第13話 いやぁ、大変でしたね


 ――『ベッケラート要塞』が奇襲を受けた、その翌日。


 監視塔が爆破されたり、あちこちに火を放たれたり、その他まあ色んなことがあったので俺たちのその後処理に追われていた。


 捕らえたアシャール帝国の工作兵たちは、デニスさんがみっちりと尋問中。

 あの調子なら洗いざらい情報を吐くのも時間の問題だろう。


 そんな中で俺はというと、


「おおーい、こっちに木材運んでくれー!」


「わかった、今持っていく!」


 要塞の復旧を手伝っている次第。

 お世辞にも力仕事は得意とは言えないが、そんな俺でもいないよりマシだろう。


「……精が出ますな、オスカー殿」


「! ローガン騎士団長、もう動いて大丈夫なのですか?」


 そんな俺の下に、ローガン騎士団長がやって来る。

 その姿は身体や頭部に包帯を巻いて杖をつくという、なんとも痛々しいものだ。


「勿論、丈夫でなければタヌキジジイは務まりませんからな。それよりあなた様までこんなことをせずとも……」


「いえ、俺ももう『ヴァイラント征服騎士団』の一員ですから。怠けてばかりいられません」


「…………あなたは本当に殊勝なお方だ。とても貴族出身とは思えぬほどに」


「所詮、俺は追放された身です。もう貴族じゃありませんよ」


「……そうですか、そうでしたな。あなたはもう立派な騎士だ。なればこそ――リーゼロッテ、お主も考えを改めねばならんのではないか?」


 振り向きざまにローガン騎士団長が言う。

 すると――彼の背後には、リーゼロッテが立っていた。


「……」


 彼女は右腕を包帯で巻いて首から下げ、なんとも言えぬ表情のまま目線を下げている。

 どうやら相当落ち込んでいるらしい。


 無理もない、『ヴァイラント征服騎士団』の第三位ナンバースリーともあろう人物が工作兵に一方的に蹂躙され、挙句の果てに貴族出身者に助けられたのだ。

 もうプライドもなにもあったものじゃないだろう。


「……リーゼロッテ、お前も怪我は大丈夫なのか?」


「うん……魔術で治療していけば、すぐに傷は塞がるだろうって」


「そうか。その……お前からすれば複雑な気持ちだろうが――」


「…………ありがとう、助けてくれて」


「……え?」


「アンタは命の恩人よ。それにローガン騎士団長とこの要塞を救った〝英雄〟だわ。……貴族だからって最初に喧嘩売ったのも、これまで生意気な口を利いたのも……全部謝る」


「リーゼロッテ……」


「……アンタ、本当に強いのね。『ヴァイラント征服騎士団』の第三位ナンバースリーはアンタのものよ。今のアタシじゃ、どうやっても勝てっこない。一から修行し直しだわ」


 どこか諦念を交えてリーゼロッテは言う。

 だがそんな彼女に対して、俺は耳を疑った。


「俺が、第三位ナンバースリー……? ちょ、ちょっと待ってくれよ! 俺にそこまでの実力はないぞ!」


「でもアンタ、アタシに勝ったじゃない」


「あれはなにかの偶然じゃ……! お前の調子が悪かったとか……!」


「……昨日から思ってたんだけど、アンタって自分の実力を知らないでしょ。そんなに強いくせに世間知らずとか、本当に意味不明だわ」


「……俺って、そんなに強いのか?」


「うん、もう異次元」


「そうですな、完全に異次元です」


 うんうん、と同調するローガン騎士団長。


 ……知らなかった。俺ってそんなに強いのか……。

 いや、確かに多少剣術に自信はあったけど……なんだかにわかには信じ難い話だな……。


 俺が内心でモヤモヤしていると、


「……オスカー、最後にこれだけは言わせてほしいの」


「ん? ああ、なんだ?」


「アタシね、ずっと強くなることが目標だった。強くなって、いずれ『ヴァイラント征服騎士団』の第一位ナンバーワンになってやるって、そう思ってた。でも今日からは、アンタを目標にするわ」


「俺を?」


「強くなって、いずれアンタを倒せるようになる。そしてこの手に第三位ナンバースリーを取り戻すの。だから……それまで誰にも、負けんじゃないわよ」


 リーゼロッテは俺に歩み寄り、左手でトンっと俺の胸を叩いた。

 それはきっと――彼女なりの親愛の表し方なのだと思う。


「……そうか。なら負け知らずのままお前を待てるように、頑張るよ」



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