第18話 ふざけるな
「…………なんだって?」
リーゼロッテの一言を聞いた瞬間、ギルベルトの目の色が変わる。
まだ引き攣った笑みは口元に残ってこそいるが、その目はもう1ミリも笑っていない。
「オスカーはアンタより強いって言ったの。逆に剣術を教わる羽目になるのがオチよ」
リーゼロッテは明け透けに伝える。
どうせ隠すことでもないし、隠してもバレるでしょ、とでも言いたげに。
「ちなみにね、アタシもオスカーに負けてもう
「……僕をからかっているのかい? とてもじゃないが、笑えない冗談だよ?」
「残念だけど本当の話。嘘だと思うなら、ローガン騎士団長に聞いてみなさい」
「…………」
ギルベルトは握手していた手を放すと――俺の目を見てくる。
「……キミが、僕より強い?」
「いや、確かにリーゼロッテには勝ったけど、俺はそんな――」
「ふざけるな」
彼は俺をドン!と突き飛ばし、距離を離す。
俺を押したその手からは、明確な苛立ちと拒絶が感じられた。
「僕がキミなんかに負けるはずがない。僕はね、いずれこの『ヴァイラント征服騎士団』の
ギルベルトは俺に背を向けて、マントをなびかせながら歩き始める。
その歩先が向かうのは――やはり訓練場だ。
「教えてあげるよ、僕の方がずっと強いってこと……。このギルベルト・バルツァーが、何故〝魔剣士〟と呼ばれるのか――その所以をね」
それだけ言い残して、ギルベルトは歩いて行ってしまう。
ええっと……この流れは……
「全く、しゃーねーなぁ……。お坊ちゃん、ちょいと付き合ってやんな。でなきゃありゃ納得せんわ」
「あの、それってつまり……」
「大丈夫よ。アタシにした時と同じようにすればいいから」
二人にポンと肩を叩かれる。
そっかー、俺に拒否権はないのかー。
新人という立場の世知辛さを噛み締めながら、仕方なく俺も訓練場へと向かう。
俺とギルベルトが訓練場に入ると、すぐに周囲に兵士たちが集まり始めた。
『ヴァイラント征服騎士団』の
そんなガヤガヤという喧噪を背に、デニスさんがむんずと腕組みをする。
「さ~て……そんじゃお前らの一戦は、このデニス・ホラントが立会人として見届けさせてもらうぜ。ありがたく思うこったな」
「こんだけ野次馬いるのに、アンタ必要?」
「必要だよ! こういうのは形が大事なの、形が!」
リーゼロッテの疑問に激しく反論するデニスさん。
なんというか、締まらないなぁ。
「――っと、始める前にお前ら、ほいコレ」
「これは、木剣?」
「お前らクラスが真剣でやり合ったら、それこそ怪我じゃ済まねえだろ」
「ふうん、僕は別に構わないよ。もっとも、どうせ僕にはあまり関係ないけどね」
ギルベルトはデニスさんから木剣を受け取る。
それに続き、俺も木剣を持った。
「オスカー、と言ったかな。先に言っておいてあげるけど、最初はとっても手加減してあげるよ。どうせ僕が勝つに決まってるから」
「それは助かる。ただ……全く同じ武器を使ってもいいのか?」
「? どういう意味かな?」
「いや、だってその……俺とアンタとじゃ
同じ武器を使うなら、当たり前だが背が高く腕が長い方が有利。
その分間合いを広く取れ、攻撃を当てやすくなるからだ。
逆に背が低く腕も短いなら、危険を冒して間合いを詰めねばならないため断然不利となる。
だからこれは、俺なりの気遣いでもあったのだが――
「――――
そんなの関係あるか、とばかりにギルベルトは斬りかかってきた。
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