第5話 勧誘


「先程はリーゼロッテがご無礼を致しました。あの子にはあなた様が来ることを伝えておらなんだ」


 そう言って、深々と頭を下げる老騎士。

 精悍な白髭からは威厳を感じるが、その目つきはどこか優し気な人物だ。


「い、いえ、どうかお気になさらず」


「そうはいきません。『ヴァイラント征服騎士団』の騎士団長として、このローガン・フリッツから謝罪をさせて頂きたい」


「俺は気にしませんよ。所詮、貴族なんて嫌われ者ですから。それと彼女も本調子ではなかったみたいですし、少し休ませてあげてください」


「はっはっは、オスカー殿はお優しいですな。ですがあの子にはいい薬になったはずです」


 気さくに笑うローガン騎士団長。


 俺はリーゼロッテとの一戦の後、豪勢な応接間へと通されていた。

 ローガン騎士団長には俺がここへ来ることが伝わっていたようで、俺も一安心である。


「それにしても、先程の剣技は実に見事なものでした。あれほどの技術を一体どこで身につけられたのですかな?」


「お恥ずかしながら、ほとんど我流です。基礎は街の衛兵なんかに聞いて学びましたが、あとは屋敷の庭で剣を振っていただけですよ」


「ご冗談を。あれだけの剣筋、どんな達人の下で修業をしても十年そこらでは会得できぬはずです。まあ、言いたくないのであれば無理にはお聞きしません。強い者には誰でも秘密が付き物ですからな」


 スパー、とパイプ煙草から煙を吹くローガン騎士団長。


 ……本当なんだけどなぁ、俺の剣が我流なの。

 そもそもベルグマイスター家自体が剣術を馬鹿にしてたから、剣の先生とかも付けてくれなかったし。

 基本的には頭の中で相手をイメージして、それに対して剣を振るうしかなかったんだよな。

 それでも屋敷の者の目を盗み見ては時々剣を持ち出して、街の衛兵やゴロツキなんかを相手に腕比べしていたから、自分が最低限の実力を持っているって自覚はあったけど。


 そんな俺の内心を知ってか知らずか、ローガン騎士団長はふっと笑う。


「ですが、喜ばしいと思っておりますよ。最初にベルグマイスター家の方を預かると聞いた時、正直あまりいい気はしませんでした」


「……ここはルーベンス王国にとって防衛の要です。そこで剣も振るえぬ貴族を養うなど、いい印象を持てという方が無理でしょう」


「しかしそんな心配は払拭されました。オスカー殿は強い。我が『ヴァイラント征服騎士団』にて第三位ナンバースリーの実力を持つリーゼロッテを倒してしまうほどに。それだけで、この『ベッケラート要塞』の一員となる資格がある」


「彼女は……リーゼロッテはそんなに強いんですか?」


「ええ、それはもう。ですがその分はねっ返りで、最近は調子に乗っておったのですよ」


 へえ……『ヴァイラント征服騎士団』の第三位ナンバースリーとなると、ルーベンス王国内でも指折りの強さを持つってことになるだろうな。

 でも俺と戦った時はそこまでの感じはしなかったけど……。

 やっぱり手を抜いていたか、お腹でも痛かったのだろうか?


「さてオスカー殿、話を戻しましょう。このローガンと『ベッケラート要塞』はあなたを歓迎致します。ただ――実は、あなたのことは食客としてもてなせとは言われておらんのですよ」


「でしょうね。そんな気はしてました」


「あなたには自らの食い扶持を自らで稼いで頂きたい。そして幸いなことに我らはつわものを必要とし、あなたは並外れた剣術を持っている。そこで――『ヴァイラント征服騎士団』の一員となっては頂けませんかな?」


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