第17話 もうすぐ限界
「そうちゃん、ぐるぐる」
「教室で絶対言うな。言ったら絶交するからな」
朝の下ネタ集を自分も言いたいと言わんばかりに前のめりになるあまねを抑えるのに必死な学校生活はいつもより長く感じる。
ただ、今日は早く学校が終わって家に帰りたいという気分にもならない。
なぜなら、今日から隣に変態がいるからである。
「はあ……なんでこうなった」
「そうちゃん、イリアお姉ちゃんが一緒だと楽しいね」
「楽しいわけあるか。変態のせいで頭がおかしくなりそうだっての」
「そういえば今日はイリアお姉ちゃんのお友達とかが家に来るからみんなで鍋パしないかって言われたんだけど」
「鍋? いや、その前にあの変態に友達?」
「なんでも司さんのお知り合いとか、妹さんとかでみんな美人らしいんだあ。そうちゃん、ハーレムだね」
「ハーレムねえ……」
まあ、あれほど美人なイリアさんの友人なら同じく美人というのもうなずけるが。
同じく変態、じゃないかという心配が強い。
「そうちゃん、みんな美人だからって浮気したらダメだよ?」
「しないって。ていうか、その友人方は大丈夫なのか?」
「なにがー?」
「いや、ほら、変態じゃないかって」
「あはは、イリアお姉ちゃんみたいな人はそうそういないよ。お姉ちゃん曰く「みんなつまらない常識人よ」って言ってたし」
「ふむ」
非常識の塊が常識を語るなと言いたいが、まあ、確かにあれほどの変態はそういないだろう。
そうなるとちょっと楽しみではある。
美人たちとの鍋、か。
いや、イリアさんがいるだけで油断はならない。
気を引き締めて放課後、だな。
◇
「ただいま」
気を引き締めての放課後。
気合を入れてあまねと一緒に家に帰ったが、当然ながら誰もいない。
よかった、変態が不法侵入して勝手にうたげとかしてないようだ。
「そうちゃん、今日から一緒に住むなんてワクワクだね」
「お前はいいのか? 住み慣れた部屋を勝手に出ることになって」
「えへへ、だってお嫁さんになったらどうせ家は出るんだし。なんか先に新婚生活できるみたいで楽しみだよ」
「……そっか」
そういや、基本的にあまねは俺が好きなんだったな。
しかし、イリアさんと知り合ってからあまねとの関係がどんどん固められてるような気がするけど、気のせいか?
「あら、二人とも帰ってたのね」
なんて心の中でしただけの噂話に、変態が寄ってきた。
イリアさんがやってきた。
「お姉ちゃん、お疲れ様」
「あまね、早速鍋の準備をするわ。お鍋出して」
「はーい」
「ま、待ってくださいうちでやるの?」
「当然よ。あまねの家を汚すわけにはいかないもの」
「いや俺の家ならいいんですか……って汚すの?」
「あら、鍋パでしょ?」
「鍋でなんで家が汚れるんですか」
「鍋パって意味知ってる?」
「鍋パーティー、ですよね?」
「ぶー。闇鍋のごとくみんなで乱〇パーティーの略よ」
「帰れ!」
そもそもずれていた。
鍋をする気が一切ない変態はつまらなさそうに「うるさいわね、男なら挿れただけで誰の穴かわかるようになりなさい」とかわけわからんことを言っている。
「あまね、帰ってもらえ」
「え、でも鍋するのに?」
「あの人は危険だ。やってくる友達とやらも信用ならん」
「えー、でももうすぐみんなつくみたいだよ」
「いや、だから」
と、変態を追い返すように説得していると。
「お邪魔します」
玄関から、女性数人の声が聞こえた。
で、すぐにキッチンの方へやってきたのは、なんと美人が三人。
清楚なお姉さんと、やんちゃそうだけどしっかり可愛い女の子、そして。
「やほー、ひなちゃんでーす」
爆乳。
顔も可愛いがそれよりなにより目線がそこに行ってしまうくらいのロケットを携えたお姉さんがやってきた。
「あら、遅かったわねみんな。もう、鍋の準備は始まってるわよ」
「イリアさん、私はまだ司先生との仲を認めたわけじゃありませんからね」
「ひなちゃん、あなたがいつまでも司を狙ってくれることで私の逆NTR精神がくすぐられるわ。でも、昨日も○○×△しちゃったわ」
「い、言わないでよそんなこと」
「しかも最後の瞬間にこっそり隠し撮りしたあなたの画像を司に見せたら「お、俺はひなちゃんでイったわけじゃないからな!」と悶えていたわ。ねえ、もっと過激なの頂戴」
「せ、先生が私で……な、なんかそれ萌える!」
爆乳が変態とおかしな会話をしていた。
なんのことやら事情はさっぱりだが、しかしこの変態とまともにしゃべってる時点でこのおっぱいも変態なのだろう。
……他の二人はどうだ?
「イリアお姉ちゃん、私も今度混ぜてください」
「こら、桐島さんから司を寝取るのは私だからね」
二人ともおかしそうだった。
ということはつまり、この空間にいる女子は皆変態だ。
……魔窟だ。
頭がおかしくなりそう。
「わー、なんかみんな楽しそう。ねえそうちゃん、私たちもしちゃおうよ」
「いや何をだよ」
「○○×△」
「ダメ!」
とても人前で言えないことをお願いされたのに、ここにいる女性たちは「いいねーやっちゃえー」と大盛り上がり。
俺はどうやら、変態の巣窟に迷い込んでしまったようである。
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