第10話 ただの結界なのだが

 魔術師部隊が、村の入口に集結する。

 漆黒のローブを着ているから、ブラック・ソーサラーと呼ばれる。Bランクの魔術師たちだ。

 結界魔法しか使えない結界師の俺は、一人前の魔術師と見なされず、魔術師部隊に入らなかった。


「アルク・バリアード……貴様、無能結界師が魔族に寝返りおって!」


 魔術師長のムーノー・ヘルファイアだ。

 面識はないはずだが、俺の名前を知っている。

 オロカール帝国軍にいた頃は、廊下ですれ違っても目さえ合わせなかったくせに。


「寝返ってはいないが……」

「この恩知らずが! 魔術師になれなかった無能結界師風情に何ができる? エルフどもと一緒に焼き殺してやるわ!」


 ムーノーが呪文の詠唱を始めた。

 この呪文は、炎属性魔法だ。

 しかも、炎属性最上級魔法のヘルフレイム——

 長い詠唱をして、威力を上げているつもりらしい。


「アルクさん……逃げないと!」


 エルミアが俺の腕を掴んだ。

 身体がぶるぶる震えている。

 ひどく怯えていた。

 オロカール帝国軍の魔術師が、最上級魔法の詠唱をしているんだ。

 逃げないとヤバいと思うのが普通だ。

 だが——


「大丈夫だよ。怖くない。対処済みだ」


 震えるエルミアの頭を撫でた。

 金色の髪はさらさらして柔らかい。

 ふわりといい匂いがする。


「貴様! よそ見している場合か! 死ねえええ!」


長いルーンの杖から、ムーノーはヘルフレイムを放つ。

 おいおい。そんな強い攻撃魔法を使ってしまうと……


「きゃあああああああ!!」


エルミアが俺にぎゅっと抱きついた。エルミアの豊かな胸が、腕に押し当たる。


 馬車ほどの大きさがあるどデカい火の玉が、凄まじいスピードで俺たちに近づいてくる

 しかし——


 村の入口で、火の玉はくるっと向きを変えた。

 それを放った人間の方へ。

 

「うわああああああああああああ!!」


ムーノーは叫びながら、逃げ回る。

 残念だが、無駄なことだ。

 俺の魔法反射結界は、相手の攻撃魔法の威力を増幅し、正確に相手を追撃する。

 

「ぎゃああああああああ!!」


 ムーノーは炎に包まれた。

 火だるまになって地面を転がり回る。


「おーい! 早く水魔法を使ってやれ!」


 俺はムーノーの部下たちに呼びかけた。

 いくら敵とはいえ、人が焼け死ぬのは忍びない。


「くっ……! ウェイブ!」


部下の一人が水魔法——ウェイブを使った。ムーノーの頭上に水滴が集まる。水が落ちる。

 頭から水をぶっかけられて、ムーノーの炎が消えた。


「はあはあ……結界師め! 妙な魔法を使いやがって!」

「ただの結界なんだが」




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