第11話 リーゼロッテ VS ブリアック


「しゃああああああああああっ!」


 ――鉤爪の連続攻撃がリーゼロッテを襲う。

 ブリアックの攻撃は一撃一撃こそ軽いが手数重視で、素早い動きで相手を翻弄するスタイルだ。


「そんな攻撃――っ!」


「うひょ! 危ねぇなぁ!」


 反撃に転じるリーゼロッテの斬撃を、軽やかな身のこなしで回避するブリアック。


 おかしい――なにかが変だ――。

 戦いが始まって、すぐにリーゼロッテは違和感に気付いた。


 攻撃が当たらない――いや違う、攻撃が読まれている――。

 攻撃だけじゃない、まるで動きそのものが全部読まれているような――。


「あぁ、気付いたぁ? 俺ぇ、お前がどう動くか全部わかってんのぉ」


「な……っ、そんなことあるワケ――!」


「さっき言ったよなぁ、お前らの情報は全部集めてあるってぇ。その情報ってぇのはぁ、お前の戦いの癖に関しても全部なぁ」


 ブリアックはいやらしく舌なめずりする。

 この、相手が焦り出す瞬間が堪らない――とばかりに。


「これまで何度もあった小競り合いでぇ、お前ら上位騎士の動きはじっっっくりと観察させてもらったからよぉ。戦いの癖、剣の振り方、反撃のタイミング……お前らの挙動は筒抜けなんだぁ」


 ブリアックの全身を舐め回すような視線の動きに、ぞわっと鳥肌が立つリーゼロッテ。

 これまでずっと見られ続けてきたなんて、彼女はまるで知らなかったのだ。


「特にお前の動きは直線的でぇ、読むのが楽勝ぉ。いくら強くても、どう動くのかわかってれば攻略できちゃうもんねぇ」


「ば……ば……馬鹿にして……この変態がぁ……っ!」


「ウヒヒ! 怒れ怒れ! その方が動きがわかりやすくなるよぉ!」


 怒りに身を任せ、剣を構えて突撃するリーゼロッテ。

 だがこれこそブリアックの思う壺だった。


「はいぃ、そこぉ! 毒魔術【紫霧】!」


 ブリアックは口に魔力を溜めると、それを勢いよく吹きかける。


「うっ……!? あぁっ、目が……っ!」


 しまった――これは目潰しか――!


 彼女が気付いた時にはもう遅い。

 紫色の霧は両目の痛みと痒みを引き起こし、まともに目が開けていられなくなる。


「ほらほらぁ、隙ありぃ!」


 ブリアックがリーゼロッテに飛び掛かる。

 そして勢いよく彼女を押し倒すと――剣を持つ右腕に、鉤爪を突き刺した。


「あ――――うああああああああああッッッ!!!」


 血が噴き出て、激痛に悶え苦しむリーゼロッテ。

 さらに鉤爪は腕を貫通して地面に刺さり、彼女は倒れたまま身動きが取れなくなる。


「ウヒヒ、痛いかぁ? 痛いよなぁ。でも、本当のお楽しみはここからだぁ」


 ブリアックは彼女に覆い被さり、口元を手で押さえる。


「俺はなぁ、綺麗な女を犯すのがだぁい好きなんだぁ。特にお前みたいな気の強い女はもう最高ぉ。酷くすればするほど、激しく抵抗してくれるからよぉ」


「――っ!」


「貴様! やめろ、リーゼロッテを放せェッ!」


 ローガン騎士団長は彼女の下へ駆け寄ろうとするが、『マムシ』の工作兵に取り押さえられる。


「お前らはちゃっちゃとそのジジイを処刑しろぉ。そいつの首が落ちるところを、この女に見せつけてやるんだぁ。そしたらどんな目の色をするか……ウヒヒぃ、もう想像しただけで勃起もんだよぉ!」


「んんっ、んぅ――ッ!」


 必死で抵抗しようとするリーゼロッテ。

 だが反撃はおろか、口を抑えられて言葉を発することすら出来ない有り様だった。


 悔しい――自分の無力さが――。


 リーゼロッテは自分の弱さを恨む。

 同時に、願わざるを得なかった。


 誰か――誰でもいいから――助けて――と。


 そう願った、正にその瞬間――




 ローガン騎士団長を掴む工作兵たち、その全員が一瞬で斬り裂かれた。

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