第9話 敵襲


「敵襲――だと――!?」


 『ベッケラート要塞』全域に、その言葉が響き渡る。


 直後――監視塔の一つが、ドンッ!という轟音と共に巨大な爆炎に包まれた。


「っ! 爆破魔術か!?」


 上空から降り注いでくる瓦礫の山。

 さらに立て続けに要塞内のあちこちで火の手が上がり、夜空が赤色に染め上げられる。


 これは――完全な奇襲だ。


「リーゼロッテ様! 伝令、伝令です! アシャール帝国軍の兵士を確認! 既に要塞内に入り込まれている模様!」


「な――なんですって!? 敵の数は!?」


「こ、この状況では正確に把握できず……」


 震える兵士。


 アシャール帝国とは、ルーベンス王国の北側に位置する巨大な国だ。

 ルーベンス王国とは昔から敵国同士であり、この『ベッケラート要塞』も彼らの侵攻に備えて作られた場所である。


 特に最近は緊張状態が続いており、小規模な戦闘が何度も起こっていたが――要塞を陥落させにきたということは、今日を明確な開戦日にするつもりらしい。

 とうとうこの日が来てしまった、というワケだ。


 それにしても、如何に堅固で知られる『ベッケラート要塞』でも中に入り込まれた状態で戦うのは慣れていないらしい。

 当然、といえば当然か。

 外からの攻撃に強い場所ほど、内側からの攻撃には脆いからな。


「落ち着け、リーゼロッテ。敵は少数だ。おそらく百もいない」


「は? な、なんでわかるのよ……?」


「もし大軍が総力を上げて攻めてきたなら、正面から堂々と叩きにくるはずだ。しかし外を監視していた衛兵はそれを確認していない。つまりこれは〝高度に連携の取れた精鋭部隊による潜入作戦〟だとみて間違いないだろう」


 『ベッケラート要塞』――いや『ヴァイラント征服騎士団』は何度もアシャール帝国軍との小競り合いを経験して、その度に彼らを追い返していたはずだ。

 だがそれは裏を返せば、アシャール帝国軍は『ヴァイラント征服騎士団』の強さを熟知しているとも言える。

 だからこそ、正攻法ではなく搦め手を使ったのだ。


「ふ……ふん、それなら話が早いわ。ネズミ共を各個撃破すればいいのね」


「そんな簡単な話じゃないぞ。リーゼロッテ、もしキミが逆の立場だったとしたら――この要塞内で、まず誰を狙う?」


「誰、って……――――っ! ローガン騎士団長が危ない!」


 気付いた瞬間、リーゼロッテは血相を変えて走り出した。


「お、おいリーゼロッテ! 待て! クソッ……!」


 ――どうする。

 彼女がローガン騎士団長の下へ向かってくれるなら、俺が要塞内の敵を撃破しに行くのもアリだろう。

 だが昼間の一戦を顧みても、今のリーゼロッテは本調子じゃないのかもしれない。

 それにこの攻城戦を行っている部隊は、おそらく彼女が思っているよりも手練れだ。

 苦戦する可能性もゼロじゃない。


 どうする――俺はどう動く――。


 俺は自分がどう動くべきか判断に迷う。

 だが、そんな時だった。



「――よう、お坊ちゃん。困っているなら手を貸そうか?」


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