけど。
顔はめちゃくちゃかわいいのに「残念な美少女」ってやつか?
「近くにエルフの村があります! 一緒に来てください!」
エルミアは俺の手を掴んで、すごい力でグイグイ引っ張って行く。
人間嫌いで有名なエルフたちの村に行けば、絶対にめんどくさいことになるが。
でもせっかくお礼してくれるんだ。ちょっと行ってみるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます