第16話 読み間違えたら末期
とりあえず夜、やることがなくて小説を読んでいるとイリアさんの話を思い出してしまった。
しゃべる、が全部しゃぶるに見える。
俺の目が腐ってきているのを自覚して、本を閉じた。
「はあ……頭おかしくなりそう」
あまねだけならまだ耐えられたが、そこにイリアさんという更なる上位互換が加わった。
圧倒的変態。
あまねのことは可愛いみたいで、お節介ついでに俺に電話をかけてくるだけなんだろうけどいちいち内容が濃く、中身が薄い。
濡れた、湿った、蒸れたなんて言葉が全部卑猥に聞こえてくる。
なんなら、出た、入った、立った、座ったなんて言葉すらも。
もう、日常会話がままならなくなる。
汚染されている。
このままあの人と関わり続けたら俺の方が変態になってしまいそうだ。
「……でも、あまねと一緒にいる限り関係は切れないだろうし」
やっぱりあまねとは付き合えないかも。
そう思いながら目を閉じた。
頭の中では、銀髪美人の猥談が流れてくる。
なんとかそれを振り払いながら時間が経っていき。
寝つけたのは、深夜になってからだった。
◇
「そうちゃん、おはよ」
「……ん、あまねか」
いつものようにあまねに起こされた。
が、パンツをぶんどる気配はない。
「そうちゃん、昨日はごめんね」
「もういいよ。それより、イリアさんはもう大学の方へ帰ったのか?」
「お姉ちゃん? しばらくこっちにいるみたいなこと言ってたけど」
「まじか……」
「どうしたの? あー、もしかしてイリアお姉ちゃんが綺麗だから浮気? ダメだよそんなの」
「す、するわけないだろ……って浮気でもねえよ」
「不倫?」
「結婚した覚えはない」
「むう。なんかそうちゃん、ツンツンしてる。やだ」
「してないって。寝起きだからだろ」
「ならいいけど。ね、学校行こ?」
「ん、そうだな。とりあえず朝飯食ってからだ」
あまねと一緒にキッチンへ。
すると、ガタガタと音が聞こえる。
「あら、早いのね」
「出た……」
キッチンに変態が現れた。
桐島イリア。
悪の根源だ。
「あら、何をもってこの世の悪というのかをちゃんと説明してくれるかしら」
「だから地の文を読むな! ていうかなんでここに?」
「なんで、と聞かれたら今日からあなたたちのお世話をすることになったからよ」
「ああ、そういうこと……今なんて?」
「言っておくけど下の世話はしないから」
「いや聞いてないわ!」
「あ、でも指南はできるわよ。ほら、あまねの穴は案外下向きについてるから気を付けて」
「朝からいらんこと言わんでええわ!」
余計な情報を聞いてしまった。
いや、女子同士ってそういう会話するの?
「あまねの両親も急な出張で海外に行くことが決まったのよ。で、あなたのところもでしょ? だから私に白羽の矢が立ったわけ。あんまり大学でやることもないし、司も執筆の仕事でこっちに来ることが多いからいっそのこと、こっちへ引っ越すことを決めたってわけ」
「決めたって……いや待って、うちの両親も?」
「あら、聞いてなかった? 今日の夕方の飛行機でロスよ」
「まじか……」
うちの両親は全然そういう話をしない人だけど、しなさすぎるだろ。
しかもなんでよりによってこんな変態に伝言を託す?
「というわけであまねの家には私と司が住むわ。そしてこの家にあまねとあなたが暮らすということで双方合意となったわけ」
「どことどこが合意したんだ! 肝心の当事者が聞いてないぞ」
「双方合意の上、と言ってもちゃんと避妊はしなさいね」
「なんの話だ!」
「え、せっく」
「言わんでいい!」
なんか急展開に巻き込まれた。
突如、俺とあまねの両親が海外へ行き、隣へ変態が引っ越してきて俺の家に変態がやってくるという謎の構図。
なんだこれ。
「あの、イリアさん」
「なに、抜いてほしいの?」
「なわけないだろ!」
「あら、ジュースの栓を抜いてあげようかと思っただけよ。何と勘違いしてるの」
「ぐっ……」
「ちなみにペットショップでスコティッシュフォールドがシコティッシュホールドに見えだしたらあなたはもう末期よ」
「見えるか!」
「あら、だけどデキャンタがデカキャンタ〇には見えるでしょ」
「だから見えませんって」
「へえ、まだ目も耳も理性が残ってるのね。そんなんじゃあまねの彼氏としてはつまらないわ。私が教育してあげる」
「していりません」
「調教がよかった?」
「何もしてもらわなくていいですって!」
「でも、グーグルアナリティクスのことをグルグルアナルティクスと読み間違えたことはあるでしょ」
「ないわ!」
朝食も食べずに、ずっとこんな会話だった。
ちなみにこの会話の間中ずっと、あまねは必死に何かをメモしていた。
メモしないで……変態用語集なんて頭に入れちゃダメだからさあ。
「あら、もうこんな時間。ほら、早く学校行きなさい」
「あんたのせいで朝飯食べ損ねましたよ」
「あ、さっきのは学校でイきなさいって意味じゃないからトイレでこっそりしないようにね」
「するか!」
これ以上会話していたら頭がおかしくなりそうだったので家を飛び出した。
後ろからついてくるあまねは「ぐるぐるあなる……ふむふむ」と、さっきの話を真剣にインストールしていた。
ああ、もう俺の人生お先真っ暗だ……。
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