第20話違和感

「……ん?」

 

 違和感で目が覚めた。

 

 部屋は真っ暗。ということはまだ夜中なのだろう。


 で、違和感というのはなにか、という話だが。


 なんか、妙にすっきりしているのである。


「……ん?」


 股間に感じる違和感。

 爽快感。


 これは一体何なのだと布団を剥ぐと、俺の足元からひょっこりと顔を出す幼馴染がいた。


「あ、おはようそうちゃん」

「……そこでなにしてる?」

「え? んー、ぺろぺろ」

「ああ、そりゃそうだよな……って今なんていった?」

「え、ふぇろふぇろ」

「いやうそでしょ!?」


 よく見ると、股間がむき出しだった。


「え、え、え?」

「えへへ、イリアお姉ちゃんの教えでね、『習うより慣れろ』って言われたから慣れるためにぺろぺろしてたらそうちゃんのがいっぱい出たの」

「……いや、俺っていったの?」

「うん。それに私、もう準備万端だよ?」

「……うそでしょ」


 寝るだけ。

 添い寝だけ。

 そう思って同衾を許した俺は、どうやら寝ている間に気持ちよくされていたらしい。


 今回ばかりは間違いようがない。

 このけだるさも、なんかちょっと蒸れた匂いも全部、その証拠だ。


「えへへ、そうちゃんが起きてる時に今度はしたいなあ。私、そうちゃんとエッチしちゃったー」

「い、いや勝手にしたことにするなよ。ていうかなんで勝手にやってんの」

「えー、そうちゃんに聞いたら『むにゃむにゃ、うんー』って言ったもん」

「寝ぼけてるじゃんか! ダメだろそれ」

「でもしちゃったよ? したのに、お嫁さんにしてくれないの?」

「そ、それは……」


 理由はどうあれ、俺はあまねとそういうことをしてしまった。

 されてしまったにしても、だ。

 言い訳の余地が……いや、いくらでもあるけどそういう話じゃなくて。


 どうあっても俺はあまねにそういうことをさせてしまったのだから。


「……責任はとるよ」


 そう答えるしかなかった。


「えへへ、よかったあ。でも、男の人って元気になるまで時間かかるんだよね? 私、一回家に帰って着替えてくるから体力温存しててね」

「ま、待て今は夜中じゃないのか?」

「あ、そうだった。じゃあもっかい寝よ?」

「……いや、俺はいい」

「そうなの? じゃあ私は寝るね。おやすみ、そうちゃん」


 もぞもぞと布団の中を移動して枕に頭を置いてあまねはゆっくり目を閉じた。


 そのあとすぐに眠ったようだが、寝言で「そうちゃんの、おいひい」とか言っていたのを聞いてしまって。


 俺はどうしたらいいのかわからなくなった。


 で、そんな時に都合よくというかなんというか。


 電話が鳴った。


「……もしもし」

「あら、賢者タイムのようね」

「声だけで人の私生活を判別するなこの変態め」


 イリアさんから。

 なんかいつもより嬉しそうなテンションが腹が立つ。


「で、なんですかこんな夜中に」

「いえ、最中だったらあまねの喘ぎ声聞けるかなと思ったのだけどもう事後だったのね」

「最中だったら電話とるか!」

「あら、ゲームの話よ?」

「ゲームで喘ぎ声出すか!」

「私は出すわよ。ほら、昔よくやったでしょ? 負けた方が一個ずつ穴を開発されていくやつ」

「ねえわ! なんだその恐怖の罰ゲームは」

「ちなみにあまねとはエッチしたの?」

「え、いや、それは……」

「たとえ寝ている間であってもやったんなら責任とりなさいよ。気持ちよくしてもらったんでしょ?」

「……覚えてません」

「記憶が飛ぶくらいの快感!? なにそれ、教えなさいよ!」

「なんで急に興奮してくるんだこええよ! 寝てたから覚えてないの!」

「寝バックは寝てるうちに入らないわよ」

「意識がなかったって言ってるの!」

「あなた初エッチで無意識化にまで陥るなんて、相当なつわものね」

「あーもうなんでこうなるんだよ……」


 何を言っても無駄だった。

 ていうかそもそもこの会話が無駄だ。


「あまねはどうだった?」

「なんか習うより慣れろとか言ってましたけど」

「あら、あの子ったら聞き間違えてるわね」

「え、なんて言ったんですか?」

「なめすより舐めろ」

「直球だな!」

「で、舐めたんでしょ?」

「……だから覚えてませんって」

「あら、そこまでしてあげたのに覚えてないなんて、あまねも舐められたものね。あ、舐められたんじゃなくて舐めたんだっけ」

「どっちでもいいですって」

「え、でも舐められてたあまねが舐めて、舐めたあまねが舐められてて……あれ、ちょっとどういうことこれ?」

「知らんわ!」

「あ、69か」

「違うわ!」

「ねえ、ごっくんされた?」

「さ、さあ」

「え、されてないの? だっさ」

「なんでそんなに罵られないといけないんですか!?」


 もう、意味の分からない会話になっていた。

 で、なんで電話してきたんだこいつ。


「彼氏君、私が電話してきた理由はわかる?」

「喘ぎ声聞こうとしてでしょ」

「それは建前よ。本音は別ね」

「……あまねのことを心配して、ですか?」

「ぶー。賢者タイムの男をからかうのが好きなのよ」

「悪趣味だな!」

「あら、賢者タイムなのは認めるんだ。へー」

「い、いやそれはですね」

「とにかく、ミサイルを発射した国にはそれだけの責任が問われるのと同じで、あなたも発射したんだから責任はとりなさいよ」

「……わかってますよ」

「聞き分けがよくて助かるわ。それじゃ」


 電話を切られた。

 俺はもう、あまねから逃げることを許されない状況のようである。


 童貞喪失の日は近い。


 ……でも、あまねに対して俺、何もちゃんとしてないような気がする。


 ちゃんと……ちゃんと、好きだよって言った方が、いいよな。

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