繋がる
俺たち淫魔は夢に潜れる。
これは今まで何度も説明をしてきたことだが、潜れる夢の対象は人間だけということはない。
アリアや母さんが俺の夢を見れないと言っていた言葉を裏付けるように、人間ではない魔族相手でも夢に潜ることは可能である。
「……お?」
母さんが言っていた魔力に関する調節特訓を翌日に控えた夜の夢、その中で俺は気になって目が離せなくなる夢を見つけた。
それは慣れ親しんだ香りと雰囲気を放つ夢であり、俺にとって大切な幼馴染でもあるアリアの夢だった。
「アリアの夢か――やっぱり良い匂いがする。それこそ、今まで見たどんな夢の持ち主よりも良い香りだ」
自分にとって近しい存在の夢なのだからそれは当然のことだった。
いつもなら少しばかり中を覗いて状況を確認してから完全に入り込むのだが、相手がアリアということで俺は一切躊躇することなく入り込んだ。
「よっ、アリア」
「あ……ライア?」
アリアの夢の中はこう言ってはなんだが味気なかった。
清潔に保たれた大きなベッドに彼女が横になっているだけの夢……それこそ、特に何かをしているわけでも思いを馳せているわけでもない夢だ。
アリアはサキュバスだが誰かの夢に潜るようなことは滅多になく、望んで入り込むなら俺の夢が良いと彼女は言っているくらいだ。
「一人か?」
「うん。私は基本こうなのは知ってるでしょ? それよりもライアこそどうして私の夢に?」
「良い匂いがする夢を見つけてな。それがアリアの夢だと分かったら速攻で来るに決まってるだろ」
「どれだけ私のことが大好きなんだか」
幼馴染だから大好きに決まってるだろうと、俺は苦笑しながらベッドに近づく。
基本的に夢の中で出会っても現実で出会っても何も変わることはないのだが、やはり夢というのは俺たち淫魔にとっては特別なモノで、この空間の居心地の良さは体中を恐ろしいほどに柔らかい羽毛に包まれているくらいに気持ちが良い。
今の俺にとっての柔らかいクッションはアリアの胸元ということで、彼女が腕を広げて俺を迎え入れる体勢だったため、俺は遠慮なく飛び込む。
「ライアは甘えん坊」
「アリアが甘えてほしいって顔をしてた」
「……分かる?」
「分かる」
「そっか」
「おう」
彼女の胸元に顔を預けるようにすると、至高の温もりと柔らかさが俺を包む。
やはり俺にとって一番落ち着くのはこの柔らかさなんだなといやらしいことを考えつつも、その相手はどこまで行ってもアリアなんだ。
母さんとナナリーさんも凄く落ち着くけどやっぱり、この子が俺の心を一番癒してくれる。
「今日は凄く甘えてくれるね?」
「やっぱり一番癒しはこれだなって……アリアなんだなって思ったんだよ」
「そっか……そっか♪」
「そんな風に嬉しそうな声を出されると良いもんだねぇ」
「嬉しくなっちゃうよこんなの」
……こんなにアリアって可愛かったかなって、俺は離れてジッと見てみた。
どうしたのかと首を傾げるアリアはとても綺麗だ。
光沢のある亜麻色のサラッとした長い髪、シミ一つない綺麗な肌、背丈は小さいのにとんでもなく主張の激しい大きな胸……そして何より、当然のようにニキビなんてものがないこれまた綺麗な顔。
ぷっくりと膨らむ唇は色気を孕み、見つめてくるその瞳はルビーのように輝く。
「アリアは……」
「私は?」
「可愛いし綺麗だし……なんつうか、君を幼馴染に持てて幸せだよ俺は」
「……えへへ♪」
あ、その笑顔はヤバいですよアリアさん。
俺は再びアリアの目の前に座り、彼女の体を思いっきり抱きしめた。
少し痛いかなと不安になったものの、彼女も俺の背中に腕を回して強く抱きしめてきたので、どうやら何も心配する必要はなさそうだ。
「ねえライア」
「なんだ?」
「エッチなことしようよ」
「……うん?」
もう一度体を離して彼女の顔を俺は覗き込んだ。
アリアは別に失言はしていないと言わんばかりに胸を張っており、僅かな期待を滲ませるかのように俺を見つめ続ける。
その瞳に見つめ続けられていると非常にドキドキするのだが、やはり淫魔ということもあってそのドキドキはすぐに収まる。
「えっと……どういうこと?」
「そのままの意味。以前に言ったライアにしか出来ないことって覚えてる?」
「あぁ……ってそういうこと?」
「うん。私、ライアとしたいの」
「……………」
きっと、今の俺はポカンとした表情をしていることだろう。
そんな俺を見てアリアはクスッと微笑み、更に色気のある表情を携えながら言葉を続けた。
「私はサキュバス……そういうことをするのはおかしなことじゃない。でもね? 私は人間の雄とか、魔族の雄とか全然関心を持てないの。でもライアは別……ライアとだけ私はサキュバスとしての行為をしたい」
「……えっと」
それはつまり、したいというのはそういうことなんだろう。
まさか……母さんが言っていたのはこういうことか? 確かにアリアは俺のことを好いてくれていることは分かっていたけど、まさかしたいとまで言われるとは思っていなかった。
アリアのことは良い女だと思っているし、人間の時の感覚が残っているから興奮しないわけもない……でもやはり、同族であり俺自身が淫魔だから彼女を積極的に抱こうという考えは微塵もなかった。
「ライアはダメかな? 私は抱けない?」
「いや、そんなことはないぞ? アリア以上に良い女はそうそう居ないだろうし」
とはいえ、やはり幾分か迷いはある。
大切だからこそ、ずっと一緒に居たからこそ、彼女を大切にしたい……サキュバスにとって行為自体はあまりに軽いとしても、距離が近すぎたからこその迷いだ。
「……いや、考えるだけ無駄なのか。俺たちは淫魔だもんな」
「うん。でもちょっとドキドキしてる――良いの?」
「やるか」
「あ……うん♡」
▽▼
夢の中……ではなく、俺は現実で目を覚ました。
隣を見ると熱っぽく視線を向けてくるアリアと目が合い、俺は夢の続きをするかのようにアリアに顔を近づけた。
抱擁だけでなく、キスも交わしていると彼女はボソッと呟く。
「夢も現実も変わらないんだね。凄く良い」
「そうか。なんつうか、初めてにしてはロマンがなかったな」
「ロマン? 別にすること自体はサキュバスだし普通でしょ?」
「そりゃまあ確かに」
呆気ないというよりは淡泊とも言えるだろうか。
でも結局はこれがサキュバスであり、淫魔の本質でもある――普通の人間にとって意味のある大切な行為でも、淫魔の感覚では日常の一部なのだから。
「それでアリア」
「なに?」
「本当に他の誰とも――」
「しないよ。私はライアとだけする」
とのことなので……これからずっと、アリアが俺の傍に居ることは確定だ。
それは今までと何も変わらないことではあるものの、彼女が望むならそれを受け入れるのが俺という淫魔としての在り方だ。
ただ……俺はそこでおかしな気配を感じて立ち上がる。
アリアもどうしたのかと裸のまま俺の腕を抱くようにして動く。
「……………」
ゆっくりと部屋の扉を開けた。
するとそこには母さんとナナリーさんが座り込んでおり、二人とも盛大に……俺はそこまで見てから扉を閉め、鍵もしっかりと掛けた。
「俺たちは何も見なかった。良いなアリア」
「分かった。私たちは何も見ていない」
そうしてまた再びベッドに俺たちは戻った。
まさかこんな形でアリアと繋がることになるとは思っていなかったが、実際に現実世界で関係を持ったのはアリアが初めてだ。
夢ではなく現実でする行為……悪くないなと頷いていると、アリアがこんなことを不意打ち気味に口にした。
「一つだけ分かったことがある」
「なに?」
「ライア――誰かとした?」
おうふ。
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