第10話  変態現る


「おやすみ、そうちゃん」

「こら、勝手に人のベッドで寝るな」

「えー、いちいちパンツとりにくるのがめんどくさいから一緒に寝ようよー」

「いちいちパンツをとりに来なければ解決だ。帰れ」

「やだー」


 夕食もデザートタイムも終わった後、あまねは俺の部屋に勝手に入って勝手にベッドにもぐりこんで出てこなくなった。

 あまね曰く「そうちゃんがパンツくれないのがいけない」そう。

 いや、知らんがな。


「あのさ、一緒に寝るのはさすがにまずいだろ」

「それってそうちゃんがムラムラしちゃうから?」

「……常識的に考えてってことだ」

「でも、常識で言うなら夫婦は一緒に寝るものだよね?」

「夫婦ならな。俺たちは結婚してない」

「むー。そうちゃんのいじわる。いいもん」


 なんか布団の中でごぞごぞ動き始めた。


「お、おい何してる。まさか」

「ここではしないもん。パンツ脱いでるだけ」

「なんで脱ぐの!?」

「え、そうちゃんのベッドに置いて帰るの」

「な、なんで置いて帰るんだよ!?」

「えへへ、そうちゃんが私の濡れたパンツ見てムラムラしたら、絶対私を迎えにくるだろうなって」

「ひ、卑怯だぞそんなの」

「だめー、もう脱いだから。ほら、じゃーん」

「み、見せんでいい!」


 布団の中からパンツが出てきた。

 白い、何の変哲もないそれだが童貞の俺にはもちろん刺激が強くすぐ目を逸らす。


「そうちゃんだって興味あるくせにー」

「あ、あるけどそういう露骨なのは嫌なだけだ」

「じゃあ、こっそり人目につかない場所に隠しておくね」

「それもやめてくれ」

「でもイリアお姉ちゃんは自分のパンツを今の彼氏さんに食べさせたことが両思いのきっかけになったって言ってたよ?」

「……」


 またイリアお姉ちゃん、か。

 いや、パンツ食わせるってどういう女だよ。

 彼氏さんも、相当な変態なのか?


「ね、とにかく一緒に寝ようよ。今日は一緒に寝るだけでいいから」

「信用ならん」

「じゃあどうしたら信じてくれる?」

「まずパンツを穿け! それからだろ」


 ノーパン女が同衾を誘ってきて何もしなくていいなんて、そんな話が信じられるか。


「んー、もう濡れちゃってるから穿くの気持ち悪いよう」

「予備はないのか」

「お部屋に取りに帰らないとないもん」

「じゃあ帰れよやっぱり」

「だって帰ったら絶対入れてくれないじゃん」

「……入れてやるから、着替えてこい」

「え、いいの? もちろん生でいいよ」

「いや、部屋に入れるかどうかの話、だよな?」

「部屋……うん、赤ちゃんのお部屋、だよ?」

「……いや、俺の部屋にだよ」

「え、そうじゃなかったらお外ですることになるじゃん」

「いや何の話なのさっきから?」

「えへへ、エッチなはなしー」

「……帰れ!」


 ちょっとでも同情したら負け。

 部屋で一緒に寝るくらいなら、とか思ってたけどやっぱりだめ。


 俺はあまねが布団から出ないなら俺の方がリビングで寝ると。

 そう言って部屋を出て行った。



「はあ……なんでこうなるんだよ」


 リビングのソファで寝転がりながら。

 あまねの変態っぷりにうんざりしていた。


 昔はあんなんじゃなかった。

 もっとおとなしくて、エッチなことなんて興味ないどころかその知識すらないような子だった。


 でも、今は見る影もない。

 頭の中が変態行為一色だ。

 いや、まあ好きな人とエッチしたいってだけなら別に変態と呼ぶほどではないのかもしれないけど。

 勝手に一人でしたり勝手に濡らしたり勝手にパンツ脱いだり。


 やっぱりそれは変態だ。

 俺は変態が好きじゃない。

 幼馴染との淡い初恋をしたいのだ。


 ほんと、そのイリアお姉ちゃんってやつは何者なんだ?

 明日会うって、そう言ってたな。

 ……あんまりあまねに悪影響を与えてるようなら、年上でもガツンといってやるか。


「ふああ、ねむ……」


 散々変態の相手をさせられて疲れたようだ。

 少し硬いソファの上でも、ぐっすり眠れそう。


 おやすみなさい。



「……ん?」


 夜中に目が覚めた。

 物音、とかではなく違和感で。


 なんか、股間がスース―する。


「……あ!」


 まさかと思ってズボンの中に手を突っ込むと、なかった。

 

 パンツが。


 寝る前には確かに穿いていた、紺のトランクスが盗まれていた。


「あまねのやつ……やりやがったな」


 俺の寝込みを襲われた。

 でも、全く気付かなかったということは相当慎重に俺のパンツを脱がせたに違いない。


 あのやろう……。


「おい、パンツ返せ!」


 部屋に入ると、真っ暗。

 急いで明かりをつけると、しかしそこには誰もいない。


「……あいつ、パンツ持って帰ったのか?」


 だとしたらなんて泥棒だ。

 人の穿いていたものを脱がせてとんずらなんて、いくら幼馴染でもやりすぎだ。


 明日、何食わぬ顔で家にやってきてみろ。

 もう絶交してやる。


「……しかし夜中だし、あまねの家に怒鳴り込んでいくわけにもいかんしなあ」


 とりあえず今日はパンツをあきらめるしかない。

 気を取り直して、新しいパンツを穿いてから喉を潤そうとキッチンへ。


 すると、


「……ん?」


 人がいる。

 キッチンの椅子に座っている人影が見える。

 椅子に深く座っているため、頭が少し覗いているだけだが、女性か?


 でも、あれはあまねじゃ……ない?


「おい、誰だ」


 イライラしていたせいか、不審者だろうがなんだろうが関係なく。

 突っかかる。

 すると、椅子から立ち上がり、全身を現す。


 長い、銀髪がなびく。

 スラっと長い手足が、俺の目をくぎ付けにする。


 そして、手には何か布を持ってひらひらさせている。


「あ、あなたは……?」


 あまりの美貌に圧倒される。

 そして、戸惑う俺に対して彼女は笑いながら言う。


「あら、あなたのパンツってあんまり匂いしないのね」

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