第6話 エルフの家に泊まる
「この村は最近、オロカール帝国軍の襲撃に遭うようになって……村人が次々と逃げ出すようになりました……」
村長さんが暗い表情で言った。
たしかにテーベ村は、オロカール帝国の領土に近い。
オロカール帝国は領土を拡大するため、近々、魔族の村へ侵攻する計画があると聞いていた。その布石として、テーベ村を襲わせているんだろう。
「他の人たちも、都会へ逃げてしまいました……」
灯のついていない家が多いのは、村人が都会へ逃げ出したせいか。
近くにきれいな森も川もあって、風光明媚なテーベ村だが、人がいなくて寂しい感じだ。
「……はい! 辛気臭い話は終わりにして、ご飯にしましょう!」
マグロードさんの奥さんが手を叩いた。
マグロード家の歓待を受けた俺は、ご馳走を振る舞ってもらい、一晩泊めてもらうことになった。
行くあてのない俺にとって、一晩でも泊めてもらえるのは有難かった。
オロカール帝国軍では毎日、硬いパンと水だけしか与えられていなかったから、奥さんの料理に俺は感動した。
「ふう……今日は疲れたぜ」
ベッドを貸してもらった。
ゲスト用の部屋を使わせてもらう。
ふかふかのベッドで、いい匂いがする。
オロカール帝国軍の硬いベッドとは全然違う。オロカール帝国軍じゃ、ゆっくり寝る暇もなかったしな。
明日からは俺に寝床はない。
貴重な一夜になるぜ……
——コンコン。
「誰ですか?」
「あたしです……エルリアです」
「エルリアさん……どうしました?」
声がかすかに震えていた。
こんな夜中に何の用だろう?
「今日はありがとうございます。助けてもらって……」
「こちらこそ。ご馳走してもらって」
「今日が終わる前に、もう一度お礼が言いたくて」
すげえ律儀な子だ。
変な子だと思っていたけど、たぶん真面目すぎる性格なんだと思う。真面目すぎて普通の奴から見ると変な風に映るんだろう。
「全然大したことないよ。余所者の俺を家にまで泊めてくれた。こちらこそ感謝しているよ」
「あたし、実はパパ意外の男の人と話すの初めてで……。エルフには男の人がほとんどいないですから。アルクさん、すごく強くてかっこよかったです!」
「……お、おう。ありがとう。嬉しいよ」
「う、嬉しい……? 本当ですか? あたしも嬉しいです!」
こんなにストレートに人に褒められたのは初めてだ。
オロカール帝国軍じゃ俺が結界で皆を守っても、感謝されなかった。
どれだけ帝国に尽くしても、当たり前だという顔をされていなからな。
——どおおおおおおおおん!!
窓の外から轟音が鳴り響いた。
部屋の壁がびりびりと振動する。
「なんだ?」
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