第3話 入団試験
――どうしてこうなった。
俺は今、『ベッケラート要塞』の中にいる。
周囲には『ヴァイラント征服騎士団』への入団を希望する大勢の者たち。
見るからに荒くれ者が多く、傭兵らしき者もちらほらと見受けられる。
「では、これより入団試験を行う! 試験内容は簡単、実力を見せること! 『ヴァイラント征服騎士団』は強き者のみを友とする! もしもアタシに一太刀でも入れることができたら、その時点で合格よ!」
高らかに宣言するリーゼロッテ。
彼女も片手に剣を持っているが――他に採用官らしき者は見当たらない。
それに対し、俺含め希望者の数は三十人はいるだろう。
まさか……この人数を一人で相手取る気なのか?
流石に屈強そうな他の希望者たちも互いに顔を見合わせ、
「おいおい、アンタが一人で相手するのか? どうなっても知らねえぜ?」
「構わないわ。全力で来なさい。それとも女一人を相手に、怖くて足も動かない?」
「ケッ、抜かしやがれ。そこまで言うなら――いくぞオラァ!」
大きな剣を持った男が、勢いよくリーゼロッテに斬りかかっていく。
そして逞しい腕で剣を振るうが――彼女はそれをひらりと回避し、男の背後に回り込んで後頭部に蹴りを入れた。
「ガァ……!?」
気絶して倒れる男。
まさに一瞬の出来事だった。
「不合格。これじゃ戦場で使い物にならないわ。さあ、次はどいつ?」
「こ、このアマ! 舐めやがってぇ!」
希望者たちが一斉にリーゼロッテに突撃する。
剣、槍、斧などが彼女を襲うが、それらの攻撃は全て避けられ――ほんの一瞬の隙を突かれて一人、また一人と倒されていく。
もっと言えば、彼女は剣を持ってこそいるがほとんど使っていない。
希望者に対しての攻撃は拳、肘、膝などで行い、斬撃を一度も行わないのだ。
これしきの相手、剣を使うまでもない――ってことか。
そうして――僅か数分の間に、三十人いた希望者が全員地面に突っ伏すこととなった。
「なんて手応えのない。今日の希望者はハズレね。……ちょっと、残るはアンタだけよ」
「……それって、俺のこと?」
「他に誰がいるの? とっととかかってきなさい」
「いやあの、だから俺は確認を取ってもらいたいだけなんだが……」
「はっ、これだから温室育ちのお坊ちゃまは。その腰の剣は飾り? 実はまともに剣を振るったこともないんじゃない? 貴族なんてスプーンより重いものは持てないものねぇ」
露骨に挑発してくるリーゼロッテ。
そこまで言われて、俺は初めてムカッとする。
確かに世間一般からすれば、俺は温室育ちの貴族様かもしれない。
だが剣については、そこまで馬鹿にされて黙っていられない。
俺は魔術が使えないから、代わりに毎日毎日剣を振るって自らを鍛えてきたのだ。
多少なりとも剣術に誇りも思い入れもある。
「……ハア、わかったよ。剣の腕を見せればいいんだな?」
「そうよ。遠慮はいらないわ? 一撃打ち込んできなさい」
「なら……お言葉に甘えるぞ」
俺は――鞘に納められた剣を抜く。
そして顔の横の高さにまで持ち上げ、構えた。
「プっ、なによその構えは。隙だらけじゃないの」
「ほとんど我流だからな。で、アンタは構えなくていいのか?」
「馬鹿にしないで。こっちは素人じゃないんだから」
「そうかい。じゃ、いくぞ」
俺は構えたまま、一歩踏み込む。
次の瞬間――リーゼロッテが持っていた剣が、宙を舞った。
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