第18話 じー

「ひなちゃん、愛撫って愛を撫でるって書くのにいやらしい言葉なの萌えるわよね」

「それを言うならETCカードを挿入しますって普通のことなのに、なんか今からおっぱじめる空気なのがうけない?」

「それならそもそもETCって何って話よね。エロティックの略称かしら」


 リビングで鍋が始まった。

 そして猥談が始まった。

 ずっとイリアさんが話をまわして、それに対して周囲の変態たちが応答している。


「地獄だ……」

「そうちゃんどうしたの? 食べないの?」

「いや、食欲わかねえよ」


 猥談を聞きながら鍋をつつく気にならん。

 が、イリアさんは黙らない。


「この前司と一緒にテレビを見ていたんだけど、戦隊ものが卑猥なのよね。勇者マン・降臨! って叫ぶんだけど、どう聞いても勇者、まん」

「あーもういわんでええわ!」


 耐え切れず話を切ってしまう。


「あら、どうしたの彼氏君。あまねと69してていいのよ」

「鍋食いながらするか!」

「でも、お鍋食べたあとのホカホカなお口で咥えられると気持ちいいらしいわよ」

「知るか!」

「そういえば私が大学の研究で開発した『きりたん〇ん』って商品、いる?」

「いらん!」

「いるー」

「あまね……」


 あまねはイリアさんの熱狂的信者だけど、変な開発品を家にもらってくるのは感心できん。

 いや、なんだよその商品は。

 東北の人に謝れ。


「一体なんの研究を大学でしてるんですかあなたは」

「私? 私はアダルトグッズに革命を起こすべく日々勉強してるわよ」

「いやなんの勉強だよ」

「人体についてよ。人間の隅々を知ることでどうすれば一番気持ちのいい絶頂を迎えられるか日々勉強ね」

「そんなの彼氏とやれよ」

「彼氏ともやってるわよ」

「……あ、そ」

「そんなことより彼氏君、ひなちゃんのおっぱいを見ても反応しないなんてあなたなかなかの童貞ね」

「……いや、それは別に」

「よーく見てみなさい。ほら、この子以前から成長してIカップよ」

「あい!?」

「ほら、この布一枚向こうに広がるのは無限の宇宙よ」


 思わず、見てしまった。

 すると、ひなさんのぷるんとしたおっぱいがバインと弾む。


 弾む。

 はじけそうなほどに。

 

「……い、いやダメだ」

「ほらほら、ひなちゃんはちなみに性感帯がこの大きな胸全部だからわしづかみにするだけで濡れるのよ」

「い、いやだからって」

「ひなちゃんを触ると、ほら」

「ひゃうっ!」

「!?」


 イリアさんがひなさんの胸をわしづかみ。

 するとひなさんはびくんと体をよじらせる。


「……」

「ほら、触りたくなったでしょ。幼馴染の前で違う女の子のおっぱいを揉む背徳感にまみれてみたくならない?」

「な、なら、ない」

「ふーん、相当ね。それだけあまねのことを大事に思ってるならどうして付き合わないの?」

「そ、それは……」


 俺だって男だ。

 見事なまでの、もはや芸術の域に達しているひなさんの巨乳を前に全く無反応ではない。

 でも、どうしても理性が勝る。

 なぜなら、隣にあまねがいるから。

 あまねの前で、変なことをしたくないと思っている自分がいる。


「……」

「ほら、正直になりなさい。そうでないとここにいる司の幼馴染なのに変態に幼馴染を寝取られた詩や司の妹なのに変態に兄を寝取られた柚葉みたいに辛酸をなめることになるわよ」

「一応変態という自覚はあるんですね……」

「私が変態じゃなかったらこの世はカオスよ。あ、カオスと犯すって似てるわね」

「やかましいわ!」


 やかましかった。

 俺が。

 ただ、俺が声を荒げるととなりであまねが笑っていた。


「あまね?」

「あはは、おもしろーい。なんかイリアお姉ちゃんと話してるそうちゃん、面白い」

「そ、そうか?」

「うん。やっぱりそうちゃん大好き。ね、私と付き合ってくれるよね?」

「……え?」


 突然、告白された。

 で、周りの変態達も一斉に俺を見て圧をかけてくる。


「じー」

「じー」

「じー」

「自慰」

「おい変なのがいるぞ」

「あら失礼。カップル誕生の瞬間っていいオカズになるでしょ」

「なるか!」

「で、どうなの? 付き合うわよね?」

「そ、それは……」


 どうしても俺とあまねを付き合わせたいという圧力をイリアさんたちから感じる。

 あまねはそんな周りの援護もよくわからない様子でニコニコしている。


「ほら、早く出しな……言いなさいよ」

「うっかり言い間違えることじゃないでしょ」

「遅漏は乾くから嫌われるわよ」

「何の話だ」

「人の気持ちだって、あまりに放置されると乾くものよ。今こうしてあまねの気持ちが潤っている時に返事しないと後悔するわ」

「……わかりましたよ」


 俺だって、別に心は決まっていた。

 ただ、変態を直してくれないといやだと、そう思って関係をはぐらかせていたが。


「あまね、俺と付き合おう」

「うん、よかったあ。そうちゃん大好き」


 なんか変態に囲まれたよくわからない場所で、付き合った。

 最悪だった。

 こんなつもりじゃ、なかったのに。


「……はあ」

「こら、彼女ができてため息なんて失礼よ。息は耳に吹きかけなさい」

「そんなことばっかり言われるからでしょ」

「でもとりあえず今日はあまねの初めて記念日になるわね」

「いや、まだそれは早いって」

「ここで質問です。女性の穴はいくつあるでしょーか」

「知るか!」


 とまあ。

 なぜか俺はあまねと付き合うことになった。


 もっと幼馴染との両片思いを引っ張る展開とか、恋のライバルが出現して三角関係がこじれる展開とか。


 一切なかった。


 ただ、変態が増えた。

 そして彼女ができた。


 以上である。


 ……異常だよこんなの。

 

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