【コミカライズ連載中】公爵家から追放された俺、辺境の最強騎士団で英雄となる ~剣術の鍛錬ばかりしていたら粗暴だと追い出されたけど、気付けばどうやら【剣聖】にまでなっていたようです~

メソポ・たみあ

第1話 追放


「オスカーよ、只今をもってお前を公爵家から追放する」


 俺にそう告げたのは、実の父だった。

 ベルグマイスター公爵家の当主でもある、ヨハン・ベルグマイスター。

 彼は執務室の椅子に座り、実に忌々しそうな顔でこちらを見ている。

 そのすぐ隣には、実兄であるアベルの姿も。


 二人の様子と追放の一言に、俺は「ああ、遂に来たか」と内心でため息を漏らした。


「……何故、とお聞きしてもよろしいですか? 父上」


「口を慎めよオスカー、そんなわかりきったことを、わざわざ父上の口から言わせる気か? この出来損ないめ」


「ではやはり、俺がろくに魔術を使えないのが原因なのですね」


「そうだ! このアベルを見ろ! 既に我が国指折りの魔術師とまで呼ばれているのに……お前はなんだ? いつまで経っても、初歩的な攻撃魔術すら扱えないではないか! ベルグマイスター家の恥晒しもいいところだ!」


 息を荒げて罵声を浴びせてくる父。

 確か昨日は社交界があったらしいし、どうせ俺に関する話題で他の貴族たちに煽られでもしたのだろう。

 そういうことがある度に、父は俺にキレ散らかしてくる。

 これまでもちょくちょくあったことだ。


 ――俺の家系であるベルグマイスター家は、『ルーベンス王国』の名高い公爵家だ。

 先祖代々非常に高い魔力を持つ者を輩出しており、それを生かした魔術によって国に奉仕することを善しとしている。

 もっともそんなのは建前で、実際は自分たちの権力を振りかざすだけで他の貴族連中となんら変わらないのだが。


 そんなベルグマイスター家の次男として生まれた俺ことオスカーは、生まれつきとても魔力の量が少なかった。

 初歩的とされる攻撃魔術や回復魔術でさえもろくに発動できず、昔から自慢気に高等魔術を扱う兄を羨むばかり。

 故に俺は一族の中の落ちこぼれ・失敗作という烙印を押され、今日まで冷遇されて生きてきたのだ。


 だからいつかは、こんな日がくるだろうとは思っていた。

 それでも――いや、だからこそ、俺は魔術以外の技術を磨いてきたのに。

 

「父上……確かに俺は魔術を使えません。ですがその代わりとして、この身に剣術を叩き込んできました。それは決してベルグマイスター家の名を貶めるモノでないと自負しておりますが」


「それも気に食わんのだ!」


 父はダン!と机を叩く。


「魔術の勉学に精を出す兄に対して、お前は剣術ばかりにかまけおって……! そんな無駄で粗暴なものは、兵卒風情が修めておればよいのだ!」


「……近頃、我がルーベンス王国は隣国との小規模な戦闘が続いています。いつ周辺諸国を巻き込んで大きな戦乱になるやもわかりません。剣術が無駄という考えは改められるべきかと――」


「黙れ黙れ! お前がワシに意見する権利などない! 今すぐ荷物をまとめて、屋敷から出て行け!」


 もはや聞く耳を持たず、か。

 まあいい、どうせ父にもこの公爵家にも愛想が尽きた。

 そこまで言うなら、堂々と出て行ってやろうじゃないか。


「……そうですか。それでは今よりベルグマイスター家との縁を切らせて頂きます。これまでお世話になりました」


 俺は一礼するとくるりと踵を返し、父の執務室を出て行こうとする。


「おい、オスカー」


 そんな俺を、兄であるアベルが呼び止めた。


「……なんでしょう、兄上」


「おっと、私はもう貴様の兄ではない。もし次に兄などと呼んだら、不敬罪で牢獄に繋いでやるぞ」


「…………申し訳ありません。それでご用はなんでしょうか、アベル様」


「チッ、どこまでもふてぶてしい奴め……。まあいい、剣術などを自慢する貴様に私から最後の手向けがある」


「手向け……ですか?」


「そうだ。オスカー・ベルグマイスターは追放の後、北端の国境沿いにある『ベッケラート要塞』預かりの身としておいた。あそこなら、お前の大好きな剣術ごっこをたくさんできるだろう? クックック……」


 北端の『ベッケラート要塞』――。

 それは北部国境沿いに築かれた辺境の要塞で、これまで幾度となく敵国の侵入を妨げてきた最前線基地。

 つまりいざ戦争が起これば、真っ先に攻められる場所ということだ。


 そんなところに送られるというのは――ほとんど〝死ね〟と言われているようなものだろう。


「……お心遣い、感謝します」


 それだけ言うと、俺は執務室を後にした。



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