第11話 神業
銀髪の女性を、俺は生で初めて見た。
そして、恰好こそTシャツにジーンズというなんでもないものだが、しかしその際立ったスタイルと大きな切れ長の目は俺を魅了する。
「ぱ、ぱんつ?」
「あなたのパンツ、なんかちゃんと洗濯されててつまんないわね。ほら、返すわ」
「あ、どうも……って、なんで俺が穿いてたパンツをあなたが!?」
「なんでって、脱がせたのは私だからよ」
「はあー?」
いきなり家に現れた銀髪の女性は、突然俺のパンツを投げ捨てて意味不明なことを言う。
「あんなに無防備だったら脱がせてくれって言ってるようなものよ」
「か、勝手に俺の下着を脱がせたのか?」
「あら、勝手にじゃないわ。ちゃんとあなたの彼女に許可、もらったわ」
「彼女?」
「あれ? あなたってあまねの彼氏さんでしょ?」
「……なんであまねのことを」
「だって親戚だもの。聞いてない? 私、桐島イリア」
桐島イリア。
イリア。
イリアお姉ちゃん。
名前を聞いて瞬時に、目の前の妖艶な女性が誰か理解した。
「あなたがイリアさん?」
「ええ、そうよ。あまねの従姉にして変態道の先駆者でもあるわ」
「へ、変態、道?」
「でも、あなたもさえない見た目してるわね。私の一族って、どうしてこうも冴えない男が好きなのかしらねえ」
と、言いながら。
なぜか自分の手をくんくん。
「……残り香もないなんて。あなた、もしかして毎日お風呂入ってる?」
「あ、当たり前でしょ」
「うわあ、つまんないわね。もしかして監禁されたこととかないの?」
「あ、あるわけないでしょ」
「ないんだあ、うわあ、きもー」
「……」
え、そんなに言われないといけないこと、なの?
監禁されるのって大人になったら普通なの?
「あまねもまだまだね。彼氏の教育がなってないわ」
「ちょ、ちょっと待ってください。俺とあまねはただの幼馴染で」
「あら、でも結婚の約束をした仲なんでしょ?」
「そ、それは……昔の話です」
「反故になってないなら約束は約束よ。それとも、あまねが他の男と変態プレイを楽しんでる姿を想像して、あなたはそれでいいの?」
「そ、それは……」
「一つだけ言っておいてあげるわ。変態だって相手を選ぶ権利はあるの。そして、好きな人と好きなことを楽しみたいって思ってるものよ。その辺、よく心得ておくことね」
そう言って、銀髪をふぁさっとなびかせてからイリアさんは俺を通り過ぎていく。
「ま、待ってください。あの、なんでここに?」
「少し早くこっちについたから家でゆっくりしてたんだけど、あまねから連絡が来てね」
「あまねから?」
「ええ。彼氏が無防備に寝てる時にどうやったら気づかれないようにパンツを脱がせられるかって。でね、百聞は一見に如かず、実践してあげたら納得して帰っていったわよ」
「え、と、ということは俺の裸、見たんですか?」
なんか気まずい。
幼馴染の従姉の人にパンツを脱がされたなんて、恥ずかしい以外のなにものでもない。
「いえ、見てないわ。ていうかズボンすら脱がせてないわ」
「え?」
「私を舐めないで。あ、今のは私を侮らないでって意味であって舐めたければそれは別に……いえ、さすがにそれは浮気になるからダメね。やっぱり舐めないで」
「……」
「じゃあ、そういうことだから。また明日、よろしくね」
「……」
なんか、何も言えなかった。
というより、何も言う気がしなかった。
少し話しただけだが、この人はやばいと動物的直観が俺に訴えかけている。
関わったらやばい。
できたら関わりたくない。
ていうか関わらないでほしい。
絶世の美女なのに、なぜかそんなことを思ってしまう不思議な魅力? をまとった彼女は颯爽と家を出て行った。
◇
「……ん?」
「あー、もう! うまくできないよー!」
「あ、あまね!?」
「そうちゃんおはよ。でももうちょっと寝てて」
「だーっ! 離れろ!」
イリアさんが去った後、気が抜けたように眠気に襲われた俺は部屋で爆睡。
そして朝、いつものように変態の幼馴染が俺に迫ってきているところ。
「ね、ね、そうちゃん昨日、イリアお姉ちゃんに会った?」
「会ったよ。で、パンツ脱がされたよ」
「えへへ、知ってる。私もお姉ちゃんの早業、目の前で見てたし」
「だったらなんで俺のパンツをお前がもらわずにあの人が持ってたんだよ」
「んー、お姉ちゃんに言われたの。ねだるな勝ち取れ! って」
「……」
「だからね、そうちゃんのパンツは自力でゲットするの。ね、ね、ちょーだい!」
「あーもう離れろ!」
変態が変態に感化されてより一層鬱陶しくなった。
全く迷惑な話だ。
それに、あの変態美人と今日もまた会わないといけないと思うとうんざりする。
「……って、別に俺が会う理由もないか」
「え、イリアお姉ちゃんとの約束は今日だよ?」
「勝手にお前が約束しただけだろ。俺は行かない」
「ダメだよ。あ、お姉ちゃんからそうちゃんにお手紙預かってるの」
「手紙?」
一枚の二つ折りになった紙を渡された。
で、開くと。
『今日、あまねに恥かかせたらパンツどころか根こそぎいただくから』
と、書かれていた。
「……うん、行こう」
「えー、なんて書いてたの? もしかしてお姉ちゃんといい感じなの? やだー」
「んなわけあるか。でも、行かないとやばいことになりそうだな」
あれは冗談が通じるタイプの変態じゃない。
笑って済ませてくれるタイプでもない。
うん、怖い。
なんかもう、行っても退いても地獄って感じだな。
いや、行っても退いても変態しかいない、だな……。
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