おや~^^
「そうか。それで貴族はてんやわんやってことか」
「てんやわんや……難しい言葉ですね。つまり慌てているという意味です?」
「そうとも言う」
「なるほど……でしたら正にその通りですね!」
今、俺が話をしているのはエクシスだ。
今日も今日とてロアさんを介して王都に意識を飛ばしており、俺は娼館の周りをうろつきながら魔力の調節特訓をしていた。
そんな時に彼女が……エクシスがふと訪れたのである。
シュタッと背後に降り立ったかと思いきや、そのまま俺の傍へ。
(……ってあれ? なんかおかしくない?)
そのようなツッコミはもはや遅いとしか言えない。
俺とエクシスはベンチに座って言葉を交わしているが……敢えてもう一度、俺は言わせてもらいたい――今の俺は意識体であり、ロアさんしか認識出来ないことを。
それなのにエクシスは俺を察知してここに訪れた……まあ前回もそうだったのでそれは良しとしようか。
だが、言葉を交わせるというのはどういうことだ?
「なあエクシス」
「なんですか?」
「……どうして俺と言葉を交わせられる?」
「それは私がエクシスだからですよ?」
「??」
「ライア様。あなたと繋がったエクシスだからですよ♪」
だからどういうことなんだよ……。
確かに俺とエクシスは夢の中で繋がりを持ったが、所詮はそれだけで彼女との間に特別な何かが生まれたわけではないことなど明らかだ。
つまり――彼女は俺の声が聞こえていない状態で、俺が何を言ったのか……それを正確に直感だけで聞き取っていることになる。
「敢えて言わせてもらって良いか?」
「はい!」
「お前、怖いよ」
「怖い……そうですかね? 私、怖いと思われる要素は何もないと思うのですが」
「……………」
なるほど無自覚ですかありがとうございます。
むしろ、これがエクシスという女なんだと受け入れるしかなさそうだ。
俺は小さくため息を吐いた後、改めてエクシスに視線を向け……彼女の綺麗な瞳とガッチリ合わさった。
「……………」
「あら、何をしているんですか?」
敢えて更に言わせてもらおう。
俺の声は本来彼女に届かず、姿を視認することも出来ていない。
それにも関わらず俺がゆっくりと立ち上がれば彼女はどうしたのかと視線を向け、俺がマヌケなポーズをすれば何をしているのかと不思議そうにしている……ねえ、君は本当にどういう存在なんだい?
「……考えるだけ無駄か」
「う~ん、触れることが出来れば更に良いんですけどねぇ」
エクシスは手を伸ばすが俺に触れることは出来ず、そのまま体を通過した。
「見えないし声が聞こえないのは不便ですよやっぱり……ライア様、あなたに直接会いたいです」
「それは難しいから諦めてくれな」
「むぅ!!」
あ、その膨れ顔可愛い。
やはり流石は異世界ということで、この世界の人間もそうだが魔族も顔が恐ろしいほどに整いすぎている。
そのことをジッと考えていると、手をポンと叩いたエクシスがこんなことを俺に言ってきた。
「ライア様、実は王子と考えていることがあるのです」
「考えていること?」
「はい。いずれ、彼がこの国の王となった時……ライア様を国賓として招こうかと」
「正気か?」
「もちろんですよ」
こいつは何を考えているんだと思ったけど、詳しく聞いてみた。
今の世の中は人と魔族の間に絶対的な隔たりがあるのは明白で、それをどうにかするための一環として俺を招きたいとのことだ。
もちろん最初は公にすることはせず、エクシスたちが信頼する者を集めるとのことらしい。
「いかがですか? もちろんこれはタダの提案ですし、彼女もそうですが他にもライア様が望むなら連れて来ていただいても構いませんし」
「……ふむ」
エクシスの言葉が指すのはアリアや母さんといった人たちだろうか。
正直こんな風に提案をされたことは非常に嬉しいことで、俺だけでなく他の魔族に関しても人と歩み寄ることは間違いなく平和への一歩になる。
ただ……彼女はそう言ってくれるものの、淫魔としての俺は表に出られない。
「あ~……提案は嬉しいんだけどさ。俺ってちょっと特殊でな」
「何か理由があるのですか?」
「あぁ」
そう伝えると見るからに彼女は残念そうにしたが、最初に伝えたように現実で俺たちが会うことはまずないだろう。
淫魔の感性に染まっていなければ、今すぐにでもエクシスの元に飛んで好き勝手しそうなものなのだが……まあ仕方ない。
「でも……そういう立場だから仕方ないとはいえ、若いのに凄いなエクシスもあの王子も」
「そうでしょうか。与えられた役目でもありますし、そもそも私としては今までの鬱憤を晴らしている面もありますけどね」
「良いじゃないか。それだけのことをされていたんだからさ」
「はい♪」
その後、エクシスは名残惜しそうにしながらも帰って行った。
姿が見えなくなる直前、彼女は振り向いて俺に手を振っていたのだが、それを見て傍の通行人がギョッとしたように彼女を見つめており、そりゃそうなるよと俺は苦笑して背を向けた。
ロアさんの元に向かい、一応体調の報告は欠かさない。
「もう少しで掴めそうですか?」
「そうっすね……割と行けるかもしれないです」
手を閉じたり開いたり……関係のない動作と思われるかもしれないが、魔力が宿っているからこそこうすると体を循環するそれがよく分かる。
魔力に関して心配がなくなり、この魔法が体に負担の掛からないものとなればロアさんのお世話になることもなくなるのだが……それはそれで少し寂しい気もする。
「あら、寂しいと思ってくれるのですか?」
「口に出してました?」
「いえ、何となくそう思っただけですわよ」
そう言ってロアさんは俺を抱き留めた。
見た目は全然違うのに、やはり大人ということもあってか母さんやナナリーさんを彷彿とさせる包容力を備えている。
相変わらずドキドキはしないまでも、俺はしばらく身を委ね……そしてその後はすぐに意識を自分の体へと戻した。
「おかえり」
「ただいま」
俺の元から離れずに居てくれたであろうアリアが出迎えてくれた。
別に四六時中傍に居てもらえなくても大丈夫ではあるのだが、アリアは心配だからと傍に居てくれる。
だからこそ自分の好きなことをしたらどうだ、そう言わないのだ。
アリアはしたいからそうしているため、そんなことを口にすれば空気が読めてないと逆に小言を言われるだろうから。
「その通り」
……だからなんで思っていることが分かるんですかねぇ。
その部分に関してはエクシスと同じじゃないかと少し怖くなったものの、俺は気にしないようにして起き上がる。
王都から戻ってきたけどまだ時間は夕方にもならないため、俺とアリアは暇を持て余すように外に出た。
「……うん? なんだ?」
「なんだろ」
開けた広場に出た時、小さなサキュバスの子供たちが遊んでいた。
人間で言う小学生くらいの幼いサキュバスたちは魔法を使って遊んでおり、あの年齢でもやはりサキュバスというこの世界では強い種族だからこそ丁寧に魔力が練られている。
「あの子たちも将来は立派なサキュバスになるんだろうなぁ」
「そうだね。きっと強くなるよ」
それこそ、色んな意味で強くなるんだろう。
さて、そんな子供たちの光景を微笑ましく見つめていたその時だった――別の角度から有無を言わさない速度で魔法が飛んできたのである。
「え?」
「ライア!!」
瞬時にアリアが魔法を発動してくれたおかげで、その魔法は俺を傷付けるには至らなかった。
とはいえ、ほんの少し強く額を小突かれたように俺はよろめいた。
どうやらその魔法も子供たちが遊んでいた影響で生まれた魔法らしく、上手く制御の出来ないものが飛んできたんだろう。
「だ、大丈夫ですか!?」
この里において俺は有名だ。
だからこそ、騒ぎの発端となってしまった子供がすぐさま飛んできて俺の心配をしてくれる。
アリアも慎重に俺の額に触れて具合を確かめているが、外傷は見られないし頭の内側にダメージもなさそうなので俺は大丈夫だと……そう口にしようとして言葉が出なかった。
「……あれ?」
「ライア……?」
「ライア様……?」
違う……別に痛みがあるわけでも、喋れなくなったわけでもない……それこそ、何かしらの障害が発生したわけでもない。
俺はただ、目の前の光景に言葉を発せなかっただけだ。
目の前に立つアリアと幼いサキュバス……だけでなく、事の成り行きを見守る他のサキュバスたちを見ていると、急激に体が熱くなってきたのだ。
それは凄まじいほどの恥ずかしさと……そして興奮だった。
「ライア? 凄く顔が赤いよ?」
「ど、どうしよ……私……私……っ!」
あ、泣くんじゃない本当に大丈夫だから!
幼いサキュバスを安心させようと手を伸ばし、頭に触れた瞬間に体にビビっと電気が駆け抜けるかのようにゾワッとした。
おかしい……おかしい……おかしいおかしいおかしい!
「お、俺……か、帰る!!」
俺はそれだけ言って一気に家に帰るように駆けだした。
顔が熱い……体が熱い……なんだあの恰好のサキュバスたちはと、直視出来ないほどに顔が熱くなっている。
これではまるで……元の人間の感性に戻ったみたいじゃないかと、俺は走りながらそんなあり得ないことを考えていた。
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