第8話 結界で村に入れない件

「足音が聞こえるな……」

「まさか……オロカール帝国軍でしゅかぁ!」


 エルミアは声が裏返った。


「うん。これは行軍の音だ」


 ザザザザザ……

 行軍の音は、どんどん俺たちに近づいてくる。

 すでにオロカール帝国軍に囲まれている。

 テーベ村に残っている村人は少数だ。だからオロカール帝国軍との戦闘を避けて、逃げるのが一番得策だ。

 だが、もう完全にオロカール帝国軍に包囲されている。

 戦えるエルフの男たちはほんの数人だ。それなら、俺が戦うしかない。


「ど、どうしましょう?」

「大丈夫。すでに対処済みだよ」

「え?」


 エルミアは驚いた。


「奴らはこの村に入って来れない」

「入って来れない? どうして?」

「さっき、この村全体に結界を張った」

「いつの間に……?」

「さて……そろそろ行くか」


 俺はエルミアから離れて、村の入口へ向かった。

 入口の前で、オロカール帝国軍の鉄鎖騎士団が立ち往生していた。

 鉄鎖騎士団――荒くれ者の犯罪者を集めた部隊だ。

 実力はそこそこしかないが、とにかく残忍さが売りの騎士団。

 オロカール帝国に味方しないエルフたちを、ズタズタに引き裂くつもりらしい。他の部族への見せしめのために。


 部隊の先頭で、立派な鎧を着た男がイラついてた。


「鉄鎖騎士団長殿、久しぶりだな」

「貴様は……アルク・バリアード!」


 鉄鎖騎士団の団長——マケル・フォン・バカルタン。

 ことあるごとに、結界師の俺をバカにしてきた奴だ。

 要塞の廊下ですれ違った時は、舌打ちされた。

 共同作戦の時は、守りしかできない無能と俺を何度も罵ってきた。 


「人間のくせに亜人の味方をする気か? オロカール帝国軍への恩を忘れたのか?」

「恩、だと……?」


 俺は孤児だった。

 オロカール帝国軍に拾われた俺は、魔術師として教育された。

 たが俺は、どんなに努力しても、結界魔法しか使えなかった。

 戦闘で使えない無能だと皆に蔑まれていた。

 それでも、育ててくれたオロカール帝国軍に恩を返すために、結界魔法を極めた。

 なのに、俺はオロカール帝国軍をあっさり追放された——


「裏切り者の無能結界師は、この私が処刑しよう」

「……そうか。なら、早くこっちに来いよ。マケル団長」

「ははは! 恐怖で頭が狂ったか! 貴様に10秒やる。逃げてもいいぞ」


 はあ……めんどくせえなあ。

 共同作戦でも、どうでもいいことに拘っては、作戦を遅延させていた。

 俺にとって10秒は長い。早く攻撃してほしいのだが。


「アルクさあああん!」

「え、エルミア?」


 エルミアが泣きながらこちらへ走ってきた。



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