第9話  従姉のイリアさん

「御馳走様」

「いっぱい堪能してくれたー?」

「まあ、普通にうまかったよ」

「えへへ、それじゃデザートのあとの私はいかがですかー?」

「おなかいっぱいだから遠慮しておきます」

「むー」


 なんだよデザートの後って。

 

「とにかく、今日はもう遅いから寝るぞ」

「うん、お部屋行こ」

「帰れよ。泊めないぞ」

「え、こんな夜に私一人で帰れっていうの? ひどーいそうちゃん」

「隣だろ! 送っていくから帰れ」

「からの?」

「……そこまで送り出しますのでどうぞおかえりください」

「外で出しますのでどうぞおかわりください? ん、いいよ中でも」

「お前の耳どうなってんだよ!」

「でも、まだしてないからおかわりはおかしいよね、えへへ」

「そういう問題じゃねえよ」

「でも、今日は大丈夫な日だよ?」

「だからそういう問題じゃないって」

「もー、なんでそんなにそうちゃんは頭固いの? 固くするのはあそこだけっていうじゃんかー」

「言わねえよ! なんだその格言っぽい変態用語は」

「えへへー、イリアお姉ちゃんから教えてもらったんだー」

「イリア、お姉ちゃん?」


 突然。

 知らない人の名前が出てきた。


 イリアお姉ちゃん。

 しかしこいつに姉などいないことは知っている。


 誰だ?


「誰だそれ?」

「あれ、従姉のイリアお姉ちゃんの話、したことなかったっけ?」

「ないけど」

「そうだったんだー。じゃあちょうどよかった、明日イリアお姉ちゃんこっち遊びにくるんだけど紹介するね。びっくりするくらい美人だから、そうちゃんも驚くと思うよ」

「ほう」


 まあ、あまねの親戚なら美人なのは想像に難くないが。 

 しかし今の変態格言をそいつから教えてもらったというのであれば、もしかしてあまねが変態化したのはそのイリアお姉ちゃんってやつの影響か?


 いや、世の中にこんな変態が何人もいるなんて想像もしたくないが。


 一体、そいつはどんな人物なんだ?



「ねえ司、今日は合コンしない?」

「は? なんで彼氏彼女で合コンなんだよ」

「彼氏彼女だからでしょ。合コン、意味わかってる?」

「合同コンパだろ?」

「ぶー。合体コンビネーション〇ックスのことよ」

「ややこしい略し方するな!」

「なによ、昨日の電車の中で駅弁したいって言ってたくせに」

「駅弁食べたいって言っただけだ」

「駅弁で食べたいだなんて回りくどい言い方しないでやらせろって言えばいいのに女々しいわね」

「だから弁当食いたかっただけだって!」

「自分の女を弁当扱いとはついに変態ここに極まれりね。下衆」

「なんでそうなるんだ!」


 志門司しもんつかさ、大学二年生。

 俺には美人な彼女がいる。


 桐島イリア。

 高校の同級生で、高校在学中に色々あって付き合い始めた銀髪の美女である。


 きりっとした顔立ちと誰もが見蕩れるくびれたスタイル、そして世の男が皆こぞって興奮しそうな妖艶な顔面。


 こんな彼女を引き連れて大学生活を謳歌できるなんて、普通なら夢のような話だが。


 俺にとっては夢であってくれと思うような日々である。


 なぜなら、


「ねえ司、できちゃったかも」

「え!? そ、それって」

「知恵の輪の話よ。何想像してんの変態」

「紛らわしい言い方するな」

「舌で知恵の輪をほどけるようになったら一流っていうでしょ」

「なんの流派で認められるのか是非聞きたいね」

「私の舌でいつもあなたの理性のタガははずれまくりだもんね」

「う、うるさい誰だって彼女とキスしたらそうなるだろ」

「あら、私はそうはならないわよ」

「な、なんでだよ。お前だって興奮してるじゃないか」

「別に。司にキスされたら大洪水になるだけよ」

「めっちゃ興奮してんじゃねえか! なんかありがとうございます!」

「ちなみに今だってもうびしょびしょよ。早く頂戴」

「ここ大学の敷地内だから!」


 彼女は変態なのである。

 しかも超がつくほどの。


 なんせ出会いは彼女が学校でパンツを履いていないことを目撃したところから。

 そしてなぜか監禁されてパンツを口に突っ込まれて、パンツを強制的に渡されて迫られるという恐怖の変態行為に、しかしついに寄り切られて今に至る。


 途中、仕事仲間とか幼馴染とか、最後には妹まで変態だった事実が判明したがそれは今は語るまい。

 とにかく、それすら懐かしい思い出に感じさせるほど、イリアの変態っぷりは健在である。


「明日はどこにいくか覚えてる?」

「ああ、たしか親戚に会いにいくんだろ?」

「ええ、可愛い従妹が彼氏を紹介してくれるっていうから」

「へー。なんかいいな、高校生?」

「そうよ。私と違ってあの子は真面目よ」

「そうそう変態がいてたまるか」

「あの子は彼氏の脱ぎたてのパンツが欲しくてたまらないそうよ。ほんと、誰に似たんだか」

「絶対お前だ! 悪影響受けまくってんぞ!」

「失礼ね。何をもってこの世の悪というのか説明してもらおうかしら」

「き、急に難しい質問にすり替えるな」

「あら、失礼。そういえば今日あなたが洗濯しようとしてたパンツ、こっそり新品とすり替えておいたから」

「どうするつもりだ!」

「あら、パンツの使い方、知らないの?」

「履くもの、だろ」

「ぶー。嗅ぐもの、よ」

「当たり前みたいに言うな!」


 毎日こうである。

 変態であることを除けば、基本的にイリアは俺が好きで、尽くしてくれるいい彼女なんだけど。


 毎日ハードな変態用語責めにあっている俺はもう、多分普通の恋愛なんてできないのだろう。

 願わくば、明日会うというイリアの従妹の子の彼氏さんには、まっとうな道を進んでもらいたいものだけど。


 果たしてどういう子たちなんだろう。

 イリアよりはまとも、なんだろうけど……。

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