第12話 どうやらピンチだったらしい
「――――は?」
ブリアックは我が目を疑う。
なんだ――?
なにが起こった――?
あのジジイを処刑するはずの部下たちが、どうして全員地面に倒れている?
今、なにがあったんだ?
なにも――なにも見えなかった――。
人も、剣も、影すらも。
気付いたら、全員が――
「――どうやら、ピンチだったみたいだな」
「っ、ひぃ!?」
声が聞こえて、ブリアックは慌ててリーゼロッテから離れて臨戦態勢を取る。
そして声がした方向を見ると、そこには――
✞ ✟ ✞
なんとか間に合ったが……どうもピンチだったらしい。
ローガン騎士団長は処刑される寸前で、リーゼロッテに至っては右腕に鉤爪が刺さっている。
見るからに痛々しい現場だ。
「ア……アンタ、どうして……」
俺の登場があまりに予想外だったのか、リーゼロッテが茫然としつつ言う。
まあ無理もない、今頃要塞内を暴れ回る他の工作兵たちと戦っているとでも思っていたのだろう。
「……痛むだろうが、少し我慢してくれよ」
腕に刺さった鉤爪を引き抜くと、リーゼロッテを起こしてやる。
彼女は痛みで一瞬だけ悲鳴を上げたが、すぐにぎゅっと口を結んだ。
流石は騎士、強い心の持ち主だ。
「な……なんだぁ、お前はぁ!? 新しい騎士かぁ!? お前みたいな奴がいるなんて、俺の情報にはねぇぞぉッ!」
――コイツが、おそらく工作兵共の隊長だろう。
ドクロのような顔からダラダラと汗を流し、酷く狼狽している。
「……要塞内の工作兵は全員駆逐した。残るはお前だけだ」
「あ……ああああんだとおぅッ!? こんな短時間で、そんなのあり得ねぇ! ハッタリに決まってるぅ!」
「全部で九十六――それが攪乱として潜入した工作兵の数。そうだろ?」
「んなぁ……っ!? ど、どうしてぇ……!?」
「だから、全員倒して数えたんだよ。もっとも、俺一人じゃもっと時間かかっただろうけどな。デニスさんがいてくれて助かった」
本当に、あの人が助け船を出してくれなければどうなっていたか。
彼はいずれこんな日が来るであろうことを見越して、非常時に迅速に動けるよう直属の部下たちを教育していた。
さらに要塞内の構図を完全に把握し、侵入者がいればどこから入ってどう動くかをシミュレーションまでしていたのだ。
そんな事前準備のお陰で、あっという間に敵を駆逐できてしまった。
あれは流石としか言いようがない。
「さあ……選べ。大人しく投降するか、それともここで俺に斬られるか……」
「ち、チクショウがぁ! ここまで来て失敗だなんて、俺のプライドが許さねぇ! 喰らえぇ! 火炎魔術【焔玉】ッ!」
ドクロ顔の工作兵は口の中に魔力を溜めると、それを勢いよく吹き出す。
吹き出された魔力は大きな爆炎となって、俺へと襲い来る。
「! 駄目、避けて!」
リーゼロッテが叫ぶ。
なるほど、珍しいタイプだが炎の魔術か。
だったら――
「斬るだけ、だな」
俺は剣を振るう。
すると――大きな爆炎は俺を避けるようにばっくりと二つに割れ、その後すぐに消滅した。
「ほ――ほあぁ!? 魔術がっ、どうして剣で……!?」
「俺はな、子供の頃からろくに魔術を使えなかった。だから魔術の代わりに剣術を身につけ、剣で魔術に対抗する術を会得したんだ」
ベルグマイスター家の屋敷にいた頃、伊達に毎日毎日剣を振っていたワケじゃない。
家族の一員として認めてもらうために、剣でも魔術の代わりになるんだと証明しようとした。
〝剣さえあればなんでもできる〟――それくらいを目指したんだ。
だから、剣で魔術を斬るなんて朝飯前である。
「……俺の剣は魔術を斬る。魔術で俺を倒すことは……不可能だと思え」
「ば……ばばばばばばばば化物っ……化物だああああああぁぁぁぁ……ッ!」
「もう一度だけ言う。投降しろ。さもなきゃ――」
「チ――チクショウ――――チクショおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
やけくそになり、こちらに向かってくるドクロ顔の工作兵。
はぁ……仕方ない。
俺は、剣を顔の横の高さにまで持ち上げ、構える。
そして――
「――剣技【
振るった。
ドクロ顔の工作兵目掛け、
回避する隙も防御する隙も与えないよう、ほぼ同時に十連撃を叩き込む。
その途切れのない連続の刃は、さながら奴にとって剣が揺れ動くようにでも感じたほどだったろう。
「が――――あぁ――――っ!」
血を吹き出しながら倒れていく、ドクロ顔の工作兵。
ま、死んではいないだろう。
この後色々尋問しないとだからな。
もっとも、半殺しくらいにはしてあるけど。
俺は剣を鞘に納め、リーゼロッテの下へ歩み寄っていく。
この時、彼女は何故か天変地異でも目撃したかのような顔をしていた。
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