第7話 結界師は大砲を跳ね返す

「森から火が……!」


 俺とエミリアは家の外に出た。

 森の東のほうで、火の手が上がっている。


 どおおおおおおおおおん!


「人間軍の大砲だ」

「また村を襲いに……」

 

 わざわざ人口の少ない、こんな小さな村に大砲を使うとは……コストパフォーマンスは最悪だ。

 たぶんゴウマン皇子の発案だろう。エルフたちにオロカール帝国軍の力を見せつけるために、わざと大砲を持ち出しているのだ。

 小さな村だから歩兵で攻めればいいものを、見せしめのためだけに大砲を持ち出している。

 現場の兵士は大変だろうな……俺もゴウマン皇子の無茶な作戦に振り回されて苦労した。

 しかし、オロカール帝国軍が大砲を持ち出してくるということは、今回はこの村を本気でぶっ潰すつもりだ。

 エミリアが俺の服のすそを掴んだ。


「すごく怖いです……アルスさん」

「大丈夫だ。この村は俺が守る」


 昨日の騎士団のはみ出し者と違って、オロカール帝国軍と真正面から戦うことになる。

 確実に魔王軍側に寝返ったと思われるだろう。

 しかし、俺を追放したのはオロカール皇帝とゴウマン皇子だ。

 ずっとオロカール帝国軍に尽くしてきたのに……


「貴様! 人間ではないか!」


 剣を持ったエルフの男たちが俺を取り囲んだ。


「人間軍のスパイめ!殺してやる!」


 エルフの男が俺に剣を向ける。


「違います! アルクさんはあたしを助けてくれたんです!」


 エルミアは俺の前に出た。

 余所者の俺を、庇ってくれている。

 なんていい子なんだ……

 オロカール帝国軍じゃ、誰かに庇ってもらうなんてあり得なかった。


「そんなの信じられるか!」

「……俺はエルフの味方だ。今、証拠を見せてやる」


 ここで言い合いをするより、行動で信じてもらう。

 俺が敵じゃないってことをわかってもらうしかない。


 どおおおおおおん!


 人間軍が大砲を放った。

 この爆音から考えて、砲弾が村へ飛んでくる。


 俺は左手を空に向けた。


「お前、ふざけてんのか?」


 エルフの男が俺の胸ぐらを掴む。


「まあ、見ていてください」

「砲弾が飛んでくるわ! みんな逃げて!」


 近くにいたエルフの女性が叫んだ。


「アルクさんも逃げないと!」


 エルミアが俺の手を掴んだ。


「大丈夫だよ。もうこの村は世界一安全だから」

「え?」


 ばあああああああああん!


 砲弾が空で跳ね返った。


「うわああああああああああああ!!」


 人間軍の奴らの叫び声が聞こえる。


 どおおおおおおん!


 俺の物理反射結界は、攻撃を正確に相手に打ち返す。

 遠くで火の手が上がっている。

 ちゃんとオロカール帝国軍の砲台を破壊してくれたようだ。


「安心して。もう怖くない」


 俺は震えるエルミアの頭を撫でた。


「すごい! いったい何をしたのですか?」

「ただの結界だよ」

「アルクさんの結界、すごすぎます……」


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