第16話 なんであいつばっかり持ち上げられるんだよ

「ぎしゃああああああああああああ!!」


 キラーグリズリーがエミリアめがけて突進してくる。

 Aランクの魔物で、並の冒険者パーティーなら軽く全滅させるほど強い。

 

「エミリア!」


 俺はエミリアの身体を抱き寄せる。

 右手を挙げて、俺は結界を張る。

 キラーグリズリーは強いが、物理攻撃しかできない。

 物理反射結界の強度を高めれば、十分対処可能だ。


「アルクさん……怖いです」

「大丈夫だ。もう安全だから」


 キラーグリズリーが鋭い爪を振り下ろす。

 ——この時点で、俺の勝利が確定した。

 悪いな。森のクマさん。


「ぐわああああああああああああああ!!」

 

 キラーグリズリーの爪がバキバキに折れる。

 鋼鉄の鎧も貫くキラーグリズリーの爪は、粉々に砕け散った。

 

「ぎしゃああああああああ!」


 今度は牙で俺たちを噛み砕こうとする。

 だが——無駄なことだ。


 キラーグリズリーの牙は砕けた。

 口から血が吹き出し、悶え苦しむ。

 

「終わりにしよう。バイバイ。クマさん」


 俺は指を弾いた。

 

「きゃん!」


 恐ろしいキラーグリズリーは、子犬のようなかわいい声を出して、空高く吹っ飛んだ。

 俺の物理反射結界は、受けた物理攻撃の威力を溜めておくことができる。

 今までの攻撃を一気に反射したから、馬10頭分の重さがあるキラーグリズリーも、簡単にぶっ飛ばせるわけだ。


「ぐうぅ……」


 木に頭がぶち当たって、死んでしまったらしい。

 ……南無。


「す、すごいです……キラーグリズリーを1人で倒してしまうなんて」

「大したことないよ。ただの熊だし」

「魔王軍の黒騎士が10人がかりでやっと倒せる魔物なのに……アルクさんはすごすぎます」


 俺はただ結界魔法を極めただけなのだが。

 人からすごいなんて言われたことないから、俺はつい苦笑いしてしまう。


「せっかくアルクさんがクマさんを仕留めたんです。今日は熊鍋にしましょう」

「え?キラーグリズリー食べるの?」

「すっごくおいしいんですよ!腕によりをかけて作りますね!」


 ゴッツイ魔物のキラーグリズリーを食べるという発想はなかった。

 どんな味するんだろう……ちょっと怖いな。


◇◇◇


「キラーグリズリーを1人で仕留めるとは……アルクくん。君はいったい何者なんだ?」


 村長が驚いた顔で、俺はたちを出迎えた。


 俺は移動結界でキラーグリズリーを村まで運んだ。

 対象を結界で作った箱に入れて、魔力を込めることで移動させる。


「ただの結界師ですよ」

「とても信じられないな……」


 信じないも何も、ただの事実だ。

 俺は結界魔法しか使えない結界師。

 信じられないと言われても困るぜ。


 俺たちがキラーグリズリーを仕留めたと聞いて、村のエルフたちが周囲に集まってきた。


「すごい!キラーグリズリーだ!」

「毛皮がたくさん取れるぞ!」

「いい薬が作れるわ!アルクさんありがとう!」


 キラーグリズリーは、食糧になるだけでなく、毛皮も高く売れるし、薬の材料にもなる。

 かなりいろいろなことに使えるようだ。


「けっ!なーにがキラーグリズリーだ!どうせその辺に転がっていた死体を持ってきただけだろ!人間がキラーグリズリーを倒せるわけねえ」


 森へ行く前に俺に絡んできたエルフの戦士、コモンがやって来た。

 森でエミリアから聞いたが、コモンはエルフの戦士たちのリーダーらしい。

 

「あたしは見ました。アルクさんがキラーグリズリーを倒すところを」

「嘘つくんじゃねえ。人間から金でももらったのか?」

「そんなことするわけないでしょ!」

「おい、人間。調子乗るんじゃねえぞ」


 コモンはキラーグリズリーを蹴っ飛ばして、俺を睨みつけた。

 コモンはエルフの戦士だ。何年も人間軍と戦ってきたから、人間の信用できないんだろう。

 それに、しばらくこの村にいるなら敵を作りたくない。


「ええ。コモンさんの言う通りです。たまたまキラーグリズリーの死体を見つけたんです。運がよかったです」

「アルクさん!なんでそんな嘘を……」


 エミリアが俺の腕を掴む。


「ははっ!やっぱりな。人間の結界師ごときにキラーグリズリーを倒せるわけねえ」

「その通りですね」

「わかればいいんだよ!俺たちのほうがお前より強えんだ!これからは謙虚になれよ」


 がははと笑いながら、コモンは帰って行った。


「アルクさん……どうして?アルクさんはキラーグリズリーを倒したのに」

「俺はこの村では新参者だ。波風立てたくない」

「それにしたって……アルクさんは謙虚すぎますよ」


 謙虚すぎるか。

 人間軍ではレティシアを除いて、誰にも評価されなかった。

 評価されないのが普通だと思っていたから、どうしても自信を持てないでいた。

 あ、そう言えば、人間軍に残してきた結界はどうなっているかな。

 そろそろ弱くなり始めている頃か……



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