第15話 アルクさんと手を繋ぎたい

 俺とエミリアは森の中を歩いていた。

 テーベ村から歩いて10分ほどのところにある《迷いの森》。

 背の高い常緑樹が鬱蒼と茂って少し暗い。

 エルフ族が共同で所有する森で、エルフ以外が入ると出られなくなる。

 ここなら人間軍もいないはずだ。


「ふふふんん♫」


 エミリアは鼻歌を歌いながら、スキップしている。

 エルフ族の言葉で、俺には歌詞の意味はわからなかったが、楽しい歌であることは間違いない。

 

「ねえ、アルクさん。手をつなぎましょう!」

「え?」


 俺の前を歩いていたエミリアは急に振り返った。

 白くて小さな手を、俺に差し出した。


「迷いの森はその名の通り、エルフ族以外は迷ってしまいます。だから手を繋いだほうが安心です!」

「まあ……そうだけど。別の手段はないのかな?」

「えーと……じ、じゃあ、抱き合ちゃいます?」


 ……なぜそうなる??

 エミリアは伏し目がちに、頬を赤くしている。

 足をもじもじさせているし……相変わらず変な子だ。


「……手をつなぎましょう」

「やったあ!アルクさんと手をつなげる!計画通りですう!!」

「計画?」

「あーあー!なんでもないです!先を急ぎましょう!!」


 さらに顔を赤くしたエミリアは、俺の腕をぐいぐい引っ張って歩き始めた。


 しばらくエミリアと手をつないで歩いていると、開けた場所に出てきた。

 澄んだ泉が中央にあって、その周りに美しい草花が咲いている。


「ここはエルフの泉です。周りに薬草がたくさんはえています。エルフ族しか来れない特別な場所なんですよ」

「へえ……きれいだな」

「え?きれい?あ、あたしが……?」


 エミリアが頬に手を当てて恥ずかしがる。


「いや、エルフの泉が」

「もお!アルクさんの意地悪!!」


 エミリアが俺の腕をポカポカ叩いた。


「じゃあ、薬草を積みましょう!」

「でも……俺は薬草のことは何もわからない」

「あたしがアルクさんの先生になってあげますから!えっへん!!」

「有難いよ。いろいろ教えてくれ」


 人間軍では戦うことしか教わらなかったから、俺は薬草のことは何も知らなかった。

 人間軍をクビになった俺は、一人で生きていかないといけない。薬草の知識があると役に立つ。


 エミリアは足元の薬草を摘んで、


「これはね、月光草っていうの。麻痺状態を治癒する薬草で、葉っぱの周りがギザギザでしょ」

「へえ……ギザギザだ」

「指が切れちゃうから気をつけてくださいね!」

「エミリアはいい先生だな。教えるのが上手だ」

「てへへ!嬉しいですぅ!!」


 くるくる身体を回して喜ぶエミリア。

 いくらなんでも喜びすぎだ……

 でも俺の言葉でエミリアがこんなに喜んでくれるなら、これからもっとエミリアを褒めていこう。


「では、次の薬草は――」


 エミリアが俺に次の薬草を見せようとした時、背後から声がした。


「ぐしゃああああああああああああああああああああ!!!」


 俺たちが振り返ると、


「あれは……キラーグリズリー!!」

 

 

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