彼は誰
エクシスの夢に乗り込み、彼女と話をしたことで色々と整理は出来た。
俺が彼女を救ったことをきっかけとして、エクシスは俺のことを異常なほどに想っていることは伝わったが、だからといってどうこうなるわけでもない。
彼女は人間で俺は魔族、だからこそ交わることはないと伝えたのだが……それでも彼女は諦めないと頭を振り、アリアは俺を絶対に渡さないと言いながらも楽しそうにしていた。
「あの子、面白かったね」
夢から覚めた後もアリアはこんなことを口にするほどに、エクシスのことを気に入ったようだ。
『私、人間と魔族を繋ぐ架け橋になりたいのです。もちろん、全ての人間がそうなれるわけもなく、魔族もそれは同じでしょう。ですが新たな世界の幕開け、今までにない変革を齎す意味でも……私はライア様、それとアリアさん……あなたたちのような魔族と仲良くなりたいです』
彼女はそう言って決意を新たにしていた。
人間と魔族が争う関係であることは歴史が証明している……とはいえ、意外と魔族と仲良くしたいと考えている人間が居るのも把握しているようで、近いうちにエクシスは本格的に王子と共に動き出すとのこと。
(そういや以前に似たようなことを聞いたな……)
魔族と仲良く、話し合いをしようと考える人間たちが居る。
それは以前に里の中を歩いていた時にサキュバスのお姉さん二人に挟まれて教えてもらったことだけど……ま、争うよりは遥かに安心出来ることだ。
「って!」
「どうしたの?」
俺の傍から離れないアリアが首を傾げた。
エクシスのことはともかくとして、改めて一つばかり言っておかないといけないことがあった。
「アリア、夢に潜る条件がもしかしたら俺と関係を持つこと……言うなよ?」
「分かってるよ。進んで言うようなことじゃないし……まあ、サキュバスだからどうしてって気持ちもあるけど、ライアとずっと一緒に居たからか私もちょっと考え方の変化は起きてるし」
「ほう?」
「自分の知らないところでライアが誰かの相手をしてる……なんかそれ、ちょっと気に入らないの。リリス様やお母さんはともかくとしてね」
あ、母さんとナナリーさんは良いのか。
まあでも確かにアリアと同じくらいに親しい存在と言えばそれくらいだが、流石にそこまでの関係を求めるかと言われたら中々にしんどい。
母さんもナナリーさんも親愛の方があまりに大きすぎるからだ。
「……?」
なんてことを考えていたが、何やら里の中が騒がしいことに気付く。
何かあったのだろうかとアリアと顔を見合わせていた……すると、家の前を通りかかったおっぱいの大きい幼いサキュバスが俺たちに気付く。
「あ、ライア君にアリアちゃん!」
「よお」
「おはようスイ……何かあったの?」
アリアがそう聞くと、その子は愛らしいツインテールを揺らして頷いた。
「スライムの王女様が来るんだってぇ。急遽だったから慌ててる感じぃ」
「ほう」
「そうなんだ」
スライムの王女……そのままの意味である。
この世界に多くの魔物が溢れているように、当然ながらスライムと呼ばれる種族も住んでいる。
ただ、よくゲーム出てくる丸っこい生き物ではない――この世界のスライムにはちゃんと性別が付与されており、雄も雌も存在している。
「何しに来たんだろうね」
「さあな」
「う~ん、あの方って気まぐれで遊びに来るじゃん? だから今日もそれでしょ」
そう言って彼女――スイと呼ばれたサキュバスは去って行った。
スライムの王女がこのサキュバスの里に来ること自体は珍しくない……とはいえ、俺の存在は隠されているので会ったことはないし、俺自身がそもそも淫魔と明かして他の種族と会うことがないため、こうなってくると俺はここから出られない。
「アリア、傍に居てくれ今日は」
「言われなくても居るよ。今日は王女様が帰るまで出られないだろうし、僅かな魔力の感知もされないように私が包んであげるね」
まあ、スライムは基本的に頭の良い種族ではないので特に気にはしていない。
ただサキュバスほどではないにしろ備える能力は強く、魔族の中でもかなり強い立ち位置の種族で、前世でプレイした冒険の序盤で出てくるようなスライムだと侮っていてはすぐに殺されてしまう……それがこの世界のスライムだ。
「スライムの王女って名前なんだっけ」
「ミニュンだよ」
「そうそうそんな名前だ」
ミニュン……響き的にもスライムのような柔らかさのある名前だ。
聞くところによるとミニュン……ミニュン様と呼んでおくか。彼女はスライムの王女という立場だが、母さんのことを慕っているので会いに来ることがある。
スライムは雄も雌も関わらずに獲物を溶かす殺し方が主だが、中には自分が持つ軟体とこれでもかと使って異性の体を蹂躙することもあるらしく、そういうやり方に関しては完全にR18的な展開だ。
「魔族は一枚岩じゃない……でも、交友関係の広い母さんは流石だなぁ」
「うん。本当にリリス様は凄いと思う」
それからは特に何もすることなく過ごし、問題も起きなかった。
途中でナナリーさんが俺たちの様子を見に来た時、窮屈にさせてしまって申し訳ないと謝ってきたのだが気にしていないことを伝えた。
夜になる頃にはスライム王女も帰って行ったらしく、ずっと傍に居てくれたアリアも帰って行った。
「何の話をしてたの?」
「大したことじゃないわ。オーガやらオークやら、ドラゴンや鬼といった能無しの脳筋共が騒いでるみたい」
「へぇ?」
「自分たちだけで騒ぐならまだしも、他所を巻き込んでいるからね。巻き込まれる側からすればたまったものではないでしょう。死ねばいいのに」
「……結構言うんだね」
「言うわよ。魔族の足を引っ張るしか出来ないアホ共なんだから」
「……………」
母さんがここまで言うのも中々にレアな姿だ。
しかし、母さんがここまで言いたい気持ちもよく分かる――どこまで行っても魔に属する俺たちは魔族という括りであり、その中の一部が暴れるだけでこれだから魔族はという目を向けられるのも確かだ。
無論魔族とは恐れられるものだが、母さんは今口に出した連中たちと同列に語られるのが嫌なんだろう。
「無理しないでくれよ?」
「大丈夫よ。愛おしい息子に心配なんてさせないわ」
それなら大丈夫だなと、俺も母さんに釣られるように笑みを浮かべるのだった。
▼▽
「さあて、今日はどうしますかねっと」
その日の夜も俺はいつも通りに夢を物色していた。
流石に傍にアリアは居ないので潜り込んで来てはいないようだが……もしかしたら途中で来る可能性もあるので注意だけはしておこう。
「……?」
多くの夢を見ている中、今日も今日とて凄まじい夢を俺は見つけた。
今日は人間だけでなく魔族も何か居ないかと思って探索する夢の範囲を広げていたわけだけど……こいつはすげえぞ。
「なんだ……これは?」
それは不思議な夢だった。
その者の心の優しさを表す温かさはもちろんだが、心の余裕を感じさせる良い香りも悪くない……悪くないのだが、この夢の持ち主が何か凄まじい力を持っていることだけは分かった。
「……………」
ゆっくりとその夢に近づく。
中に居たのは俺と同い年くらいの男の子で、頭には歪曲した大きな角を生やしており、背中にはこれまた巨大な翼を携えている。
まるでファンタジー世界で描かれそうな魔王そのもののような姿をしていて、俺は反射的に一歩下がった。
「誰ぞ。我を見ているのは」
「っ!?」
スッと、影のような手が俺を掴んだ。
こんなことはあり得ない……夢の世界では俺に対して誰であっても反撃は出来ないし何より攻撃を加えることも出来ない。
エクシスは例外として……とはいえ、これは攻撃ではなかった。
「誰だお前は。同族であるのは分かるが……夢に侵入するなどサキュバス……否、お前は男だし違うのか」
「……………」
その男は確かに俺と同い年くらいの見た目をしている。
しかし、あまりにも雰囲気は圧倒的過ぎた……そして何より、あまりにもイケメン過ぎてついボソッと呟いた。
「めっちゃイケメンやんけ」
「……やんけ?」
俺の呟きに彼は反応したが、どうも初めて聞いた言い方の言葉だったらしく彼は目を丸くしたがそれは結構可愛らしい反応だった。
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