第17話 魔剣士ギルベルト
「……なにこれ、要塞がボロボロじゃないか」
『ベッケラート要塞』へ帰還したその男は、壊れた監視塔を見て呆れ果てる。
そして馬に跨りながら
「やれやれ、僕が少し留守にしただけでこの有り様……? やっぱり『ヴァイラント征服騎士団』はこの天才、〝魔剣士〟ギルベルトがいないとお話にならないってことかな」
「――ギルベルト、戻ったのか!」
「やあデニス、それとリーゼロッテも。どうも僕が帰郷している間に色々あったようだけど、説明してくれる?」
俺たちが駆け寄ると、彼はマントを翻して馬から降りる。
その優雅な立ち振る舞いはまさしく騎士のイメージで、顔つきも僅かに童顔だが端正。
煌びやかな装飾が施された甲冑とも合わさって、雰囲気が一層輝いて見える。
そう、実に騎士らしい男性だ。
――なんというか、
「あ~……アシャール帝国軍の工作兵に奇襲されたんだよ。幸い『ヴァイラント征服騎士団』は健在で、要塞は落とされずに済んだが」
「ふうん、つまりなんとか退けたけど被害は受けたと。情けないなぁ、僕がいればこんな醜態晒さずに済んだのにさ」
「ちょっとギルベルト、勝手なこと言わないでよね。相手は相当な手練れだったし、これでもかなり被害を抑えられたんだから」
「……リーゼロッテ、口の利き方には気をつけなよ。僕はキミを一番責めてるんだ。なんなら失望してる」
「なっ……」
「相手が手練れだった――だって? キミは『ヴァイラント征服騎士団』の
「そ、それは……」
「敵が強かったなんて……そんな言い訳をするから、キミは弱いんだよ」
「っ……!」
ギルベルトの一言に、リーゼロッテはギリッと歯を食いしばり拳を握り締める。
こればかりは……言い返したくても言い返せないのだろう。
「……それくらいにしておけよ、ギルベルト。それより、だ。お前さんにも紹介しておきたい奴がいる」
デニスさんはそう言うと、俺の背中をポンっと叩く。
「新しく『ヴァイラント征服騎士団』に入った腕利き剣士、オスカー・ベルグマイスターくんだ。ま、よろしくしてやってくれ」
「え、え~っと……よろしく」
俺がペコリとお辞儀すると、ギルベルトは品定めするようにこちらを見てくる。
「ベルグマイスター……それって確か公爵家の名前だよね。キミは貴族なのかい?」
「正確には元、だな。今は追放された身だ」
「そうかい。貴族は好きじゃないけど、そういうことなら話は別だ」
ギルベルトは俺に向けて手を差し出し、握手の姿勢を見せる。
「僕は『ヴァイラント征服騎士団』
「あ、ああ、よろしく……」
俺は彼の手を握り返す。
だがギルベルトは俺の顔を不思議そうに見つめ、
「なんだい? 僕の顔になにか付いてるかな?」
「ああいや、そういうワケじゃ……」
「気になることがあるなら遠慮なく言い給え。僕は心が広いからさ、新人の疑問にはどんどん答えてあげるよ!」
ドーンと胸を張るギルベルト。
まあ、そこまで言ってくれるなら……。
「そ、それじゃあ言わせてもらうと……『ヴァイラント征服騎士団』の
ちょっと気まずそうに言う俺。
そうなのだ――彼は、かなり背丈が低い。
おそらく155センチ前後だろう。
こうして握手をしていても、俺は僅かに腰を屈めている。
リーゼロッテの身長がおよそ162~3センチであることも合わさって、より低く感じるのだ。
そのせいで子供っぽくすら見える。
「「――ッ!!!」」
背丈の話をした瞬間、表情を一変させるリーゼロッテとデニスさん。
「………………今……背が、低いって言った……かい?」
ワナワナと震えだすギルベルトの手。
そのまま握手をする手の力が猛烈に強くなる。痛い。
もしかしてと言うか……これはやっぱり、言っちゃいけなかったヤツ、かな……?
「し、し、仕方ないなあ……新人の教育をするのも、上位騎士の役目だよね……? ちょっと剣を教えてあげるから、訓練場までツラ貸してもらおうか……?」
引き攣った笑顔で言うギルベルト。
……やばい、どうしよう。
これ、教育と称して滅茶苦茶に扱かれるパターンだろ……。
言わなきゃよかったと後悔する俺。
だが、彼の言葉を聞いたリーゼロッテは――
「はぁ……やめときなさい、ギルベルト。
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