第14話 監禁?
「ね、ね、イリアお姉ちゃんたちってこのあと何するのかなあ」
家でアイスを食べながらあまねがふと。
「さあな。二人は付き合ってるんだし部屋でいちゃいちゃしてんじゃねえの?」
「ね、お姉ちゃんと司さんってどういうなれそめだったか知ってる?」
「知らねえよ。どうせろくな話じゃないだろ」
「すっごくドキドキする話だったよ。お姉ちゃんがさ、まず学校にパンツ穿かずに行ってね」
「いや待て、最初っからやばいだろ」
「そう? 私も何回かパンツ穿かずにおうちきたことあるよ?」
「あるの!?」
「えへへー、気づかなかったんだ。ドキドキするんだあれって」
「……」
スース―して落ち着かない気がするけど。
いや、変態と感覚を共有しろってのがそもそも無理な話か。
「でね、そのあとパンツを司さんの口につっこんでー」
「もう言わんでいい。やっぱりまともじゃねえよあの人」
「ね、そうちゃんも監禁されたい?」
「されたくない」
「だよね。よかったあ」
「よかった?」
「うん。だってそうちゃんが監禁されたいなんて言い出したら嫌だし」
「あまね……」
どうやら、あまねにそういう癖はないようだ。
ちょっとほっとする。
やっぱりあまねは所詮あの人のまねごとをしてるに過ぎない、似非変態なんだ。
となれば……まだ救いはあるのか?
「私はそうちゃんに監禁されたいの」
「いや、しないから!」
前言撤回。
方向性が違うだけだった。
「えー、好きにしていいんだよ?」
「俺はそういう趣味はない」
「趣味と主義は違うってやつ?」
「そういう主義もねえわ!」
「じゃあ私が勝手にされるー」
「お、おいなにを」
リビングからたたたっとかけていきあまねは俺の部屋へ。
そして追いかけると、あまねは俺のベッドにもぐりこんでいた。
「また立てこもりかよ」
「違うもん。セルフ監禁だもん」
「は? どこが監禁だよこれの」
「私、そうちゃんの部屋から出ないもん。ううん、出られないもん」
「いやいや、そういう子供っぽいのいいから。早く出てこい」
「やだ。そうちゃんが監禁してくれないなら自分でされるもん」
「……ったく」
セルフ監禁とはいかに。
いや、そういうことを真面目に考えたら負けだと何度も言い聞かせてるだろ。
どうせあまねのことだからすぐ飽きるだろ。
「じゃあ好きにしてろ。俺はリビングでテレビ見てるからな」
「絶対出ないもん。ううん、出られないもーん」
「はいはい」
というわけで真面目に対応するのはやめた。
俺はあまねを放置してリビングへ戻ってテレビをつける。
ちょうどプロ野球が始まったところだ。
まあ、あんまり野球は得意でもないし詳しくもないけど、見る分には好きだし。
そういや、あまねは昔っから野球観戦好きだったよな。
大きくなったら一緒に見に行こうね、とか言ってたっけ。
……ほんと、あの頃のあまねはどこ行ったんだよ。
「ふああ……いかん、なんか疲れた」
また、リビングのソファで眠気が襲ってくる。
ただ、こんなところで無防備なまま寝たらまたパンツを盗まれる可能性もあるからと、何回か体を起こしたりストレッチをして踏ん張ってみたが。
変態を相手にすることが予想以上に疲れたのか、俺はゆっくりと落ちていく瞼に抗えなかった。
◇
「……ーん!」
「ん?」
なんか大きな声がした、気がした。
で、目を覚ましたらすっかり夜中だ。
とっさにズボンの中に手を入れる。
「……今日はパンツ、あるな」
どうやらあの変態イリア姉さんは登場していないようだ。
しかし、あまねのやつはまだ部屋にいるのか?
「そうちゃーん!」
「あ、あまね?」
部屋の方から声がした。
あまねが必死に俺を呼ぶ声に、飛び起きて部屋へ行く。
「ど、どうした?」
「そうちゃん! ど、どうしよう」
「ど、どうした? 体調悪いのか?」
「お、おトイレ……」
「トイレ?」
ふるふると震えるあまねがベッドの上に座っている。
「監禁されたらトイレ、いけないよう……も、漏れちゃう」
「い、いや行けばいいだろ」
「だ、だめだよ! だって監禁なんだもん」
「いや、それはお前が勝手に」
「監禁されてるんだもん! でも、こんなところでしちゃったらお嫁にいけないよう」
「だからトイレに行けよ」
「……やだ」
「は?」
「だってイリアお姉ちゃんは監禁ってそう簡単には出してもらえないものだって言ってたから」
「またあの人かよ……いいからいけって」
「……ね、それじゃそうちゃんがちゃんと監禁してくれる?」
「だから俺はそういうのしないって」
「じゃあここでしちゃう!」
「ま、待て待て!」
「してくれる?」
「……考えるから早く行ってこい」
「ほんと?」
「ああ」
「うん、わかった。じゃあ、行ってくる」
急いで部屋を出ていくあまねを見ながらほっと一息。
彼女でもない子に、部屋でおもらしさせたなんて誰かに聞かれたらそれこそ俺のほうが変態扱いされてしまう。
「……でも、なんでそんなに監禁してほしがるんだ?」
今までそんなことを言われたことはなかった。
まあ、あのイリアさんがまたいらんことを吹き込んだってだけなんだろうけど。
とにかく、監禁はまずい。
いくらあまねの家族と仲がいいにしたって、あまねが何日も帰らなかったらさすがに俺もただじゃすまない。
早く帰ってくれないかな。
ていうか起きてよかった。
俺がもし目を覚まさなかったら今頃……ああ、考えたらぞっとする。
「あまねの奴、絶対この部屋には入れてやらないからな」
俺は部屋の前に仁王立ち。
おそらくこの後も部屋での監禁ごっこを楽しもうと、あまねは戻ってくるに違いない。
だから身構える。
が。
「……あれ?」
あまねは戻ってこなかった。
いつまで待っても帰ってくることはなく、俺はそろっとトイレの方へ行くが人の気配はなく。
玄関を見ると、あまねの靴は消えていた。
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